元 元彼 林田 龍
その時
(えっ、何⁈)
視界に人が、寝てる?のが見えた。
(こんな所にまっ、まさか。先客?
きゃー。死体なんて見たくない。
ど、どうしよう。やっぱ、自殺だよね。ぎゃー。
ここは、見て見ぬふりを決め込むか)
しばし、悩んだ末に死体⁈に近づく。
若い男が、倒れこんでいる。
周りに薬の錠剤が、無数に散らばっていた。
自殺だ!!。
(どうしよう。まさか、遭遇するなんて)
顔が、はっきり視界に飛び込んでくる。
「えっ、え-。こいつ、林田 龍!!」
(1年の時、私を振った奴。なんで、こんな所で死んでるの? ハハハ、天罰が当たったんだあ)
なんて、チャラけてる余裕はない。
顔を近づけてみる。息はある。助けなきゃ。
携帯で、救急車を呼ぶ。
住所ー「矢吉良儀から、深く進んだ樹海です」
誰ー「通りすがりのものです」
支離滅裂な、会話だったけど何とか伝わったらしい。こんな所でも、電波が通じるなんてすごい!
しばらくすると、ドローンが頭上に飛んできた。
私は、大きく手を振った。
それからまた、しばらくして頭上に救助用のヘリコプターが来た。上空から、縄梯子が降ろされ、訓練された隊員が2名降りてきて龍の生命確認を素早く行い1名の隊員が背負い梯子に手足をかけると、そのままヘリコプターの方へと梯子ごと2人共回収されていく。その間に、もう一人の隊員の指示によって私も、梯子に手足をかける。その下方にいる隊員が『下は見ないで。手元だけを見て下さい。もう少し上に進みましょう』と、たえず声を掛けてくれ無事ヘリコプターへと乗り込むことが出来た。
そしてすぐに病院へと運ばれ、龍は適切な処置で命はとりとめた。
なんだか、とても複雑な気持ち。
私ったら、振られてばかりじゃない。
助けてよかったのか?こんな奴‥。
私も、ノコノコついてきて。
まあ、どっちにしろ樹海に残れる状況じゃなかったけど。
龍の持ち物は、何もなくズボンのポケットに小銭が数枚入ってるだけ。
私ときたら、死後処理で家族に迷惑かけないように、まとまったお金を残してきたのに。
だって、12月に振られるとは思わなかったから‥‥。
クリスマスとか正月とかイベント用に貯めてたお金。ポケットには、カードが入っている。
なのに、こいつときたら潔いというか。
病院の受付で看護師から、保証人になってくれと言われて断れなかった。
つくづく、馬鹿だなあ。あんな振られ方したくせに。
「俺さ。目標数達成したから、別れてよ。」その時の言葉とともに、龍の顔が頭に浮かぶ。
友達が止めてくれたのもきかずに、学園1のチャラ男と付き合ったバカな私。
『もう、真面目に一人の人に尽くすんだ』なんて、歯の浮くセリフも様になってた。
『100人彼女達成とか言って浮かれていた、大馬鹿野郎』
でも、なんかさあ。
何も言えなかった。
かっこよくて、お喋りが楽しくて、きっと結婚詐欺師とかこんな感じだろうなあ。
一緒に夢を見てたんだ。
でも、夢から覚めたら心はボロボロになった。