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4話 婚約者様には期待しない

 私の婚約者であるハノン様は頭がおかしくなった。


「あ、あのハノン様……」


「ん? なんだいファルテシア?」


「さ、さすがにそろそろ手を離してくれませんか……?」


 王立魔法学園の敷地内に入っても、彼は私の手を握ったまま隣を歩いている。

 その私たちの様子を奇異の目で周囲の学生たちが見ているのも当たり前。

 イグナス家と言えばこの学園内においてもトップクラスの大貴族で、その息子ともなれば入学以前より彼への関心度は高く、今でも学園内にて男女問わず彼の寵愛を受けようと纏わりつく者は多い。


 そしてそんな彼は一昨日まで、私の事など冷たくあしらっていたわけだ。


『ファルテシア・エルザーグはハノン・イグナスの婚約者でありながら彼に嫌われている』


 そんな噂はもう随分と前から学園中に広まっており、私の事を嘲笑う者もいれば同情の目で見る者もいる。

 つまりはこのようにハノン様とこうして二人一緒に通学してくるなんて光景は本来あり得るわけがないのだ。


 ましてや手を繋いで、など。

 

「何故だ?」


「その……(わたくし)はこういうのに慣れてない、というかそもそもハノン様は先日までこのような行動を取る方ではありませんでした……」


「え? あ、そ、そうなのか……すまない……」


 ハノン様は少し困ったような顔をしつつも、そっと手を離してくれた。


 今日、学園に着くまでの道中にハノン様から少し事情を聞いてみた。

 やはり彼には前世の記憶、異世界での記憶というものが強く甦っているらしく、今もその状態らしい。

 そのせいで自分は時折、奇妙な行動をしてしまうかもしれない、と私に伝えてきたので、一応ハノン様ご本人でも自覚はされているようだ。


「それじゃあ私は先に行くよ。また帰り、キミの教室へ迎えに来る」


 ハノン様は察してくれたのか、そう言い残して小走りで学園の教室棟に向かって行った。


 前世の記憶のせい、か。

 それにしたとしても、彼の変わりようは異様だ。まるで人が変わってしまったように感じられる。

 やはり彼の頭はいくらかおかしくなったとしか考えられない。

 学園に入ってから、こんな事ただの一度もなかったのだから。


「帰りも迎えに来てくれるんだ……」


 私は彼の背中を見て、そう呟いた。




        ●○●○●




 先日。


 石がハノン様の頭にぶつかる直前。

 あの日、あの時まで、確実にハノン様は私の事を避けていた。

 

 それが一変してしまってから、私の学園生活も当然変化が訪れた。


 教室中から聞こえるひそひそ声。ところどころで耳に入る私やハノン様の名前。

 完全に今朝の状況について変な噂が立っているのは間違いがない。


 ただなんというか、クラスメイトから直接それについて聞かれる事はないだろうと思っていた。

 私とハノン様の関係は触れちゃいけない、タブーみたいな扱いにされていたからだ。


 だから。


「おはようファル。……ねえ、聞いたよ? ハノン様となんかあったの?」


 こんな風に私へと直接聞いてくるのはいつも遅刻ギリギリに教室へやってくる親友のスフィアぐらいなものだった。


「おはよ、スフィア。うん。ハノン様は頭がおかしくなっちゃった」


「は?」


「昨日ね――」


 私はやっと来てくれたスフィアにだけ、簡単に説明をした。

 と言っても頭に石がぶつかって、それから情緒不安定になっちゃった、くらいの本当に簡単で適当な説明。


「……へえ。といってもわけわかんないね」


「うん。私もわけわかってない」


 そうなのだ。

 私だってわけがわかっていない。

 前世の記憶、とやらの事は伏せておいたが、それにしたってあの変わりようはおかしい。

 だから、これ以上説明しようがないのだ。


「でも、もしまたハノン様に嫌な思いされるくらいなら、なるべく近寄らない方がいいよ。傷つくのはファルだけなんだから」


 スフィアはとても頭が良い。

 魔法学でも成績は常に上位だし、何より物事をしっかり自分の観点から見ている。

 だからこそ、私の事をよく見て、理解してくれているのだ。


「うん、ありがとうスフィア」


 わかってる。


 私はもうハノン様を好きにはならない。

 この三年間、彼から避けられ、ようやく自分は彼の婚約者でもなんでもないんだとふんぎりを付けてきたんだ。

 もう変な期待をしない事を心に決めておいたのだから。



 と、胸の内に刻み込んでいたはずなのに――。


 


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