表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/15

2話 頭がおかしくなった婚約者様


『あ、もしかして本物のファルテシアさん?』



 この日。


 私は学園の中庭にあるテラスで、この後きっと婚約を解消する話を切り出されるのだろうなと思いながら黙々とハノン様と二人きりで味のない昼食をとっていた時だ。

 

 どこからか飛んできたやや大きめの石がハノン様の後頭部にスコーンッ! と、勢いよく当たった。

 彼は飲んでいた紅茶をぶはッと派手に吐き出しながら、テーブルにつんのめっていたのを私は唖然とした表情で数秒見つめた直後、ようやく我に返り「だ、大丈夫ですかハノン様!?」と、問いかけた後の開口一番のセリフが、さっきのそれである。


「流麗なプラチナブロンドの髪、透き通るような琥珀の瞳に、ちょっとだけある鼻の上のえくぼがチャームポイント……うわあ、ファルテシアさん、僕の想像通りでガチで超可愛い! 嬉しいなあ。って事はあれ、あれ!? これもしかして僕、ハノンだったりするのか!? ……うん、この魔法学園の制服を少し自分流にアレンジして着用しているのは間違いなくハノン・イグナスだ! うおお……マジか。マジで異世界か!?」


 などとハノン様は意味不明は事ばかりをしばらく繰り返していたので、本当に頭に大きな怪我を負っておかしくなってしまったのだと大変に心配し、私はすぐに医者を呼んで彼を診てもらったのだが、なんの異常もなかったと診断された。


 それもそのはず。私が連れてきた医者が来てからの彼は、


「ああ、すまない。少し混乱していたようだ。まだ少々頭は痛むが私はなんの問題もない。すまなかったなファルテシア、心配をかけた」


 と、ほとんどいつも通りの感じに戻っていたからである。

 ……というか、えくぼの事は気にしているから触れないでって幼い頃に約束していたはずなのだけれど。


 一時的に記憶が混乱していただけなのかと私も思っていたのだが、その日の学園からの帰り、私が一人きりになったタイミングで私の傍にきてこう告げたのだ。


「すまない、ファルテシア。まずは謝らせてくれ。そして今、私に起こっている現状について簡単に説明させてほしい」


 ハノン様曰く、彼は前世の記憶が(よみがえ)った、らしい。


 今ハノン様には二つの記憶が同時に混在しているらしく、ひとつはこれまでハノン・イグナスとして過ごしてきた記憶。そしてもうひとつはイクル・ハシモトという名の、ニホンという異世界の男性の記憶、だそうだ。


 後頭部に強烈な衝撃を受けた直後の彼は、一気に前世の記憶が蘇りすぎたせいで一時的にハノンとしての記憶が薄れていたらしく、あのような感じになってしまった、のだとか。


「だが安心してほしい。私は確かに異世界、イクルの記憶を持ちながらもまた、ハノン・イグナスでもあり()()()()()()婚約者であることもまた変わりはない」


 口調と雰囲気は確かにもういつものハノン様ではあるが、やはり私には俄かに彼の言葉を全て受け入れらなかった。

 だって彼の口から「キミを愛する」なんて言葉が飛び出るわけがなかったから。

 そんな事をハノン様が言うはずがない。



 ――だからこのハノン様はやはり頭がおかしくなってしまったのだ。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ