プロローグ 〜そしてエピローグへ〜
「聞け! ファルテシアッ!」
王立魔法学園の卒業パーティーにて。
18歳を迎える貴族の卒業生の他、学園の教師、そのパートナーや知人、友人たちだけで集められた盛大な夜会。参加予定のメンバーが漏れなく揃い、まだパーティーが開始され間も無い頃。
突然、よく通る声で会場中にそう響かせたのは私の二つ歳上の婚約者であり、やや鋭い目つきではあるものの端正な顔つきで輝く様な銀髪がよく似合う美男子、イグナス家の嫡男、ガノン公爵令息のハノン・イグナス様である。
「今日この時をもってキミとの婚約は破棄させてもらう! この一年、もう一度やり直してみようと考え直してみたがやはりもうキミにはうんざりさせられたッ! おかげで私は別の女性と婚約する決心を付けたぞ!」
確かに以前までの彼の性格から考えるなら、私との婚約を破棄するのは当然、の流れなのだけれど……。
どちらにせよ私には何が起きたのかわからずその場で硬直していると、
「おっと、文句を言いたいところだろうが、残念ながらその相手は今日この場には来ていないぞ。とにかくキミとはこれまでだ。わかったな? わかったのなら早々にこの場から出ていくがいい。もはや婚約者ではなくなったキミがこの卒業パーティーに参加している意味などないのだからなッ!」
彼は不敵な笑みを浮かべつつパチンっ、と奇妙なウィンクを私に投げつけてきた。
私は静かに頷いて見せ、
「……婚約破棄、承りましたハノン様」
そう言い残し、この学園卒業パーティーの会場から走って逃げ出したのである。
やっぱり私の婚約者は頭がおかしい。
一年前のあの日。
彼の頭がおかしくなってしまってから、私には彼の事がよくわからなくなっていた。
けれど、彼はもうこんな事をしないと思っていたのに。
今の彼なら、絶対に。
こんな。
こんな酷い婚約破棄の仕方など――。