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仮面の王子と隣国の醜い王女  作者: 恋瀬 東吾
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宝塚で演って欲しいと思って書いた小説

ルーク王子(第二王子)

リリー王女(隣国の王女)

ヘンリー王子(第一王子)

ラファエル(第二王子のお付き)

アルネ(リリー王女の付き人)


広間でヘンリー王子他大臣が集まっている。

仮面を付けたルーク王子の横にはラファエルが控える。三日後の隣国の王女との婚約を前に皆を集めて最後の宴会が開かれている。

傍若無人に振る舞っていたヘンリー王子の年貢の納め時と大臣達はいつにも増して賑やかだ。

影ではヘンリー王子の御怒りを受け処罰された歴代の大臣を惜しむ声も聞こえている。

ヘンリー王子が声高らかに言った。

「隣国の王女との婚礼が終われば私は今よりも更に強大な力を得るだろう!皆も喜べ」と…

そして第二王子のルークには「お前の面倒は俺が最後まで見てやるから安心しろ」と言った。

ラファエルがすかさず筆記でルーク王子に伝えるとルーク王子が伏せてお辞儀をした。

大臣らがルーク王子の悲遇を嘆く。


先王の寵愛深いルーク王子の母への嫉妬から、王妃の侍女が未だ赤子だったルーク王子を暖炉へ投げ入れたのだ。ラファエルのおかげで命は助かったものの片目は潰れ耳もほとんど聞こえず、醜い痕を仮面で隠している。そんなルーク王子を皆が哀れんでいた。

ただルーク王子はそんな身の上を嘆くでも無く仮面の下ではいつでも微笑みを浮かべている、そんな王子を目にしては皆は更に王子を哀れんでいた。


その日の夜、城下の街では侍女1人を伴って隣国のリリー王女がマントを被り視察に出ていた。

悲鳴が聞こえた様な気がして振り向くと金の紋章が裾に記された赤いマントの男性が嫌がる女性を連れて行くところだった。慌てて追いかけようとするも侍女のアルネに止められた。

暫く散策をし、お腹が空いたので店に入ると先程見かけた赤いマントの男が店の女性と戯れながら「三日後に婚約するので有ればせいぜい今のうちにやりたいようにするさ、後悔しない様にな、さっきの様なウブな女を食ったところでバチは当たらないさ、運良く王子の烙印が有ればあの女も喜ぶであろうよ」と言った。

そう赤いマントの男はヘンリー王子だ。


頭に血が昇ったリリー王女が堪られず、ヘンリー王子の頬を叩いた「恥知らず!」と。

憤慨する王子が何か言い出す隙に、もうアルネに引っ張られ逃げ出していた。

「さっきの女を捕まえろ!」と指示した後、ヘンリー王子は「あの女誰かに似ている…」と呟き暫く考えた後「あの方か…」と笑みを漏らした。


一方リリー王女は追ってをかわし護衛が待つ宿へ戻った。

父からは醜い第二王子では無く、麗しい第一王子に嫁げるのだ!喜べ!と言われたがなんと心の醜い王子なのかと憤慨している。

リリー王女は深刻な顔をしてアルネに言った。「私、第一王子とは絶対に結婚はしないわ!アルネ私に力を貸して」と頼んだ。


盛大なファンファーレが鳴り響く中、アルネに手を引かれリリー王女が登場した。

その姿を見て集まった人々から声が漏れた。

なんとヘンテコな王女なのか…

髪は収集が付かない程のグリグリヘアーを何とか結っているが、顔はそばかすだらけ、大きな牛乳瓶の底の様な眼鏡をかけており唇はガサガサで色味が無いのに比例して、何故か鼻が真っ赤に腫れている。どう見ても決して可愛いとは言えない容姿に会場からは響めきが起こった。

それを見てヘンリー王子の口は怒りに震えた。


暫くして冷静を取り戻した王子は昨日追ってを巻いた女がこの王女の護衛の中に消えた報告を受け侍女の中に居ないかと目で探すが見当たらない。

ヘンリー王子は再度赤鼻の王女を見て「ルーク王子は居るか?」と言い、側に来たルーク王子の肩を抱きしめると「私は可哀想なこの弟を残して結婚をすることに躊躇っていたのだ、どうだろうか2人が良ければ私では無く弟と婚約してみたらどうか?」と言った。

余りの事になんて卑劣な男だろうと、リリー王女は怒りで手が震えた。


伏せていたルーク王子はラファエルから説明されると「私は構いませんが、王女には到底承諾出来る事ではないでしょう。私の様な醜い者と婚約など王女には申し訳有りません」と涼やかに言った。流石にいつもは笑みを絶やさないルーク王子からも笑みが消えている。


その声を聞いて覚悟が決まったのかリリー王女が震える声で「わ、私は構いません…どの殿方でも、、、」と言うとヘンリー王子が声をあげて笑いながら「全く純真な王女様ではありませんか!良かったな弟よ」と笑いが止まらない。

事を成行を見ていた人々が引いているにも構わず続け、ヘンリー王子は声高らかに「一時置いたのち、改めて2人の婚約の祝賀をしよう」と言い渡した。


それぞれ一旦控室に戻るとアルネは王女の前で泣きながら「我が国で1番美しいと言われた王女があんな侮辱を受けるなんて」と嘆いた。

声の大きさを咎めた後「1番なんて言い過ぎよ(笑)でもこれであの男の本性がわかったし、あの男との結婚が無くなって良かったわ」と言った。


ルーク王子の側ではラファエルが小声で「王子、先程はヘンリー王子のお言葉に反応しておりました。お気をつけ下さい」と言った。


華やかに舞踏会が開催された。

ヘンリー王子に促されルーク王子とリリー王女はダンスをしていた。皆2人を見て何か囁いているが2人は介さずに踊っている。

暫くするとリリー王女が吹き出した。笑いが漏れたリリー王女に耳元で「何か面白い事でもありましたか?」と言うと王女はビックリしながら「聞こえるのですか?」と尋ねた。

ルークは近くならば、と答えもう一度訪ねた。リリー王女は「ダンスがお上手だからつい」と言い、直ぐに「ごめんなさい」と謝った。

今度は王子が笑いながら「ラファエルが師匠です」と答え「私の事が怖く無いのですか?」と聞いた。

王女は暫くダンスをしながら考えた後「貴方の声と手の温もりがとても落ち着きます」と答えた。


一方ヘンリー王子はつまらなくなった会場を眺めながら1番侍従のドルクに昨日の女は見つかったか訪ねた。返事を受けた後必ず見つける様に更に命令をした。

ヘンリー王子は思い出していた。

あの方、父上の妾でルークの母アーシャを。


実の母は父上と上手く行かない事を幼い自分を痛めつけてうさ晴らしをしていた。

冬の月の様に冷たく綺麗な女だったがアーシャは春の太陽の様な人だった。

アーシャは城に来てから直ぐに私を見つけ、いつも手当てをし、慰めてくれた。

彼女に抱きしめられると花の香りがした。

母に愛されない分、彼女を思慕し、いつしか異性として恋慕した。

でもあの女も父の女に違いなかった。 その事実ルークが生まれて私はあの女を憎み、彼女が与えようとした愛を拒み続けた。

あの女、やはり似ている。

ヘンリー王子はお付きの者に声掛け宴を抜けると共を連れ街へ繰り出して行った。


ルーク王子の居城で暫く暮らすことになり

リリー王女とお付きの者数人が移って来た。

森に近く静かな城は見るからに荒れている。

余りの荒れ様にアルネは口を開けている。

「本当にここで暮らすのですか?」とリリー王女に聞いてみるとリリー王女は「当たり前でしょ!荒れているならなんとか綺麗にすれば済む事だし、働き甲斐があって良いわ」と言った。


居間に入るとルーク王子とラファエルが待っていて出迎えてくれた。

挨拶もそこそこにラファエルがリリー王女の侍従や護衛に色々と説明して行く、ルーク王子とリリー王女は何となく取り残されてしまった。ルーク王子が「汚いところで申し訳無い、ビックリされたでしょう?」と言ったので「正直ビックリしました。なんで手入れをしないのですか?」と聞くと「すいません」と謝るので「別に責めていません!」と言うとまたまた「すみません」と返すので2人で笑ってしまった。

「私にやらせてもらえますか?、何もやる事が無いよりマシです」と笑顔で言うリリー王女を見て王子は何故か胸が熱くなった。


暫くすると城は見違えるように綺麗になった。毎日リリー王女や侍従達の笑い声が響いている。

今はリリー王女とアルネと何人かの侍女達が庭の手入れをしている。その様子を2階のバルコニーから眺めて居たら「楽しそうですね」と言いながらラファエルが並ぶ。

「リリー王女が来てから城が生き返りましたね、毎日何かしら事件があり大騒ぎですよ」とこの男には珍しく笑っている。

ルーク王子はリリー王女を見ると何かしら楽しい気分になることに気付いていた。王女の周りはいつも笑顔が溢れている。まるで温かな春の木漏れ日の様だと思った。


ラファエルが「王子今日は満月が1番大きく見える夜では無かったですか?夕食の後に姫や侍従達を誘って月見などいかがでしょうか?」と言うので「それは良いな、皆の慰労を兼ねて催そう」と言ってラファエルに指示をした。


リリー王女や王女に従って来た侍従達は明るすぎる月を見上げて大いに楽しんでいた。

料理は初めてこの城に来た時もビックリしたが全てが美味しく珍しいものばかりだった。

酒も色んな果実酒や発泡している物などどれも美味しく皆遠慮なく食べて呑んでいる。


ここの料理は片目が見えない料理長と生まれつき身体が小さい双子の兄弟が作っている。

畑や森の管理は耳が聞こえない老父と妻が

細々とやっており、双子の兄弟は野良仕事を手伝い、料理長は木の管理を手伝っている。

他は掃除や洗濯をする、やはり口が聞けないメイドがおり、このメイドはラファエルの歳の離れた姉で、王子やラファエルとは手話で会話をしていた。王子とメイドはまるで本物の姉弟の様に仲が良く王子が心を許しているのがよく分かった。


野菜は採りたてで、キノコや山菜、木の実をふんだんに使った料理や、木苺や葡萄を使ったスイーツに、色んな酒がありどれも素晴らしかった。

皆のあまりの食欲に途中でリリー王女が心配して、王子に詫びに来るほどだったが、森には未だ未だ沢山の食材があるので心配しないようにと王子は皆に言った。

王子の城の者も途中から参加し意気投合して騒いでいる。

満月の明かりの下で皆が笑い合っている光景を見ながら王子は胸が熱くなった。

この時間が永遠に続けば良いと願い、その為に自分が出来る事は何でもしようと決意していた。


リリー王女は城で働く全ての者が生き生きとしていて、皆丁寧で優しい人柄であることからルーク王子を密かに尊敬していた。

顔は半分以上見えないが笑う口元や鼻筋が綺麗で思わず見惚れてしまう。

宴は大いに盛り上がり火を囲んで皆が踊りだしていた。その様子を見ていたリリー王女に王子が自分のマントを掛けた。「夜は冷えますので良ければ使って下さい」と言うと王女は素直に応じて微笑んだ。


その笑顔に王子は照れてしまい王女に掛けたマントのフードを王女に被せからかうと、王女は笑いながら怒った。

本当に冷えていたのでそのままにして眺めているとアルネが王女と王子を呼びに来た。

断る二人の腕を引っ張って踊りの輪に加えると二人は見よう見真似で踊り出した。

直ぐに周りから冷やかしの歓声が起こる。

腕を取り、跳ね回っていると楽しくて二人も笑顔で応えた。それを見たラファエルまでもが踊り出したので宴は最高潮に盛り上がっていた。


その様子を見ている人影があった。ヘンリー王子が街に出た帰りに所縁の女宅へ行った帰り道で通り過ぎようとしたところ騒いでいる声が聞こえたので馬を降り確認するとルークの居城で宴がされていたので様子を伺っていた。


楽しそうな笑い声に一瞬こちらも笑顔になりそうだったが直ぐに厳しい顔に戻った。ふとルークと一緒に踊っている女に見覚えがあり、もしやあの女か?と思った瞬間にフードが取られた。現れたのはあのモジャモジャ頭だったのでリリー王女だろう。

ヘンリー王子はお付きのものに「随分仲良くなったもんだなぁ〜ルークと王女は」と言うとお付きの者が「あのヘンテコな見た目同士で全くお似合いですな」と言って笑うので釣られて笑いながら馬に乗り去って行った。


宴の日を境に王子と王女の距離は近づいていった。

朝は一緒に散歩をして一緒に朝食を取り、王子が領地を回るのにも王女は同行した。

最初王子が王女を馬に一緒に乗せようとすると王女は一人で乗ると言って軽々と乗りこなし王子を驚かせた。結果ラファエルの乗る馬と3頭で視察に出かける様になった。

領地を回っていると必ず誰かしらが話し掛けて来るし、色々な物をくれた。

子供から老人までが王子に親しく接しているのを見て王女はいつしか王子に特別な感情が芽生えているのを感じていた。


リリー王女やお付きの者達が城の生活に慣れた頃、リリー王女とアルネの警戒心も大分薄れたのか、その日は朝寝坊をしてしまい慌てて着替えると王子の待つ部屋へ向かった。

ルーク王子に遅くなった事を詫びるといつもと同じく優しく微笑み紅茶を入れてくれた。

未だ眠そうなアルネにも紅茶を渡し王女に向き直すと急に王子が固まって動かなくなった。


「王子?どうしたの?」とリリー王女が問いかけても固まっている。「王子?王子?」と何度か呼びかける王女を見ていたアルネが驚き「ギャッ!」と声を上げて紅茶の器を落とすと、今度はその音を聞いてラファエルが飛び込んで来た。

「どうかしましたか?」と聞きながら部屋に入ったラファエルが見たのは、見知らぬ様なリリー王女と固まって動かない王子とそれを見て凍りついたアルネの3人だった。


アルネの様子にリリー王女も自分が全く髪も鼻も眼鏡も何もせずに来てしまった事に気付いた。固まる王子に「すみません、実は嘘を付いていました」と詫びた。

ラファエルが「何か事情がおありなのですね」と言い、王子に「ゆっくりお話を聞いた方が良いですね。食事は後にして話を伺いましょう」と言って王子と王女を促して座らせると、アルネに紅茶のおかわりを貰ってくる様に指示し割れた器をさっさと片付けた。


アルネが紅茶を持って戻るとラファエルにテーブルに一緒に座るように言われたので王子、王女、ラファエルの紅茶を渡すと自分の分を持ってテーブルについた。

未だ王子は呆然と王女の顔を見ていた。

そんな王子の視線を見つめながら王女は話し始めた。

お見合いの話しが出たところから内緒で視察に来た事、そこで見たヘンリー王子の乱行と止めに入って揉めて逃げた事、お見合いを潰す作戦で変装した事、その流れで此処へ来た事まで全て包み隠さず話した。


静かにリリー王女の話を聞いていた王子は途中から悲しそうな顔をしていた。全てを黙って聞いた後、王子は言った。

「兄の件もお見合いの件も本当にすみませんでした。成り行きとはいえ貴方が望まないのに此処へ連れて来てしまった事をお詫びします」と言うとそのまま部屋を出て行ってしまった。その後をラファエルが追って行った。


残された王女は一気に暗い顔をして泣き出した。アルネも王女の悲しみが分かり一緒に泣きだすと王女が「私、王子を騙していたのだから仕方ないけど、王子のことが好きなの…どうしよう、王子を本当にすきになってしまったのよ」と言いながらボロボロ泣く王女の背中をさすりながらアルネも泣いていた。


追いかけ引き止められた王子にラファエルが「王子どうされましたか?大丈夫ですか?」と聞いた。

いつもと違う王子の様子にラファエルも驚いている。王子は暫く黙ると意を決した様に言った。「王女を国に返さなければ、元々兄と結婚しない為に仕方なく私の元へ来たのだから…」と悲しそうに言うので、ラファエルは「王女の気持ちを確かめてからで良いのでは無いですか?」と言った。

王子は首を振り「あんなに綺麗な王女が私を好きになるハズ無いだろう」と言うので、またラファエルが「王子、王子もリリー王女に嘘をつかれているのでは無いでしょうか?王女の気持ちを確かめる前に王子も本当の事をおっしゃったらどうですか?私は王子をお守りして来ましたが、王子を幸せにはしてあげられませんでした。王子が望みを叶えて幸せになるのが見たいのです!」とラファエルが涙を溜めて言った。


王子はラファエルが泣くところなど想像した事も無かったので慌てた。そして「お前は私を守るだけではなく、沢山の愛情も幸せもくれた。お前が居るから今私はここに居られる。城の者も村の皆んなも沢山幸せをくれるのは全てお前が私を導いてくれたからだ」と同じく涙ながらに言った。


ラファエルはその言葉を聞いて我慢出来ず後ろを向きひとしきり泣くと涙を拭いて振り返り「では私の助言をきいてくれますね!王女を返す前にきちんと自分の気持ちを話して下さい、良いですね!」と笑顔で言った。


部屋に戻って悲しみに暮れていた王女のもとにラファエルが来た。応対に出たアルネの顔は王女と一緒に泣きすぎて目が赤く瞼が腫れていた。

そんなアルネにラファエルは優しく微笑むと頭をポンポンと叩いて慰めた。それに反応してまたアルネが涙を零した。

それを手で拭いてやりながら「王子がリリー王女を呼んでいます。落ち着いてからで良いので中庭の王女が作った花壇の前に来て下さい。もう変装はしなくて良いです」と伝言を頼むとアルネに片目を瞑り笑いかけた。


アルネはラファエルの仕草で気分が明るくなった。きっと王子は良い事を王女に言ってくれるに違いないと思い、落ち込んでる王女を無理矢理着替えさせ支度を済ませ最、終宣告を受けるような面持ちの王女を無理矢理引っ張って中庭に連れて行った。


王女は中庭の花壇の前に立つ王子を見ると急に悲しくなり涙が出て来てしまった。

王子はすぐに気付き小さく微笑むと王女を促しベンチに腰掛けた。二人から少し離れてアルネとラファエルが立った。

王子は王女の涙を手で拭くとそのまま話し始めた。


「実は私も貴方に謝らなければなりません。私も貴方に嘘をついていました…私の仮面も偽物です」そう言うと王子は自分の仮面を外した。あまりの事に王女は息を飲んだ。流れた涙の跡もそのままに目を見開いている。

暫く王子の顔を見ると目を瞑り、もう一度ゆっくり開き王子の顔を覗き込んだ。


王子の顔は頬の一部と耳の下首筋に少しの火傷の跡があるだけで何も醜い跡など無かった。

それどころか綺麗な二重の目に長いまつ毛、鼻筋が通った小ぶりの高い鼻に美しい口元、透き通るような肌をしていた。

余りの美しさに暫く見惚れてしまった王女が我に返って「どうして仮面など付けていたのですか?まさか耳も聞こえていたんですか?」と聞くと王子がバツが悪そうに笑って頷いた。

それを見て王女が真っ赤になって起こり出した。「耳が余り聞こえ無いと言うから大きな声で話したり、近くに行って話していたのに、からかってたんですか?信じられない」と捲し立てて怒った。

そんな王女を宥める様に手を取り抱き寄せると王女は王子の腕の中で文句を言いながら王子の胸を叩いた。暫くして落ち着くとすまなさそうな顔をした王子を見ながら、「全部話して下さい」と強い目で言った。


王子の部屋に行くとラファエルがリリー王女とアルネに話始めた。

王子が幼い頃に火に投げ入れられた事や王子を守る為に仮面を付け耳の聞こえないフリをさせていた事、手話はもともとラファエルのお姉さんと話をする為に覚えていた事などを話し終わると、王子が「黙っていてすみませんでした。貴方が仮面を付けた私を怖がらずに接してくれていたので話す必要がないと思っていました。ただ貴女の嘘は私には申し訳なくて、全てを打ち明ける事にしました。

貴女の様な聡明で美しい人が私なんかを相手にしてくれるかどうか自信が無かったのです」と言うと「私こそ貴方に相応しい程価値があるとは言えません」と王女が言った。

すると王子が王女の手を取り「私の心は仮面の顔と同じです。隠して逃げてばかりいる情け無い男です。ただ、貴女は…貴女を見ていると勇気が湧いてくるのです。貴女や私の周りの大切な人を守りたいと真剣に思うのです。貴女が私を変えてくれました。貴女が好きです。こんな私で良かったらずっと此処にいてくれませんか?」と真っ直ぐに見つめながら言った。


王女が答える前に、もうアルネが泣き出した。声を上げて泣くので王女と王子は目を合わせて笑いあった。王女は笑いながら涙を浮かべて「私も貴方が好きです。此処に居させて下さい」と答えると王子がいきなりキスをした。

そんな2人を見て更に泣き出すアルネの肩をラファエルが抱いて慰めた。ラファエルとて主人の幸せを嬉しく思う気持ちはアルネと一緒だった。


それからはリリー王女は変装は外出の時だけにした。最初驚いていた城の者達も王女に理解を示し、今では皆が心だけでは無く美しい王女を自慢に思っていた。

ただ相変わらず王子は城の中でさえ仮面を外さなかった。ラファエルは引き続きヘンリー王子を警戒しており、王子の素顔を知っているのは王女以外はラファエルとラファエルの姉、アルネの3人だけだった。ラファエルは王女とアルネに絶対王子の事を洩らさない様お願いをしていた。


最近ではヘンリー王子の政に不満が募り、ヘンリー王子の品格や品行に異議を唱える貴族が増え、その為ルーク王子を推す貴族や政治家が増えていた。

ルーク王子にその気は全く無かったので、ラファエルが代わりに話をして何とか落ち着かせている状況だ。


ただ、ルーク王子の領地が落ち着いており、また領民が良質な農産物や特産品を誠実に取引きする為、王子と交流したい権力者が後をたたず、王子を訪ねて来る。

王子に会った者は皆一様に仮面を付けた容姿に最初は驚くが、王子の物腰、また気さくで飾り気の無い誠実な人柄、統治する姿勢や思想に感銘を受け、希望する取り引きが出来なかったとしても友好関係や協力を約束して帰って行く。


ラファエルはルーク王子が兼ね備えているリーダーとしての資質に気付いていた。

王子は教えた事以上に他者に思いを寄せ、思考を広く持ち、人を惹きつける魅力が有り、柔らかく優しく控えめで有りながらも、未来を創造するための努力を惜しまない強さを持っていた。

本人に自覚は無いが、王子はもっとも、王に相応しい人柄だった。

だからこそ隠さなければならない。

ヘンリー王子に潰されぬ様にラファエルが守ってきたのだ。

ただそれも限界に近くなっている。

近い将来必ずヘンリー王子がルーク王子を殺しに来るだろう、その時王子を守るためには、、、と、ラファエルは想いを馳せるのであった。


そんな風にラファエルが王子を守る為に準備をしている事など知らない王子はリリー王女が自分を受け入れてくれた事に今まで味わった事のない喜びを感じていた。

大切な者は沢山居たが、それとは違う愛を知った。王女が愛おしくかけがえのない存在になって行くと同時に王女を守りたいと強く思った。また、王女も同じように思ってくれているという自信も生まれた。同じく領民を守り平和で皆が笑顔でいられるように、それを守る為に強くならなければと決意を固めていた。


王女は幸せの絶頂にいた。愛する人が目の前にいて自分を愛してくれている。この事に感謝する気持ちが溢れてくる。この幸せを守りたい。優しく穏やかな皆んなの幸せを王子と共に支えたいと思った。

王女もまた王子と同じく女王の資質があった。王女は自国の父に文を書く事にした。多分第二王子のもとに来た自分を心配しているに違いない。

最初に此処での暮らしの楽しさや元気でいる事を伝えては居たが、今は違う。

王子の人柄や領地の素晴らしさ、またその王子を心からお慕いし、此処にいて王子と一緒に生きて行きたいと言う思いを父に知らせよう。

そして祝福して貰いたいと心から思った。

直ぐに文をしたため王女について来た護衛に託した。


いつもの様にラファエルの姉とアルネが給仕をしてくれ2人で夕飯を食べた後バルコニーから星を眺めていた。

森から梟の鳴き声が小さく聞こえている。綺麗な夜だった。

王女が「父に文を書きました。私達の結婚を祝福して欲しいと書きました」と言うと王子が「お父様には大変申し訳なく思っています。王になる兄に託した貴方を私が娶ることになってしまった」と済まなさそうにいった。王女は暫く考えて笑い出した。

「父のビックリした顔が浮かびます。」と言ってクスクスと笑い続ける。

王子が「まさか仮面をつけた弟と結婚するとは思って無いでしょうから」と言って笑った。

王女は「貴方の人柄は私の侍従からの報告で分かっていると思います。父が驚くのは私が自分からお願いした点です。結婚や国を離れる事を嫌がっていましたので、ただ本当の貴方を見たら腰を抜かすでしょうけど」と言ってまた笑い出した。

この時はその日が案外早く訪れるとは思わずに話をしたのだが…


この日、王子はいつもと同じ様にリリー王女とラファエルと3人で領地を視察した後、森でキノコ取りをしていた木こりの夫婦から誘われて珍しいキノコを取りに行く約束をした。

王女とラファエルを城に残し夫婦の待つ森の泉に着くと足を挫いた老人を介抱していた。

老人は猟銃を持っている。

木こりの夫婦が王子の森では乱獲を防ぐために狩は決められた者が決められた数しか取ってはいけない事を言うと「そんなもんは知らん」と言って怒り出した。

「随分と了見の狭い王子じゃのー、独占欲が強いのか?」と文句を言うので木こり夫婦の旦那が怒って掴み掛かろうとしたので王子が止めに入った。


いきなり現れた仮面の王子に老人は驚き衝撃を受けている。

王子が「驚かせてすみません。知らなかったのなら申し訳無いです。猟を楽しみにいらっしゃったのならすみませんでした」と謝ると老人も「ワシも知らずに来てしまったので済まんかった」と素直に応じた。

王子は老人に「足乃状態によりますが、良ければ私に領内を案内させてくれませんか?」と申し出ると老人は渋々という体で頷いた。

王子は木こり夫婦に約束を延ばして貰い老人と歩き出した。


「ここは青池と言って魚が多く釣れますよ」と王子が言って森の中の池を指さす。

それを見て老人が「猟はダメで釣りならいいのか?」と王子に言うので、王子は「領地には湖や池や川があります。毎日は禁止しておりますが週に2日はしてもいい決まりになっています。一日中釣りをしても取れる量はそれほどでもないので」と言って笑った。

老人は「皆が2日の約束を守るとは分からんのでは無いか?」と言うので王子は「皆の判断に任せて居ます。やり過ぎたなら自分が1番分かりますし、やらなければいけない事情があるなら仕方有りません」と言って静かに微笑んだ。


そう言う王子を見て老人は何だか急に恥ずかしくなった。

王子の卓越した考え方にいつの間にか魅了されていた。

王子が「もし猟をしたいのなら祭りの時にいらして下さい、年に一度皆で豊漁祭りをします。その時ばかりは資格の無い者も参加出来る狩をします。こちらで獲物を離し獲った者に褒美を出します。ただ獲ってみないと優勝かどうかは分かりませんが」と言って笑った。


どう言う事か気になり老人が問うと「その年により一等の獲物を変えます。兎だったり鹿だったりと、そうすると皆は自分の得意な物だけを追うので、獲物は集中しません。なので乱獲は防げます。優勝の獲物を発表した時の皆の顔が面白くて…」と言って思い出し笑いをする。

そんな王子に釣られて老人も笑い出した。「是非参加したいものです」と言うと王子は日にちを教えてくれた。

領内だけで無く近隣の者達も登録すれば参加が出来、街の祭りも楽しんでもらうと説明した。


老人はその後も森から畑、街などを王子に付き添ってもらいながら一通り見学すると王子が「よろしかったら家まで馬車でお送りします」と言うので、出来れば王子のお住まいを見てから帰りたいと言って城まで一緒に戻って来た。城の近くまで来ると笑い声が聞こえて来た。「何だか賑やかですな」と老人が言うと王子が笑いながら「はい、城の中は毎日がお祭りのようです」と言うので老人は足を早めた。


潜戸を抜けると泡が飛んできた。何かを皆で洗っていたようでふざけて泡を投げ合っていた。老人の頭にも飛んできて避けきれずにくっつけたまま立ち尽くしていた。王子が「大丈夫ですか?」と言って拭こうとすると、今度は王子が後ろから泡を頭に乗せられた。

それを見て老人が笑い出すと何故か静かになって行く。王子も笑いながら振り返るとリリー王女や周りにいた侍女らが固まっている。

呆然と立ち尽くす王女が「父上…」と言った。


老人が笑いをとめて咳払いをし「息災であったかリリー王女よ」と言うと今度は王子が固まっている。

老人、いや隣国の王が「挨拶が遅れてすまなかったな、ルーク王子」と声を掛けると王子は我に返って「大変失礼いたしました。御無礼をお許しください」と言って膝まづいた。

王が王子を立ち上がらせ王女を振り返り「では城を案内してもらおうかの〜」と言って笑った。


城に入るとすぐにラファエルが迎えた。

「隣国のオルタス王であられますね。お迎えもせずに大変失礼致しました」と言って膝まづこうとするのを手で制して、私は娘に会いにきただけなので特別な事はしなくていい、いつもと同じようにしていてくれと言うので、リリー王女が「父上がいきなり来たのがいけないんです。お気になさらずに」と言うと「なんじゃワシがいけないのか?」と拗ねて言う。

王女が「父上、いい加減にして下さい。騙す様な事をして皆さんに申し訳無いわ」と肩を叩いた。

「すまん、すまん、許しておくれ」と謝ると王女が笑いながら、王の腕を取り城を案内し始めた。

それを見ていた全員がオルタス王はリリー王女に弱すぎると思っていた。


オルタス王が2〜3日滞在するというので城の皆は慌ただしくなった。

王が着いて直ぐに王の側近や護衛が城に着いた。

領内の者、全員が王子のもとに、リリー王女の客人が来たと聞き作物や食料を届けてくれた。

それだけではなく領内の夫人達がもてなしの手伝いに駆けつけてくれ、掃除や煮炊きをし出した。

あっという間に客人の部屋が用意され、皆にお茶が振舞われる。


夜の宴の用意もしてくれた。その間はリリー王女とオルタス王は久々の親子水入らずで話をし、王子はラファエルと共に城に手伝いに来てくれた夫人達の家族宛に心付けと礼状を用意していた。


日も暮れて宴が始まると城の皆も食事を取り思い思いに楽しんでいた。

王女の護衛や侍女らは久々の国の仲間に王子と王女の話をして盛り上がっている。

そんな賑やかな雰囲気が伝わって来たようでオルタス王も笑顔でテーブルについた。

王女に王子が揃うと料理とお酒が運ばれて来た。オルタス王は見た事の無い食材に驚き王女に質問しながらも全て食べ切って行く。


果実酒も上手いと言って沢山飲み上機嫌だ。

王女も王子もそんなオルタス王の様子に終始笑顔で応えた。食事が済む頃には王は疲れが出たのか眠そうだ。

王子が支えながら客室に運ぶと、王が「あの様に楽しげな王女が見れて満足じゃ、ありがとう」と言うので「私こそ王女が嬉しそうで感謝します」と王子が返すと何度も頷きながら王子と別れた。


次の日の朝はいつも通り王子と王女は散歩をし、戻って朝食を取ろうとするとオルタス王は起きて待っていた。

2人が詫びると明日は私も一緒に散歩すると言った。

3人で朝食を食べ終わると王子がオルタス王に話があると言い、出来れば王子と王女と3人だけで話がしたいとお願いした。

オルタス王が王女を見るといつになく真剣な眼差しで見返すので、王は承諾し王子の部屋に行った。


オルタス王とリリー王女が王子の部屋のソファーに座ると王子はゆっくりと話し始めた。

先ず王女と勝手に結婚の約束をした事を詫びた。

それから最初王女を騙していた事も詫びる。

何の事か意味が分からないオルタス王は眉を顰めた。すると王子が仮面を外した。

真っ直ぐな視線を受け止め「これは…」と言葉を失ったオルタス王に王子は包み隠さず全てを話した。

聞き終わったオルタス王は「相わかった」とだけ言い難しい顔で考え始めた。


暫くしてオルタス王が深いため息を吐いた。

真っ直ぐ王子を見つめ「ルーク王子はヘンリー王子に代わり王に就く気はないのか?」と尋ねた。

突然の事にルーク王子は驚きを隠せずに目を見開いたままオルタス王を見続けた。

我に返り目を伏せると首を振りながら「考えた事もありません」と言うとオルタス王が「我が王国も軽く見られたものよ」と笑いながら言った。


すかさず王子が「申し訳ございません。全て私の不徳によるもの」と片膝を着き頭を下げて詫びると、オルタス王は「いやいや王子を責めたわけではないぞ、気にするでない」と言って王子の手を取り立たせた。


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