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八回転目 運任せの転移陣

 二人が寝静まった頃、俺は日課の洞窟探索へと出かけていった。二人に一応声を掛けて行こうか迷ったが、危険もあるし変に興味をもたれても困るので家はこっそりと出ることにした。

 現在俺は地下十七階層までの探索をしている。正直思うように探索は進んでいない。その原因は俺にある。

 俺は洞窟入ってすぐの横穴にやってきた。この洞窟に入ってからずっと使って使ってきたこの横穴の奥。その地面にはキラキラと光る魔法陣が光っている。

「ゴク……。」

 生唾を呑み込み、そっと足先で魔法陣に乗ろうとする。が、やっぱりだめだ。怖い。

 地下十五階の攻略をした際、地下十五階と地下一階を繋げる転移陣とやらを設置することができた。しかし、転移というのがどういうものかわからない俺は未だに怖くて乗れないのだ。

「や、やっぱやめよう。足でも余裕で降りていけるし。」

 名残惜しさはあるが、無理して乗る必要はない。それに道中を地道にいけばまた湧き出したモンスターを狩ってその分のメダルも手に入る。

 そうやって、乗ってみたいが怖くて乗れない自分をごまかしながら、自分の足で地下十七階まで降りている。それが思ったより探索が進んでいない原因だ。

 階層を一つ降りるごとに探知を忘れずにして、反応があれば忘れずに狩って行く。行きは元気だが、帰りには疲れているかもしれない。不意打ちは怖いが先手が打てればなんてことはない。

 そしてやっとのことで地下十五階まで降りてきた。

「はぁ、あの転移陣に乗れたらここまで一瞬なんだろうなぁ。」

 ここに来るまでに狩れたモンスターはたったの四匹。やっぱり効率が悪い。

 溜息をもう一度吐いてこの階層も探知してみる。

「お、いる。」

 モンスターの反応が一つある。たしか十五階層に居たのは赤いスケルトンだ。通常のスケルトンと同じ金槌のメダルを落とすが、落とす枚数が多い。スケルトンと違って素早いけど、急所を知っていればなんてことはない。

 でもこのスケルトン、何か体勢が変だ。何かを襲っている?

「共食いかな?そんなことするのか?」

 岩肌に隠れながら様子を伺う。

「誰か襲われてる!」

 ヤバい。そう思うと同時に身体が反射的に動く。スケルトンの急所は胸の核だ。骨の隙間から光る核がチラチラしていてわかりやすい。赤スケルトンも急所は同じだ。剣で狙いを定めて一気に突く。

カシャカシャカシャ……

 核を突かれた赤スケルトンは人型を維持できずに音を立てて崩れ落ちる。そしてやがて光に包まれて消えた。

「大丈夫か!?……ってフェリア!?どうしてここに?」

「ゲホッゴホッ」

 どうやら赤スケルトンに首を絞められていたようだ。

「ほら、しっかりしろ。これ、飲めるか?」

 すぐにフェリアを抱き起こし、非常時用に持ってきていたエリクシールを飲ませる。喉がやられていて、ゆっくりだが飲めているようだ。

 おかしい。エリクシールを飲ませて怪我は治っているはずなのに、フェリアはまだぐったりしている。

「何かされたのか?おい!」

「スケルトンに生気を……吸われて……。」

 生気を吸うのか?スケルトンは生気を吸うのか?生気ってなんだ?

「エリクシールで生気は回復できないのか。おい、どうしてこんなところに来たんだ?」

 フェリアは何かを言い淀んで目を逸らす。だが、意を決したように言葉を紡ぎ出した。

「……トウヤ、あなたは何者なの……?」

 彼女たちには俺が異世界から来たことは話したはずだ。

「だから言ったろ?俺は異世界から……。」

「嘘!……だったらこの洞窟で何してるの?」

 はぁ、昼間に散々このメダルのお世話になったくせに。俺は床に散らばっているメダルを一枚拾うと彼女に手渡す。

「それだよ。ここのモンスターをやっつけると、そのメダルをドロップするの。俺が昼間回してたリールあるだろ?あれを回すためには、それが必要だから集めてるの。」

 俺の話を聞いているのかいないのか、彼女は食い入るようにメダルを見つめている。

「……綺麗。」

「気に入ったんなら、それやるよ。その一枚だけな。」

 そう言うと彼女はメダルを両手でぎゅっと握りしめた。

「ほら、立てるか?」

「ダメ、足に力が入らない。」

 どうやら、赤スケルトンに生気を吸われた影響で全身に力が入らないらしい。

「ったく、しょうがねえな。ほら、帰るぞ。」

 ぐったりしたフェリアを背負う。この状態で地上まで帰るのか。

 十四階層への坂道の前で項垂れる。

「……ちょっと。転移陣があったけど……使わないの?」

 怖くて使えないなんて言えない。

「……あれ、使えるのか?どんな感じなんだ?」

 でもちょっと気になる。

「私も初めて使ったけど、転移できたわ。トウヤも転移陣で来たんじゃないの?」

「いや、俺は……。」

 言葉に詰まる。

「もしかしてトウヤ……怖いの?」

「……はい。」

 図星を突かれてしまった。

「おい、大丈夫なのか?これ、どうなるんだ?」

 転移陣を目の前にしてもやっぱり怖い。体がバラバラになって再構築!とかないよな。

「大丈夫よ。トウヤ。光に包まれるだけ。そしたら向こう側にいるから。」

「いや、だってこれ。怖いの。マジで怖いの。」

 自分でも情けなくなるくらいに背中の少女に泣きついてしまう。

「大丈夫だよ。トウヤ。私も凄く怖かったけど、ここに来たの。だからトウヤも大丈夫。」

 そんなこと言われると、もう一歩を踏み出さざるを得ない。

 思い切って歩を進める。転移陣に乗ると俺たちは光に包まれて、あの横穴に立っていた。

「おぉー。あーるぴーじー。」

 思わずそんな言葉が出てしまう。

「なあに?あーるぴーじーって?」

 背中からフェリアが声を掛けてくる。

「いや、なんでもない。そうだな。娯楽だよ。前居た世界の……。」

「……ねぇ、トウヤは前の世界に帰りたいって、思わないの?」

 彼女の質問は核心に迫ったものだった。だけど俺は……。

「……あんまり思わないな。前の世界にそこまで未練はないし。こっちの世界でもスロットは出来るし。お前はやっぱり家に帰りたいか?」

 彼女の答えは意外なものだった。

「私は帰りたいとは思わない。家に居場所なんてなかったし。ここでモティやトウヤと暮らす方が……なんか生きてるって感じるから。……きっとここには大きな街ができる。テオロアなんかよりもずっと大きくて、みんなが笑顔の街が……。」

 背中の彼女がどんな表情で、どんな思いを込めてその言葉を言ったのかは計り知れない。だけど彼女は俺なんかよりもずっと立派だと、そう思った。

 家に戻るとモティが家の前で棒切れを抱いて寝ていた。一晩中帰りを待っていたんだろう。もうすぐ夜明けだ。待ちくたびれて眠っちゃったんだな。

「もう歩けるか?」

 背中のフェリアに声を掛ける。

「ええ、もう平気よ。ありがとう。」

 背中からフェリアを降ろす。まだフラフラしているようだが家に入るまでだ。大丈夫だろう。

 俺はモティを抱きかかえるとベッドまで連れて行き、上着を脱がして布団を掛ける。そしてリビングまで戻ると万能水をフェリアに渡した。

「ほら、万能水。効くかどうかわかんないけど、飲んどけよ。」

「ありがとう。」

 フェリアは素直に万能水を受け取ると、それを飲み干した。

「あぁ、身体の底から力が湧き上がってくるみたい。」

「そうか。良かった。それ飲んだらシャワー浴びてもう寝ろよ。」

 俺の言葉にうなずくと彼女はシャワールームへ歩いて行った。あの足取りなら、もう大丈夫だ。

 俺も今夜はもう寝よう。これから俺たちの生活がどうなっていくのかわからないけど、楽しい毎日になりそうだ。

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