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四十六回転目 運任せの鋼鉄の魔女

「お前らがウチの工場を潰してウチの夢の邪魔をする。ぶち殺してやる。」

 鋼鉄の魔女リリアンは椅子から立ち上がる。その手には黒い大剣握られている。

「まて、話を聞いてくれ。」

 こうなることは予想はしていたが何の弁明も出来ないまま戦闘になるのはこちらとしても不本意だ。

「問答無用!」

 俺の制止を聞くことなく、リリアンが斬りかかってくる。咄嗟に剣を抜きリリアンの剣を受け止める。

「ハハハ、やるじゃあないの。アタシの剣を受け止めるなんてねぇ!」

 剣と剣が重なり合い火花を散らす。リリアンはその細身からは想像も出来ないような力で剣を押し返してくる。

「話をちゃんと聞いてくれ!俺たちは戦いに来たわけじゃない!」

 剣越しにリリアンに訴えかける。

「はっ!甘いこと言うんだねぇ!話がしたいならウチを叩きのめして無理矢理にでも聞かせるんだね!」

 リリアンは剣に力を込めて俺の剣を押し返す。

「俺の剣で切れないなんてやるな。」

「ウチの剣で切れないなんてやるね。」

 同じような事を同時に口走り同時に走り出す。再び剣と剣が交じり合い火花を散らす。

「おい、お前に勝てば俺たちはその事で罪に問われたりしないのか?」

 俺の質問をリリアンは鼻で笑い飛ばす。

「そうだな。もし勝てたら考えてやるよ。勝てるんならね!」

 リリアンが剣に力を込めていく。

「そうか、それなら。」

 リリアンが俺を押し返すための力を込めようとした瞬間、剣の重心位置を微妙にずらして彼女の体勢を崩しながら剣を振り抜いた。

キィィィン!

 リリアンの大剣が真っ二つに切れて宙を舞う。そのまま空中で剣の向きを変えてリリアンを打ち据える。

「ば、ばかな……。ウチの剣が。」

 がくりと頭を垂れるリリアンを受け止めると床に横たえる。

「り、リリアン様!……そんな馬鹿な!」

 リリアンの椅子の傍に控えていた司祭が腰を抜かす。

「次はお前か?」

 司祭を睨み付けると、司祭は這うように逃げて行った。

「無茶苦茶ですね。鋼鉄の魔女に打ち勝つなんて。」

 ラノラが少し距離を置いた場所から話しかけてくる。

「こいつも本気じゃなかったと思うけどな。フェリア、レティシア、介抱してやってくれるか。」

 二人は急いでリリアンの介抱へと向かう。

「フェリア、不思議そうな顔してるな。」

 リリアンを見るフェリアの顔は疑問を張り付けたような顔をしていた。

「ええ、トウヤが強いのは知っているけど、この人本当に魔女なのかしら。あまりにも、その……。」

 フェリアの言いたいことはよくわかる。このリリアンという魔女。腕力や速さはあったがあまりにも弱かった。そのことをフェリアも敏感に感じ取ったようでその違和感を拭いきれないようだ。

 それに、この教会の扉を開いた時見た光景。いったい彼女はここで何をしていたのだろう。

「トウヤ様、そのこんなこと私が言うのは変なのですが、この方を殺すのは……。」

 レティシアがリリアンを心配そうな眼差しで見つめる。

「もちろんそんな気はないさ。ただ、ちゃんと話がしたいんだ。」

「彼女が目を覚ましたようですよ。」

 タナトリシアの言葉にリリアンを見ると、彼女は悔しそうに舌打ちをする。

「っち。油断してるところを襲ってやるつもりだったのによ。」

 リリアンは片目を開け、体勢を起こす。

「とりあえず、言い訳は聞かせてもらえるんだろうなぁ。」

 そう言ってリリアンは胡坐をかく。

 俺たちはプリマヴェルで起こっていたことや、工場であったことを事細かく説明した。

「ちょっと待てよ、そいつはおかしいぜ。確かに濃縮魔障液で鉄の強度は増す。だけど、それを海や空気に垂れ流すなんて。それに魔障還元装置が……。」

 リリアンは信じられないといった様子で食って掛かる。

「そんなものなかった。だから俺たちもドテナロで工場の白い煙を見た時は驚いたんだ。」

 俺は見た物を正直に伝える。

「リリアン、濃縮魔障液とはどのように作るのですか?」

 タナトリシアがリリアンに寄り添って尋ねた。

「それは、魔障結晶を薬液に漬けて溶かすんだ。魔障結晶はウチの体に魔気を流し込んでその血を固めて作るんだ。昔の勇者とやらが残した文献で作り方が書いてあったんだ。」

「魔気を身体に!?リリアン!なんてことを!」

 タナトリシアはリリアンの目を覗き込む。

 俺はすかさずエリクシールと万能水を取り出してリリアンに手渡す。

「これは……?」

「エリクシールと万能水だ。ゆっくり飲め。」

 リリアンはゆっくりと薬を飲む。

「身体に力がみなぎってくる……。これは。」

「相当な痛みと苦痛だったでしょう。よく耐えられたものです。どうしてそこまでするのです?」

 瞳から色々読み取ることの出来る魔女でもその時の感情までは読み取れないのだろう。タナトリシアは優しい口調で問いかける。

「トウヤ、もう一度戦え。もう一度うちに勝つことが出来れば教えてやる。」

 少し拗ねたようにリリアンは言うと立ち上がる。

「なんでだ。もう勝負はついただろう。」

「いいだろ、別に。本気でかかって来いよ。」

 俺はフェリアとレティシアの顔を見る。二人とも神妙な面持ちで顔を縦に振る。

「わかった。」

 剣を取りリリアンに向ける。

「おい、剣が折れてるぞ。どうするんだ?」

 リリアンは呪文を唱えるとその手に鋼鉄の細身の剣が現れる。

「心配いらないよ。ウチが魔女だってこと忘れてないかい?」

 彼女はニヤリと笑うと猛烈に間合いを詰めてくる。

キィィィン

 その剣戟を辛うじて受け止めると彼女は左手で火の玉を放ってくる。

「ほら!全力で来ないとぶっ殺すよ!」

 しかし、いくら手数が増えたところでそれらは俺に届くことはない。魔法の威力なら海底の亡霊に分があるし、剣の腕もフェリアの方が立つだろう。

 しかし、その剣閃にその魔法にどうにも哀しさを感じて俺は剣を振るうのを躊躇ってしまう。

「コラ!ちゃんと勝負しろ!受けてばっかりじゃないか!」

 さらに苛烈さの増す攻撃を一薙ぎに払いのけると、リリアンの剣に向けて一閃を放つ。リリアンの剣は再び真っ二つに切れ、切っ先が地面に落ちる。

「もう終わりだ。お前は俺に勝てない。」

 構えた剣を降ろす。

「ふざけるな。最後までかかってこい!」

 リリアンが折れた切っ先で斬りかかってくる。が、その切っ先は俺の首筋で止まる。

「あーあ。やーめた。真剣に戦ってもらえないんじゃつまんねえや。」

 折れた剣を放り投げリリアンは座り込む。

「どうしてそこまでするかって。教えてやるよ。」

 そうして、彼女は過去を話し出した。


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