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四十二回転目 運任せの町づくり

「おお、石畳!」

 フェリスフィルドに帰った俺たちの目に最初に飛び込んできたのは綺麗に敷き詰められた石畳だった。

「まぁ、たった数日で立派な石畳になりましたね。」

 正直これにはテンションが上がる。やっぱりRPGの町と言えば石畳だ。

 家に着くとちょうどガンホさんが家から出てきたところだった。

「ただいま帰りました。立派な石畳ですね。」

「ええ、クルト村から来られた人たちのおかげです。彼らは絹作りで石室の知識がありますから、石工は得意みたいですね。」

 そうだったのか。俺は思わぬ拾い物が出来たのかもしれない。

「中でフェリア様がお待ちです。顔を見せてあげてください。」

 そう言うと軽く会釈を交わしてガンホさんは帰っていった。

 俺たちは貨車を停めると、恐る恐るドアを開く。

「トウヤ、おかえりなさい。」

 そこには満面の笑みを浮かべたフェリアが居た。その手には木剣。やばい、これは相当怒ってる。

「この嘘つき!ずっと貨車の番させるなんて!トラゴローをなんだと思ってるの!?」

 木剣を振りかぶり殴りかかってくる。

「トウヤ、危ない!」

 タナトリシアが俺とフェリアの間に入り、フェリアの木剣を受け止める。

「ぐぬぬぬ、トウヤ、ずっと気になってたのよ。この女性はどなたなの?」

 タナトリシアはフェリアの木剣をはじき返すと、優雅にマントを翻す。

「私はタナトリシア。私の全てはトウヤに捧げました。彼に仇為す者は許しません。」

 庇ってくれるのは嬉しい。嬉しいが、その言い方は誤解を生むんじゃないか?

「ちょっと、どういうこと?ちゃんと説明しなさいよ!トウヤー!」

 その後フェリアを宥め賺して事情を説明するのには随分骨を折った。

「そうだったの。あなたも魔女だったんですね。」

 流石に耐性がついてきたのかフェリアは驚きもしない。

「変な誤解を与えてしまった事、謝罪します。トウヤは私を五百年の使命から解き放ってくれました。私の命はトウヤの物です。」

 フェリアは俺をキッと睨んでくる。いや、わかるよ。言い方がいちいち重いんだ。

「ちょ、ちょっと待ってよ。五百年ってあなた何歳なの?」

 タナトリシアの言葉に食いついてきたのはアルルだった。確かに彼女は以前マナトリア以外の魔女は古くて五百歳だと言っていた。

「はい、私も姉のマナトリアと同じ七百を超える年月を生きております。」

 とても。とても長く感じる沈黙が流れる。

「ちょ、ちょっと待って、聞きたいことがあり過ぎて頭が追い付かないんだけど……。」

 俺は頭痛を感じながら経緯をかいつまんで説明する。

「マナがお姉さん。……ぱっと見妹どころか母娘にも見えるのに。」

 フェリアが感嘆の声を上げる。一番驚いたのはそこか。

「魔女の外見は魔女になった年齢で固定されるのよ。私が魔女になったのは十六の時ね。」

 アルルが胸を張る。なんでコイツは自慢気なんだ。

「わしは十になった日に魔女になったからの。」

「私は二十六の時に魔女になりました。」

 魔女の見た目に対する謎が解けた気がする。

「ところで、町の査察の方はどうなったんだ?」

「ええ、拍子抜けするほどにあっさり終わったわ。マナから聞かなかったの?」

 マナを見ると明後日の方へと目を逸らす。どうやら忘れていたようだ。

「二日ほど滞在しながらあちこち見てあっさり終わり。王都へと引き上げていったわ。」

「その後に町を石畳にしたりしてたのか。」

 なかなかの行動力だ。

「石畳だけじゃないわよ。色々相談しながら作ったの。みんなで見に行くでしょう?」

 フェリアは立ち上がる。

「残念ですけど、わたくしはここで失礼いたします。プリマヴェルの報告とかいろいろしなきゃいけないこともありますし。」

 そう言ってレティシアはテオロアに帰っていった。フェリアの貨車を見送る目はどこか寂しそうだった。

 フェリアに連れられてやってきたのは診療所近くの広場に出来た学校だった。

「じゃーん。町に子供達も増えてきたから建物だけでも作ってみたの。簡単な読み書きや計算なら私が教えられるわ。他の授業はアルルにお願いしようと思っていたんだけど。」

「冗談じゃないわ。私だって忙しいのよ。診療所も見なくちゃいけないし、子供の相手なんてしてられない!」

 フェリアの提案にアルルは抗議の声を上げる。

「私がしましょう。一般的な教養は身についておりますので。」

 タナトリシアが声を上げる。確かに穏やかな彼女なら先生というイメージにぴったりだ。

「ならわしが魔法を教えようかの。」

 マナトリアが胸に手を当てて言う。

「いや、魔法の授業はフェリアがしてくれ。マナの魔法を子供が使うのは怖すぎる。」

 俺の提案にフェリアは頷く。

「仕方ないわね。早速授業の計画を練るわね。さ、次に行くわよ。」

 さらにフェリアに連れられてそぞろ歩く。

「ここは生糸を作る工場よ。」

 そう言われて中を覗いてみると、中では蚕の世話をしながら繭を採取しているところだった。

「あ、トウヤ様。おかえりなさいませ。ここの水は素晴らしいですね。蚕の成長が断然早くて、糸も超一級品。職人冥利に尽きます。」

 恐らく植物の成長を促進するのと同じ効果が蚕にも表れているのだろう。

「次はこっちよ。採れた糸を製品にする工場よ。」

 中では何台か並んだ機械を足踏みで動かしながら布にしているようだった。

「トウヤ様、ガンホさんたちがここの機械を作ってくれまして、これがあればドテナロの機械産業にも負けない速さで布を作ることができます。」

 みんな生き生きとした顔で作業していた。アイテムメーカーのガンホさんたちにとってはこういう機械を作るのは朝飯前なのだろう。

「ほら、次々。」

 続いては町の大通りを抜けたところだった。

「ここに市場を開くの。今は町の物だけだけど、よそから来た行商もここで商いをするのよ。人が動けば経済もきっと回るわ。」

 ここまで出来ているのか。

「いや、流石だ。お前に任せて良かったよ。」

 俺の言葉にフェリアは飛び切りの笑顔を見せた。


 その頃、王都。謁見の間。

「ライオット国王様。」

 フェリスフィルドの査察から戻ったラノラが報告にやってきた。

「よく戻ったラノラよ。して、どうであった?南境の魔女マナトリアは確かにそこにおったのか?」

 国王のかねてからの懸案事項であった最悪にして最恐の魔女マナトリア。かつて南の海に巨大な島国があった。今そこに島はない。魔大戦の頃、彼女によって消し去られた忘れられた島国。その凶行に人々は恐れを込めて彼女を南境の魔女と呼んだ。魔大戦後、しばらくして彼女の所在は誰も掴めずにいた。

「はい。言動からマナトリア本人で間違いありません。」

 ラノラは決して顔を上げることなく事務的な口調で報告する。

「なんということだ。我が国内にマナトリアが住み着くとは。」

 国王からしてみればそれはいつ爆発するかわからない不発弾を胸中に抱え込むようなものだった。

「さらに先日ここへ押しかけてきた最西の魔女アルルもフェリスフィルドに居着いていました。」

「な、なんだと!?」

 国王は思わず玉座から立ち上がる。最西の魔女は古くから人々に対して友好的だ。傷を癒し、薬を作り、人と共に暮らしてきた。しかし彼女とて魔女であることに変わりはない。かつて金に目がくらんだ商人が彼女への恐れも敬意も忘れて尋ねた結果、その場で氷漬けにされた挙句粉々に砕かれた。彼女もれっきとした魔女なのだ。

「最西の魔女が南境の魔女の軍門に下ったという事か?」

「いえ、決してそのような雰囲気ではありませんでした。しかし、トウヤという男相手に泣き叫んでおりました。」

「聞き間違いか?男が最西の魔女に泣かされておったと?」

 国王のこのとぼけたような反応は当然と言えるかもしれない。

「いえ、違います。最西の魔女がただの男に泣きながら連れられているのを私ははっきりと見ました。」

 このラノラという騎士が虚言を吐くとは思えない。彼女は騎士として人一倍生真面目な性格であることは国王としてよく知っている。そうでなければ女性として騎士団の厳しい訓練に耐えることなど出来ないだろう。

「そのトウヤという男、何者だ?」

「わかりません。査察の対象外でしたので。査察に向かったその日に最西の魔女を連れてプリマヴェルに出る魔物の討伐へと向かったようです。」

 しかし、このラノラという騎士は少々融通の利かないところがあった。国王は苦虫を噛みつぶしたような顔をして、再び玉座に深く腰掛ける。

「して、フェリスフィルドはどうであった?テオロットの娘はしっかりと統治出来ておったのか?」

 国王は気を取り直して新しく領主へと据えた娘の状況とその村の状況を尋ねた。

「はい。最近開拓したとは思えないほど発展しておりました。もう町の規模にはなるでしょう。まだ基本的な設備が不十分な部分があり、外との交流もあまりないようですが、その辺りが整い人の流れが増えればもっと発展していくでしょう。」

 なかなかに優秀な娘であると風の噂には聞き及んではいたが、噂に違わぬ手腕を持っているようで国王は胸を撫で下ろす。

「最西の魔女も南境の魔女も領主のフェリア殿には口答えしませんでした。」

 少々、優秀過ぎるのかもしれない。

「トウヤという男もフェリア殿の言葉には逆らえないようでした。」

 国王は頭を抱え込む。

「もうよい。よくやってくれたな。下がってくれ。」

 ラノラは深く一礼すると謁見の間を後にした。

「どうしたものか。そっとしておくのが一番なのだろうが。」

 ライオット国王は今日も頭を抱え込んでしまった。

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