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三十六回転目 運任せの査察と魔女の歴史

「どういうことだ?」

「我々はプリマヴェルの魔物討伐とは関係ありません。このフェリスフィルドの査察に王都よりやってまいりました。わたくし視察隊長のラノラと申します。」

 約束の二週間後。レティシアの貨車と共にもう一台の貨車がやってきた。

「査察ですか?聞いておりませんが。」

 フェリアも査察に怪訝な顔をする。

「言っておりませんから当然です。」

 査察の代表らしいラノラと名乗る女性の騎士は眼鏡をくいと持ち上げる。

「トウヤ様、いかがいたしましょう。プリマヴェルへの出発を見送りましょうか?」

「いえ、そちらと査察は関係ありませんから出立していただいて結構です。」

 レティシアの提案を遮るようにラノラは言い放つ。

「よいのではないか?わしもフェリアと町に残るからこちらの心配はいらんぞ。」

 マナトリアは自信たっぷりに言うがそれが一番心配だ。

「そちらの娘は?」

 ラノラがマナトリアを怪訝な目で見る。

「なんじゃわしを知らんのか。無知な奴よ。わしこそが音に聞こえた南境の魔女、マナトリアよ。」

 マナトリアはかっかと高笑いをあげる。

「失礼いたしました。マナトリア様。先ほどのご無礼、私の命にて不問にしていただきたい。」

 ラノラはかしずくと剣を抜き、自らに突き立てようとする。命が軽い!

「よいよい。気にしておらん。おぬしの命なぞいらんわ。しかし、ここに危害を加えようものなら、おぬしの命だけではすまぬと心得よ。」

「はっ!」

 さらに頭を下げるラノラ。なるほど、これなら大丈夫そうだ。

「では、参りましょうか。」

 レティシアが俺の手をとる。フェリアから聞かされてはいたが、本当にこのお嬢様、一緒に行く気なのか?

「わかった。おい、トラゴロー。」

 俺が呼びかけると、トラゴローが小屋から姿を現す。

「虎!?皆さん、下がって。」

 ラノラがそう言うと、査察の騎士たちはどよめきながら剣を抜く。

「やめろ。トラゴローに手を出すな。」

 俺が止めると、トラゴローは欠伸をしながら貨車に乗り込んだ。

「虎をペットにしているのですか?」

「ペットじゃないわ。仲間よ。」

 フェリアは強く言い放つ。

「……失礼いたしました。」

 フェリアにそういって頭を下げてラノラは一歩下がる。

「じゃ、行ってくる。アルルは連れて行くぞ。」

 医者であるアルルも魔気の研究をさせるために連れて行く。それはかねてからのフェリアとの打ち合わせ通りだった。

「ええ。問題ないわ。泣かせないでよ。」

 フェリアに釘を刺されてしまった。

「わかってる。レティシア、悪いが町はずれの診療所へ寄ってくれ。」

「ええ、トウヤ様。」

 レティシアは御者に行き先を告げる。

「フェリア様、この町には診療所があるので?」

「ええ、最近出来て……。」

 診療所に着く。

「で、なんでこの人たち、ついてきたの?」

「知らないわよ。」

 ラノラは俺たちの後を追って診療所までついてきた。

「いえ、共に出立されるのでしたら、先に状況を確認しておきたいので。」

 そう言って俺よりも先に診療所に入っていく。

「これは……?」

 後を追いかけていくと診察室の前でラノラが立ち止まっている。

「結解ですか?中に見られてまずい物でも?」

 そう言ってこっちを怪訝そうな目で見てくる。

「またか!?あのガキ。」

 俺は剣を抜き、診察室のドアを一閃する。

「ぎぃやぁぁぁぁー!トウヤと旅いやぁぁぁー!マナトリア―!」

 アルルは泣き叫ぶ。

「あなたはやはり最西の魔女の……。」

「だれでもいいー。助けてー。」

 嫌がるアルルを貨車まで引っ張っていく。

「あの、嫌がってますが……。」

「いつものことです。気にしないでください。中は勝手に見てください。あ、置いてあるものは触らないで。」

 フェリアは肩を落とした。

「嘘つき!マナトリアやフェリアも行くって言うから行くって決めたのに。」

 貨車に乗せられたアルルは泣いて抗議する。

「諦めろ。アルルよ。使い魔で聞いておったのじゃろう?王都の査察が来たのじゃ。仕方あるまい。」

 マナトリアがアルルを宥める。ここ数日、マナトリアとアルルは相当仲良くなっていた。

「そうだ。お前らが悪いんだ。お前らが来たから、私は……。」

 アルルから怒りのオーラが噴き出る。

「これは……。」

 ラノラが身構える。

「やめろ!」

 アルルにチョップを入れる。

「はぅあ!」

「もうキリがない。行くぞ。レティシア出してくれ。」

 俺たちを乗せた貨車は走り出した。

「最西の魔女を一撃で。……トウヤ、一体何者。」

 誰にも聞こえない声でラノラは一人呟いた。


「それで魔女はみんな使い魔を持っているのか?」

「そうね。例外も居るかもしれないけど、魔女は大体使い魔を持っているわ。」

 道すがら、アルルに魔女の事を聞いてみる。ちなみに彼女の使い魔は紙狐と呼ばれる狐だ。

「このトラゴローさんも使い魔なんですの?」

 レティシアはもうトラゴローと仲良くなっていた。今も彼のお腹でゴロゴロしている。

「トラゴローはフェリアの使い魔だよ。」

「フェリアの?ねぇアルルちゃん、そしたら私も使い魔を持つことが出来るのかしら。」

「無理よ。だいたい、トウヤたちはいちいち規格外なのよ。普通の人間は使い魔なんて持てないわ。」

 レティシアは心底残念そうに顔を落とす。

「そもそも、あのマナトリアがあなたを慕っているのが一番の謎よ。」

 アルルは俺を指差す。

「どうして?マナちゃんとってもいい子よ。」

 レティシアは眠そうに欠伸をする。話が終わるころには寝ているだろうな。

「私たち魔女の中でもマナトリアは特別なのよ。彼女だけは特別。」

 特別か。俺もこんな世界に来る前は自分が特別と思うことなどなかった。だけど、この世界に来て生き残るために剣を取った。

「今いる魔女は長くても五百歳。私でも三百と二十四歳。だけど彼女の齢は七百を超えている。」

 剣を取って毎日生きることに必死になっているとフェリアやモティ、町のみんなという仲間が出来た。

「魔女というのは一世代に六人。死ぬことで入れ替わりはするけど生き続ける限り魔女の世代は続いていくの。」

 そして、俺にしかできないことが見えてきた。それは俺がこの世界にとっての特別だからだろうか。

「五百年前の魔大戦は知ってる?伝承では多くの国が滅び、多くの人が死んだの。そして、多くの魔女も。」

 でも、俺一人の力ではどうすることも出来なかった。町の事はフェリア、モティ、みんなが居なければどうしようもなかった。

「国々は魔女の力を欲し、力を奪い合った。殺し合い、奪い合い、壊し合った。」

 そして、マナトリアも。彼女が居なければいろんなことがうまくいかなかった。

「王国は勇者と呼ばれる人間を召喚した。勇者は不思議な力を使い多くの闇の国を滅ぼし、王国を光で包んだ。」

 そうだ。俺だけが特別なんてことはない。みんな特別で必要だった。

「そして、魔大戦終盤、最後まで抵抗するシシリテーヌ国は五人の魔女を集め結界を作り立てこもった。王国についたマナトリアは一人で結界と共に五人の魔女とシシリテーヌ国を滅ぼし、そして姿を消した。」

「だけど。」

「これが彼女が特別な理由。王国が彼女を恐れる理由。」

「マナトリアはマナトリアだ。それ以上でもそれ以下でもない。」

 俺の言葉にアルルは。

「それが彼女があそこに居る理由なのかもね。」

 そう言って笑った。

 貨車は走る。プリマヴェルを目指して。

「一つ言っていいか。」

「なんですか?」

「屋根の上にマナの夢魔の燕が居たの知ってる?」

 一つわかっていることは、この若い魔女は泣き虫でおっちょこちょいだ。

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