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三十三回転目 運任せの二人目の魔女

 クルト村から帰ってきて三日ほど経った。ここフェリスフィルドはかつてなく多忙になってきていた。

「おい、トーヤ。木材が全然足りない。今日中にあと五百は出しておいてくれ。」

 モティもすっかり職人仕事が板について、今ではモノづくりが本職のアイテムメーカーの職人にも頼られるようになっていた。

「わかった。後で資材置き場に行く。まったく男子三日会わざればなんとやらだな。」

 こうして、資材を多くストックすることも増えてきたので、家の隣の資材置き場では手狭になってきたため、今では少し離れた場所に新しい倉庫を作り、古い資材倉庫は改築して、大虎のトラゴローの家になってしまった。

 ここに帰ってきた時は村の人達は腰を抜かしたり、半パニック状態だったのだが、トラゴローに危険がないとわかると、今ではすっかり村の人気者だ。子供たちなど、昼間トラゴローに跨って村中を闊歩している。

「あら、トウヤ、どう?ここの広さなら、クルト村の人をみんな受け入れても十分な広さがあるわ。」

 そう、この忙しさの背景には、あの限界を迎えていたクルト村の人達の受け入れ準備があったためなのだ。

「すこし水源から遠いな。不満が出るかもしれないぞ。」

 俺が一番心配していることは、元居た住人と新しく来る住人の間で軋轢が生まれてしまう事だ。

「それなら井戸を数か所に掘りましょう。そうすれば水の確保に手間はかかりません。」

 ガンホさんが地図をトントンと指差し、提案する。

「じゃ、詳しい場所が決まったら教えてください。穴ならリールで一瞬で掘れるんで。」

 穴掘りなら鍬のメダルであっという間だ。そう告げるとフェリアとガンホさんは地図を互いに指差しながら、あれこれと話し合っている。

「トウヤ様!フェリア様!クルト村からの方がいらっしゃいましたー!」

 しばらくするとクルト村から移住してきた人たちの来訪を、若い村の人が伝えに来てくれた。

「俺が行こうか?」

 提案する俺にフェリアは首を横に振る。

「ううん、私だけで大丈夫。トウヤは井戸掘りのお手伝いをしてて。」

 そう言ってフェリアは声のする方へ走って行った。

「ふふ、頼もしくなってまいりましたね。」

 ガンホさんが優しい笑みを浮かべていった。

「ええ。本当に。さぁ、井戸の場所は決まりましたか?」

 本当に、フェリアが居ると居ないじゃ、大違いだ。

 そして俺はガンホさんの指示で井戸用の穴を空けていった。さらに便利な事に鍬のメダルで開ける穴を上手く調整することで大池から井戸まで横穴で繋げることが出来た。

「トウヤ様、ありがとうございます。これだけ開ければ十分です。おまけに横穴まで開けて頂けたので、水引きの手間も省けました。」

 ガンホさんからお許しが出たので、俺は一度、メダルを取りに自宅へと戻る。

「あぁ、トウヤ様。これからお世話になります。私たち以外にも皆ここへの移住の為に準備しております。これからどうかよろしくお願いいたします。」

 自宅に戻ると、フェリアと村に来たクルト村の男性が話し合っていた。

「いえいえ、これからいっぱいすることがありますから、こちらこそよろしくお願いします。」

 そう言って手を差し出すと、男性は両手で手を取り、握手を交わす。

 俺はメダル倉庫の部屋へ入り、ありったけの金槌のメダルを持ち出す。

「ヤバいな。もう金槌のメダルがない。」

 金槌のメダルは使う頻度も相まって、かなり数を減らしていた。

「だいたいあと二千枚強ってところか。ペイアウトがないから減る一方だもんな。」

 洞窟はもう浄化してしまったので、スケルトンからメダルを得ることも出来ない。

 不安な気持ちを抱えつつ、俺はモティの待つ新しい倉庫へと向かった。

「ふう、こんなもんかな。」

 俺が全ての材料を出し切った頃にはもう日が傾いていた。

「地味に時間かかるもんだな。」

 モティが材料を運びながら言う。

「まぁ、一から切り出すことを思えばこれでも楽な方なんだろうけどな。」

 スロットを回すだけで材料を得ることが出来るんだ。贅沢は言えないだろう。

「トーヤだけしかスロットを回せないがいけないんだ。」

 俺だけがか。なんとか出来れば便利だろうが、今度マナトリアに相談してみよう。

 さらに五日ほどが経った。クルト村の人々の移住も終わり、あの頑固者のコッパ村長は泣きながら詫びを入れに来ていた。彼らの中に蚕を持ってきていたものが居たので、彼らには絹糸と絹製品づくりを担当してもらう事となった。さらに希望する者には畑や田んぼの世話をしてもらっている。ここの野菜や稲の成長速度を考えれば畑仕事など、いくら人手があっても足りない。

「トウヤよ。プリマヴェルじゃが、いよいよ危うくなってきたみたいじゃの。」

 プリマヴェルは南にある港町だ。以前交易に向かったのだが、海にモンスターが出ているらしく、まともな買い付けが出来なかったのだ。マナトリアは使い魔の夢魔の燕によって情報を得たのだろう。

「どうするべきかな。フェリアに相談してみるか。」

 俺の言葉を聞いたマナトリアが笑う。

「ふふ。おぬし、気付いておるか。前とあべこべになっておるぞ。」

 そういえば、以前はフェリアがなんでも俺に聞きに来ていたが……。

「それを言うなよ。」

「そろそろトラゴローの散歩の時間じゃ。ちと行ってくるかの。」

 マナトリアは最近の日課になっているトラゴローの散歩へと出かけた。生粋の魔女であるマナトリアは使い魔の躾や扱い方がとても上手いらしく、フェリアに代わって毎日散歩をさせていた。

 ここも住人が増え、もう小さな町と言ってもいいほどの大きさになってきた。それにともなって、みんなますます多忙を極めている。しかし洞窟探索のない今となっては俺自身は暇を持て余していた。

コンコン

「こんにちわー。」

 ノックと共に間延びした優しい声が響く。この声は。

「レティシアか。どうぞ。入ってくれ。」

 声の主は現テオロット領領主でフェリアの姉のレティシアだった。

「あら、トウヤ様。お一人ですか?」

 ひょこりと入り口からレティシアが顔を出す。

「ああ、みんな仕事してるよ。遠慮なく入ってくれ。」

 しかし彼女は入り口から動こうとはしない。

「どうした?」

「へぇ、ここね。偽物のエリクシールをばら撒いている愚か者が居るところっていうのは。」

 レティシアの影から少女が姿を現した。少女はずかずかと家の中に入り、どっかと椅子に腰かけた。

「もう、アルルちゃん。すみませんトウヤ様。」

 そういうとレティシアは頭を下げ、少女を追いかけるようにテーブルに着く。

「あの、トウヤ様、以前わたくしにエリクシールを頂いたと思うのですが……。」

「偽物の!エリクシールよ!」

 レティシアを遮って少女が声を荒げる。

 どうやらこの少女は俺が以前レティシアに渡したのは、偽のエリクシールだと思っているらしい。

「っていうか。あんた誰?」

 何も答えない少女の代わりにレティシアが答える。

「彼女はアルル。最西の魔女ですわ。」

 レティシアの紹介にアルルと呼ばれた少女が胸を張る。

 俺は袋からエリクシールを一本取り出し、机の上に置いた。

「そうか。今のでなんとなく察した。レティシア、苦労かけたな。それで、アルルはなんでこれが偽物だと思ったんだ?」

 アルルはテーブルの上のエリクシールを一瞥するとふんと鼻を鳴らした。

「だってそれ、偽物じゃない。」

「トウヤ様。彼女は最西の魔女はエリクシールの開発者なのですわ。」

 終始うつむき顔でレティシアはそう言った。


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