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二十五回転目 運任せの洞窟浄化

 翌日早朝、洞窟前ですでにマナトリアは俺を待っていた。

「準備は出来たかの?」

 メダルも十分に持った。エリクシールも万能水も多めに持った。

「ああ、大丈夫だ。行こう。」

 前と同じようにマナトリアは自らに魔気避けの術を掛けると二人で扉を開く。洞窟に入るとマナトリアは以前開いてくれた転移陣ではなく十五階への転移陣に乗って進む。

「前開いてくれた転移陣じゃないんだな。あっちの方が早い気がするんだが。」

「あれはワシが勝手に作った転移陣じゃからな。お主がこの洞窟を作ったとしたら、どこに転移陣を作る?」

 俺がこの洞窟を作ったなら……。

「一番最下層に作る。かな。」

 俺の回答に満足がいったのか、マナトリアはかっかと笑う。

「その通りじゃ。もともとこの洞窟は十五階層だったのじゃ。後の階層は年月や、魔物が掘ったりして出来たのじゃ。」

 しかし、十五階層は何度も通ってその度に気配探知をしているが、怪しいところはなかった気がする。

「それはお主には魔気が見えておらんからじゃ。」

 そう言うとマナトリアは何もない壁に手を付いて、何かしらの呪文を唱えた。すると壁は音もなく消え去り、大きな広間が現れた。

「さぁ、ここからが本番じゃ。」

 そう言うと二人で部屋の中に足を踏み入れる。

「すごい魔気じゃ、あまり長いは出来ぬ。」

 俺にはよくわからないがマナトリア達にとって魔気は猛毒らしい。

 部屋の中央には台座があり、その上には一冊の本が置いてあった。

「ここを作ったものが置いたのじゃろう。魔気の発生源はそこじゃ。」

 俺は本に近寄って行き、手に取ろうとする。

「トウヤよ。その本に触れるという事は世界の根幹に触れるという事じゃ。覚悟はよいか?」

 今更な気もするが、もう後には引けない。

「大丈夫だ。いくぞ。」

 本を持ち上げると洞窟中から風が集まってくる感覚がした。

「洞窟中の魔気が集まっておる。これほど濃縮されたものは初めてじゃ。」

 魔気は見えないが、ただならぬ気配を感じて本を手放す。

 本は宙に浮いて魔気を吸い取った後、淡い光を放つ。

「これは記憶じゃ。本の中に封印されておったのじゃろう。」

 魔気が晴れたことでマナトリアも本に近付くことができる。

「ここを作った人の記憶かな。」

「おそらくそうじゃろう。まさか古の記憶に触れる機会があるとはな。」

 二人で本に向かって手を伸ばす。光が強くなり、俺たちを包み込んだ。

「この本を見つけし者よ。あなたが悪しき心を持たぬことを切に願う。」

 心に響くような、優しい声だった。

「私たちは古き民。亜人の民。古き時代、人に追われこの地に逃げ込んだ。闇の神ティアルムの加護を受け、この洞窟を作るに至った。中を魔物で満たし、隠れ住む我々の元に一人の旅人が現れた。鋼の武具を身に纏い、魔物を浄化する術を持つその者は名をマモルと名乗った。」

 マモル。俺と同じ日本人の名前だ。

「マモルは我々を見つけると、自身が浄化した魔物を再び洞窟に満たし去っていった。彼は神々に戦いを挑むべく旅を続けているのだという。しかしマモルの出した魔物は我々にも牙を剥いた。数を減らした我々はこの広間に隠れ入り口を塞ぐことにした。しかし魔気に冒された我々はもうすぐ死ぬだろう。この本を見つけし者よ。そなたに恨みはない。しかし、我らの無念を空に還して欲しい。闇の神、我らが主神ティアルムの袂へ。そして我らは長き呪縛から解き放たれ安らぎを得ることだろう。」

 そう締めると本は炎を纏って燃え落ちた。

「来るぞ!」

 マナトリアの言葉に反射的に飛び退く。

 そこに現れたのは緑の巨大な竜だった。

「ぬお、あーるぴーじー。」

 ファンタジーや、RPGのゲームでしか見ないような巨大な竜は敵意をむき出しにして俺たちを威嚇している。

「気を付けるのじゃ。竜は七神の使いじゃ。おそらく命と引き換えに召喚したのじゃろう。」

「体は大きくても所詮は魔物だろ?」

 そう言って俺は竜に剣を突き立てた。しかし、俺の剣は竜の鱗を滑り、まるで歯が立たなかった。

「なんて硬さだ。」

 これまで、どんな魔物でも俺の剣は絹を裂くかの如く簡単に貫くことが出来た。これは完全に想定外の事態だった。

 巨大な竜は大きく息を吸い込むと俺たちに向かって毒の息を吐きだした。

「マナ!危ない!」

 咄嗟にマナトリアを抱えて息を躱す。少し毒の息がかかった左足が猛烈に痛む。

「こりゃ!ワシに構うな。」

「バカやろう。死んじゃうかもしれないんだぞ。」

 そう言ってエリクシールを飲み、万能水を左足に直接かけた。

「痛っ!なるべく離れてろ。」

 マナトリアにそう言うと、俺は竜に駆け出す。狙うのは鱗に覆われてない柔らかそうな部分。目だ。

 竜が降り下ろした腕をすり抜け、胴を踏み台にして竜の顔を目指すが、竜が胴をくねらせると、鋭い鱗に足場が取られて上手く顔の高さまで上がれない。

「クソ、これじゃじり貧だ。マナ!この鱗をどうにかできないか?」

「やってみる。」

 マナは鋭い氷を出して竜にぶつけてみるが、やはり竜の鱗には傷一つつかない。次にマナは炎で竜を取り囲み焼き尽くそうとするが、竜がその長い尻尾を振るだけで炎はかき消されてしまう。

「ダメじゃ。並の魔法は全く効かんぞ。」

 マナトリアの魔法が効かないとは本当にピンチだ。そんな事態は全く想定していなかった。

「じゃ、俺の足元に氷でも何でもいい。足場を作ってくれ。」

「それならお安い御用じゃ。」

 マナトリアが意識を集中させると俺の足元から階段状に竜の頭部への階段が出来る。

 一段、二段、三段。階段を駆け上る。しかし、竜は腕を振り下ろし、途中の部分が壊れてしまう。

「ダメじゃ!このままでは。」

「問題ない!」

 俺は途切れた部分を飛び越えると上の段を踏みしめ、さらに空中で体制を変えつつ竜の目を目がけて剣を突き立てた。

「くたばれ!」

グワォォォォ!

 片目を貫かれた竜は雄たけびを上げる。

 やった。そう思ったその時だった。竜は猛毒の息を辺りに撒き散らし、もろにそれを受けてしまった。

「クソ!しまっ……。」

 毒の息に巻かれて地面に落ちる。

「トウヤ―!」

 薄く開いた目に駆け寄ってくるマナトリアの姿が見えた。

「来……るな……。」

 俺の声が彼女に届いたのかどうかはわからない。

 朦朧とした意識の中で、最初のダンジョンのボスにしては強すぎだろとか、どうやったらあの鱗に剣が刺さるかなとか、そんなことを考えていた。

 身体だけは別で、痛む全身。痺れる指先でエリクシールの瓶を取り出し、ふたを開けて口に運ぼうとするが、口元まで来て瓶を取り落としてしまう。中身がほとんど零れて地面に吸い込まれてしまう。万能水は取り出した瓶のふたも開けれず地面に取り落とす。

 あーもうだめかもしれない。

 そう思って目を瞑る。すると、やけに五感が研ぎ澄まされていくような気がして、竜のうめき声、地響き、俺を呼ぶマナトリアの声、そして、ずっと上。地面を掘るモティの鍬の音、今日も稲を刈りだす音、土を掘り返して芋を掘る音。ガンホさんだ。フェリアと何か話している。また俺に相談するだって?おいおい、それくらい自分で決めろよ。そんなんじゃ、死ねないじゃねえか。

 俺がここで死んだら、マナトリアはまた人との関りを断つだろう。フェリアは、モティは、村人たちは。せっかく自分たちの足で立ち始めた彼らに水を差したくない。

 そうだ、死ねない!

「リール……。」

 メダルを投げる。鬼のメダル。効果はわからない。来た!ヴィジョンだ。

 俺の中にリールのヴィジョンが現れる。しかし、俺に目押しをする気力はなかった。何か説明書きもあるが読む元気もない。

 手をスライドさせて適当にリールを止める。

 76%。大きく表示された数字は認識できるが、その意味は分からない。一つ

分かるのはまだ足りないという事。

「リール。」

 またメダルを投げてリールを止める。

 138%。まだ足りない。

「リール。」

 197%。もっと。

「リール。」

 264%。もっともっともっと。

「リール。リール。リール。」

 332%、397%、450%OVER。

 これだ。そろそろいいだろう。

モードバーサーカー。解放。

 そして俺の意識は闇に呑まれた。

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