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十三回転目 運任せの村人

 貨車から捕まっていた人たちを降ろしていると、モティが倉庫からロープを持ってきた。今日のモティはホントに気が利く。

 護衛たちを縛り上げて貨車に押し込み、御者を数人起こす。

「おい。起きろコラ。おい!」

「ひ、ひいぃぃぃー」

 俺の顔を見た護衛たちは悲鳴を上げる。俺は可能な限り声色を落として話しかける。

「騒ぐな。うるさい奴から殺す。一人騒げば二人殺す。三人騒げば皆殺す。俺の言う事をよく聞け。聞き漏らした奴も殺す。」

 御者たちは涙を流しながら狂った張子の虎のように首を縦に振った。

「お前たちは被害者じゃない。加害者だ。それを忘れるな。これからお前たちはまっすぐ西に帰れ。この後三時間もしたら再び狩りを始める。もたついた奴は今度こそ殺す。全速で帰れ。町に着くまで貨車の人間の拘束は解くな。依頼人には魔物に襲われたと言え。真実を言えば死ぬ呪いをかけた。ここで見た物もすべて忘れろ。」

 もちろんそんな呪い知らないし使えない。

「二度とこの草原に足を踏み入れるな。仲間や同業者にもそう伝えろ。よしいけ。」

 俺の言葉を皮切りに御者たちは貨車を引いて全力で西に向かい始めた。これだけ脅せば大丈夫だろう。

「大丈夫かしら。」

 一応物陰に隠れていたフェリアが出てきて心配そうな顔を向ける。

「わからん。一応脅しは入れておいた。でも……。」

「お父様にここのことは伝わってしまってるようね。薄々思ってはいたけど。」

 ギルはフェリアの父親にキッチリ報告していたようだ。じゃないとこの草原を大切な商品が来るはずがない。

「あの、どうお礼を言ったらいいのか。」

 俺たちが思案していると一人の男がやってきた。どうやら彼らの代表らしい。

「いや、遠慮はいらない。俺たちの為にやったまでだ。少し休んだら故郷に帰るのにこの貨車を使ってもらって構わない。怪我人は居ないか?」

 ちゃっかり奴らの荷物用の貨車を一台頂いている。ちょっと惜しいが、仕方ない。貨車の荷物を漁っているモティには半分は残しておくように伝えてある。

「ありがとうございます。そこでご相談なのですが、わたしたちをこの草原においていただく訳にはいきませんでしょうか?」

 話が三段跳びに来た。

「いや、アンタたちにも大切な故郷があるだろう。せっかく奴隷にならずに済んだんだ。」

「わたしたちの故郷はあ奴らにすべて焼かれてしましました。あの地に帰っても悲しい思いをするだけ……。」

 そうか。そういうこともあるのか。

「ご迷惑はおかけいたしません。自分共のことは自分共でいたしまする。身の回りの必要ごとがあれば喜んでお手伝いいたしまする。どうか。どうか。」

 男は深々と頭を下げる。俺も勝手にここに住み着いている身だ。そこまで言われると強く断れない。

「トウヤ、良いんじゃないかしら。彼らなら村作りも積極的に手伝ってくれるわ。」

 フェリアにはこの草原を大きな街にする目的がある。そういう意味では彼らは第一の村人になってくれるかもしれない。

「わかった。何か必要なものがあれば言ってくれ。とりあえず、みんな疲れているだろう。俺の家に案内する。付いてきてくれ。」

 家に着くとモティとフェリアはスープを作って庭のみんなにふるまっていた。野菜もたっぷり入った美味しそうな……。

「おい!この野菜どうした!?」

 なんだか嫌な予感がする。

「何ってやつらの荷物の……。」

「おい、まさか全部使ってないだろうな。」

「何言ってるのよ。足りない位よ。」

 思わず肩を落とす。いや、仕方ないか。

「もしや食料にお困りだったのでは?」

 長の男は申し訳なさそうにする。

「いや、気にしなくていい。食べ物はあるんだ。ただ、野菜が……。」

「ああ、そういう事でしたら……。」

 男はごそごそと小さな袋を取り出した。その中から大量の種袋をテーブルに置く。結果元の小袋からはあり得ない量の種そして、念願の種もみを出してくれた。

「こ、これ、いただいても?」

 俺は震える手で種もみを持ち上げる。

「それでしたら、野菜や米は私たちが育てます。そして出来た分をお納めいたしますので。」

 納めるなんて大仰なと思ったが、この提案は滅茶苦茶ありがたい。

「助かります。ウチは三人分の米と野菜が頂ければ十分ですから。楽しみにしています。」

 そう言って俺と長は固く握手を交わした。

「早速、わたくし共の家を建てていきたいのですが……。」

「野菜がもらえるなら安いもんです。ここの資材と工具は自由に使ってください。足りない分は言ってくれれば出しますんで。場所とか細かいことはこのフェリアに聞いてください。」

 フェリアは水道で区切った区画を細かく指示し、どこに何を作るのか指示していた。

 そして、朝が来て昼になった。

「嘘だろ……。」

 俺が起きて外に出てみると村が出来ている。昨日までなかった家がたくさん立っている。

「トウヤ、この人たち何か変よ。」

「だな。ガンホさんの家は?」

 フェリアに案内されて長のガンホさんの家を訪ねる。

「驚かれましたか。」

 ガンホさんは至って落ち着いた雰囲気で話す。

「いや、もう魔法かと。昨日の小袋も。」

「ああ、こちらですか。」

 そういって彼は例の小袋を取り出した。中から小袋の大きさでは考えられない大きさの道具を取り出してみせる。

「これはアイテムですか?」

 フェリアが興味津々に尋ねる。ガンホさんは少し考えた後、意を決して話し始めた。

「これは私たちが作りました。本物のアイテムとは違います。さしづめアイテムもどきですね。」

「まさか、アイテムメーカー!?」

 フェリアが驚きの声を上げる。

「私たちをそう呼ぶ人々もいらっしゃいます。ですが、どうぞこのことはご内密に。」

 後でフェリアに教えてもらった。アイテムメーカーは普通の人でも使えるアイテムを作れる人々だそうだ。彼らにかかれば家を一晩で作り上げることなど造作もないとのことだ。そんな人たちだ。悪用したい者からは引く手あまた。それで彼らはこの草原のさらに東に暮らしていたそうだ。この草原の魔物が今まで天然の要塞になっていたみたいで、その要塞が最近無くなったと。

 身に覚えがあり過ぎる。無下にしなくてよかった。しかし少々オーバースペックじゃないか?

 なにはともあれ、俺たちはまた一歩目標に近付けたわけだ。うん順調順調。


 テオロア、テオロット家地下。身内の者も知らぬ隠し階段。暗い石畳の階段を男が下りていく。その足取りは静かで気品に満ちてはいるが、隠しきれない怒りが漏れ出ていた。

「テオロット様!」

 階段を下りたその先には先日草原を訪れた御者の一人が後ろ手で縛られていた。頬にはこびりついた涙の痕。よく見ると周囲には事切れた御者たちが転がっている。

「……もうお前だけになったか。」

 男は静かに口を開く。

「アイテムメーカーはどうした。」

 男の言葉に御者は肩を震わせる。

「そ、草原で魔物に襲われて……。」

 枯れるほど流したはずの涙が頬を流れ落ちる。

「フム……。」

 男は腰の剣を抜いて御者の肩に突き刺した。

「ぎゃおぉぉぉ!」

 御者の悲鳴は冷たい石畳に吸い込まれて外に漏れることはない。

「最後に聞く。本当のことを言わねばお前の家族にも後を追ってもらわねばならん。アイテムメーカーはどうした。草原で何があった。」

 御者は凍矢によって本当のことを言えば死ぬ呪いに掛けられていると思い込んでいる。しかし、口を噤んでも死ぬ。まして家族が天秤にかけられればこの男に選択肢はないだろう。御者は奥歯をカチカチ鳴らしながら話す。

「男に襲われて奪われました。男と、もう一人。あれはフェリア様……。」

 フェリアの名を口にした瞬間、男の剣は御者の心臓を一突きにした。あっけなく御者は事切れて冷たい石畳に横たわる。

「まったく煩わしい。やはりこの手で殺しておくべきだった。」

 男は手を叩く。

「お呼びでしょうか。」

 男の前に壮齢の男が現れる。ギルだ。

「腕利きの者を集めよ。失敗は許さぬ。このテオロットの厳命と肝に銘じよ。」

「はっ。」

 ギルは恭しく礼をすると音もなく消えていった。

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