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「そういえば、私はこれから何をすればいいのでしょうか。掃除や洗濯といった仕事は一通りできますが……」
アニタに聞いてもすべて否定されたため、いっそのこと家主に近い彼に直接聞いてみることにした。
私が尋ねた瞬間にユーリ様は目を見開き、ものすごい勢いでアニタを見る。アニタは手遅れだというように小さく首を横にふって何かをユーリ様へ伝えていた。
「シア、もう一度言うけど君は昨日からリベルタード公爵家の一人となったのだ。そうだな……君がやりたいことをするのが君の仕事だ。実家ではゆっくり休めていないようだったのだから本を読んだり刺繍をしたりするといい」
「それでは私がダメ人間になってしまいます」
「むしろそれくらいが今の君には丁度いいんだ」
もしかしたら今の話を聞く限り、ユーリ様は私がカレロ伯爵邸でどう過ごしていたがご存知かもしれない。いや、知っていればもっと態度を変えるはずである。今まではそうだった。はじめは誰もが同情してくれるが、直に皆私が家を奪われたのではなくて勝手に私がそう思っているのだと解釈し始める。
昔、カレロ伯爵家が支援している孤児院に行ったことがある。院長は優しかったが、私が勝手にそう思い込んでいると思っているという一人だった。私が家事全般できると知れると、よく手伝いもさせてもらった。
皆がそういうのだったら実際にそうなのかもしれない。私の居場所は生まれたときからなかったのだ、と、そう思うとモヤのかかっていた思考がすべてがはっきりとするようになった。
「シアがすることがなくて困っているんだったら、今日はドレスを選んでみてはどうだろうか? 母上がブラックベリーのドレスデザイナーを呼んでいる。一緒に見てみるといい」
ブラックベリーのドレスデザイナーを家に呼ぶことができるなんて。財力の違いがはっきり出るのはここだ。
ドレスデザイナーは貴族の中では一種の争いでもある。まずはドレスデザイナーを家に呼ぶことが難しい。伯爵家以上になると可能だが、それ以下はよっぽど財力に余裕がないと自分で店へ行くのが通常である。
次にブランド。先程ユーリ様がおっしゃっていたブラックベリーはこの国でも1,2位を争うブランドだ。王妃様御用達でもある。
誰がどのブランドを着ているか、それだけでその家の財力がわかってしまうため服に重点を置く貴族も少なくない。
しかし今自分が実際に着る本人となると話が違ってくる。綺麗な服や美しい服に興味がないといえば嘘になるがそれは生活していく中で必要のないものだった。服なんて肌を隠し寒さをしのげればそれでいい。
ブラックベリーのドレスなんて恐れ多くてきっと買ってもらうことすらもできないだろう。
すると突然バーンと公爵家らしからぬ音がして扉が開いた。
「私の出番の気がするわ!! ユーリウス、今の状況を教えなさい」
あまりの大きさに体がびくりと反応する。
入ってきたのはユーリ様のお母様だった。ユーリ様のような息子がいるとは思えさせないほどの若々しさ。恐らくユーリ様は母親似だろう。優しさを感じさせる目元と目を引く金髪はそっくりだった。
「……母上。シアがびっくりしています。もう少し静かに入ってきてくれませんか」
「そんなことはどうでもいいのよ。ここは私の家でもあるのよ? これくらいのこと、どうってことないわ。それに今はそんな話じゃないでしょう」
まるでスキップをするかのように部屋に入ってきて、私達のテーブルにまでたどり着くとユーリ様の横にあった椅子に腰掛ける。いつの間にか公爵夫人様にも紅茶が準備されている。
瞬時な判断力といい、扱いといい、何をとってもここの使用人たちは一流だった。私も見習わないと。
「まあ、いいでしょう。それに今来ていただいたことに関しては正直有り難いです。母上、今日はブラックベリーのサマンサが来るのでしたよね」
「ええそうよ。久しぶりだからいくつか注文しようと思ってね。それに新しい娘もできたし新しいドレスも準備しなければいけないと思っていた頃だから」
えっ。私の知らないところで話が進んでいってしまっている。ブラックベリーのドレスなんて先程まで自分が着るなんて恐れ多いと思っていたドレスだ。そんなものを……
「シア。そんな申し訳無さで死にそうな顔しないで。シアはもう私達の家族だ。ドレスくらい私から贈らせてくれ」
その言葉はズルい。頼まれるように懇願されたら断りたくても断れなくなってしまう。ただこんな実家では使用人以下の扱いだった出来損ないが令嬢の誰もが憧れるブラックベリーのドレスなんて着るわけにはいかない。これは私だけの問題じゃなくてブラックベリーのブランド自体にも顔に泥を塗ることになる。ここは譲れない。
そう討論し、なんとか辞退しようと試みたが……結果はやはりと言っていいかうまくいかない。なんだかここに来てからずっと私は甘やかされているだけのような気がする。このままでは本当に戻れなくなってしまう。
敗北した私の言葉は今更何を言っても聞いてくれない。嬉々として何着作ってもらおうかと意気込んでいる二人を見ながら気づかれぬようにふうっとため息をつく。少し体が軋んだ気がした。この鈍い痛みに瞬間私の立場を思い知らされる。
どうすることもできない、とそっと目をそらしたとき、話し終わったのかユーリ様のお母様が私の手を引いて歩き出した。その目はいきいきとして、まるで獲物を捉えたかのように爛々と光っているようにさえ思われる。
せめて、一着で許してもらえるのだろうか。




