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最終回
昔のことを思い出していた。
何故忘れていたのだろう。
今思うとユーリは昔とだいぶ変わっている。なんていうか、、優男になった? 昔はもっと人を寄せ付けないタイプだったのに。
でも今のユーリも昔のユーリもどちらも好きなことには変わりない。精霊に連れて行かれそうになったときに私が代わりにかばったのも後悔していない。そのせいできっと石が侵食しているんだろうけど。
そういえば私、あの後どうなったんだろう。
走馬灯が走って体の痛みが引いて、そういえばユーリの声が聞こえたんだっけ。
そこまで思い返すと、ふっと意識が浮上し、瞼の中に光がさし込んだ。
あれ、私、生きてる?
どうやらベッドで横になっているようで足のあたりに少し重みを感じる。なんだろうとそこに目を向けてみると、うつ伏せになって寝ているユーリが目に入った。
その場の状況がイマイチ理解できず、まだよく回らない頭でじっと彼を見ていると、私の少しの動きに気づいたのか勢いよく飛び起き、起きている私を見てびっくりした表情を作っていた。
「シア!! 良かった、目を覚ましたんだね!! 2日間も眠り続けているからもしかして薬が効いていないんじゃないかって心配して……。本当に、良かった……」
今にも泣き出しそうな震えた声を聞いて、とても心配をかけたのだと自覚する。そしてその様子が昔のユーリと重なり、思わず頭を撫でた。
ユーリは理解が追いついていないようだった。
「おはよう、ユーリ。心配かけてごめんね。昔も今も。前は熱を出してそのままユーリと会うことがなかったからきっと不安だったよね」
私の言葉にみるみる目が開かれていく。
「シア、昔の事、思い出したの……?」
こくりと頷く。
そういえば私の体はどうなったのだろうかと腕を見てみると、何週間ぶりか分からない白い肌が目に映った。瑠璃色の石は見当たらない。治っているのだ。
そんな私の様子を見て、何があったかをユーリはいちから説明してくれた。
「…………ごめんね。僕がジュリッサを信じていたばっかりにシアにこんな思いをさせて。ジュリッサとは距離を置くことにしたよ。今はもう僕が行っている改革は可決したからジュリッサと一緒にいる必要はないしね」
思わず笑みが溢れる。ユーリがジュリッサ様と距離を取ってくれたのが嬉しいのではない。いや、実際距離が近かったのはあまり良い思いはしなかったのは事実だが……。それよりもそのしゅんとした感じが昔のユーリのようで可愛かったのだ。
「シアは病み上がりでまだ無理をするべきではないからね。今アニタを呼んでくるからちょっとまってて」
そう言って出ていったユーリは数分後目を真っ赤に腫らしたアニタを連れて戻ってきた。
そこからは消化のいいものを食べては寝て、食べては寝ての繰り返しだった。どうやら私が石になりかけていた際にあまり食べてもうまく栄養にはなっていなかったらしく、医者には過度の栄養失調と診断されたのだ。
今は何を言ってもアニタとユーリは聞いてくれないため、大人しく言うことを聞く。そんな日が2週間ほど続いた。
◇◇◇
「もう、外出できるくらい体は回復したんだね」
一週間ほど前に歩く許可をもらい、毎日庭園を散歩していた。そのかいもあって今日やっと外出の許可が出たのだ。
「はい。あまり家から出られないのも良くないので」
「それは良かった。……ねえシア。どうして昔のような口調に戻してくれないの? 目覚めたときは前と同じだったのに」
あれは……まだ頭がうまく回っていなかったからだ。不可抗力と言うやつだろう。
「あのときは仕方なかったのです。今はもう10年以上この喋り方なので変えるというのが難しいのですが……」
「でも僕以外にはそうじゃないじゃない」
「ユーリだから出来ないんです」
ま、様は外れたしいいかと呟き、私の手を取って馬車へとエスコートしてくれる。
今日はユーリと一緒にあの花畑へ行く約束をしていた。外に出られるようになったら一番に行こうと、そう誘われていたのだ。
一面に咲き誇る橙色の姫百合はいつ見ても圧巻させられる。その中心、昔私とユーリがよく遊んだ場所へと腰を下ろした。
「なんだか、こうしてシアと昔の事を思い出しながら姫百合を見ているなんて……不思議な気分だよ」
「私も同じです。こうしてまたここに来られたことが奇跡ですね」
あの頃とは違い、私達には色々なことがあった。昔と景色は変わらない。だけど、、
「シア」
いつもよりワントーン低い声でユーリに呼ばれる。私に向けられた瞳は真っすぐで、でもどこか不安げに揺れていた。
「今、シアが病み上がりのときに言うべきことではないのだと思う。でもどうしても早く、伝えたくて。僕はシアにあまり良い思いをさせてあげられなかったこともある。だからこんなことを言う資格は今の僕にはないということは分かってるんだ。だけど、、」
一度大きく息を吸ってもう一度目が合う。その瞳はもう全て覚悟が決まった眼差しだった。
「シア、どうか僕に君の人生をくれないか。僕は君に僕の全てをささげることを誓う。これからも、いや、これからは絶対シアにあんな思いをさせないから。世界で一番幸せにする」
さあっと風が吹き、姫百合が一斉に同じ方向へと揺れる。
何年も待ち続けてくれたユーリ。私の愛しい人。
私は昔のような、曇りのない笑みで微笑み、頷いた。
そこから怒涛の速さで結婚式が行われ、まるで彼女しか目に入っていないかのような、美しく蕩けるような笑みをフェリシアに向けらるのが目撃されるようになったということは言うまでもない。
END
お、お疲れ様でしたーーー!!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(__)m
誤字報告も本当に助かりました……!
無事完結ということで。いやー、短かったようで難しかった。私の今までにない口調と書き方がこんなにも難しいなんて思いもよらず……。でも完結できて本当に良かったです。
やっぱり悲壮系恋愛小説は難しいですね。でも書いてて楽しいと感じるときも沢山ありました!
ただやっぱり個人的にはハキハキ系の女の子が好きなところも……。勿論健気に頑張っているフェリシアも大好きですが。
面白かったと感じていただけた方は是非評価していただけると嬉しいです(_ _)
番外編の投稿始めました。良ければどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n5839ig/
2023/03/16追記:初めてランキングに入りました……。
日間ランキング70位です。
2023/03/17 日間ランキング59位