17
ブクマ、評価、ありがとうございます(_ _)
体が酷く痛む。
あの日から数日が経過した。体中が今までにないほど痛み出したのは私がジュリッサ様に向けるユーリ様の笑顔を見てからだと思う。そして体が痛むと同時に精霊石の広がりも加速していった。今ではもう腕や足に侵食し、手袋を着用しないとまずいくらいになっている。まだ顔には侵食していないのが幸いだろう。顔にまで出てしまったらすぐにバレてしまう。少し前にアルノルド様から見せていただいた文献には顔に広がり始めるともうそこから2日と命はないのだそうだ。今までとは比べ物にならない速度で精霊石が侵食していくらしい。精霊石が首元まで来たとき、このときが私のこの屋敷にいられる最後の時だろう。
アニタは私の体を見るたびになにかに必死に耐えるような顔をする。私は今、人間にはありえないような皮膚をしている。自分でも自覚するほど醜いし、触りたくないのは当然のことだと思うが、アニタは決してそうではないという事が伝わってくる。それが酷く嬉しいと同時に、申し訳無さが募っていった。
もちろん四肢にまで精霊石が侵食してくると必然的に動くことが苦しくなってくる。足や腕の付け根から動かそうとすると、ガリっと石と石でこすり合わせるような音をさせて後から酷い痛みが襲う。今までは歩くことくらいなら少し痛む程度だったが、今ではその行為でさえも激痛がはしり、必要以上に歩くのが億劫になっていた。
その表情が出ていたのだろう。ユーリ様が酷く心配して、良くなるまでベッドで休むようにと言われた。医者も呼ばれたが、アニタがうまく交わしてくれて私の体は触られていない。ユーリ様も私が体を触られることに抵抗があると知ると強要はしなかった。ホッとしたのと同時に騙している気持になり心苦しい。
ユーリ様は毎日私の部屋にお見舞いに来てくれる。素敵な花を毎日くれるため、窓際にある花瓶にはいつも美しい花が咲き誇っていた。いつもユーリ様が私の部屋に滞在するのは一時間くらいだろう。雑談や、私が良くなったらどこへ行きたいかなど、あまり話がうまくない私に代わって、たくさんの面白い話をしてくれる。忙しいのにわざわざ時間を取ってくれていると思うと温かい気持ちで満たされていった。
────でもそんな幸せな時間が終わると私の心は荒れ狂い、天邪鬼な自分に嫌気が差す。
これ以上幸せな思いをしてしまって後に戻れなくなってしまう。
──もっとユーリ様と一緒にいたい。
ジュリッサ様との仲が上手くいっていて、私がいなくてもユーリ様は幸せになれるだろう。
──本当は私と共に幸せになってほしかった。
ユーリ様には精霊石化現象について知られたくない。
──ユーリ様と共に死に向かう恐怖に立ち向かいたい。
迷惑にならないところで死ななければ。
──最期までそばにいてほしい。
いつの間に自分はこんなにも欲深かったのだろうかと、驚きを通り越して呆れてしまう。あの日から、ジュリッサ様に向ける溶けるようなような笑みを見てからは、淡く抱いていた願望の気持ちも固く心のなかで閉ざすことに決めた。でもあの日、あの笑顔を見てよかったのかもしれない。
勘違いするところだった。私に対して特別な感情を抱いてくれているのだと。あのいつも見せてくれる笑みは私に対してだけだと思っていたことも。私をカレロ家から連れ出してくれたことも。自惚れてはいけないという忠告だったのだと思う。
そう自覚すると、より一層体の痛みが増す気がした。これならばせめて、昔のように何も感じない心になって欲しい。胸の痛みだけは、馴れる気がしない。
そういえばあの日からアルノルド様とは会っていなことを思い出す。いつもは3日に1回のペースで来てくれていたのに、とっくに3日は過ぎている。期間が開くときはいつも連絡を入れてくれていたが、ついに私はアルノルド様にまで愛想をつかれたのか。自分の醜い姿を見せてしまったのだから仕方ないといえば仕方ない。きっと呆れられてしまったのだろう。
ジュリッサ様に叶うところなんて1つもないのに。それなのに勝手に嫉妬心をいだき、勝手に自分で傷ついている。
毎日がつらくて、痛くて、どうすればいいか分からなくなっていた。
そしてとうとう、その日はやってきた。




