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私がリベルタード公爵家へ来てから3ヶ月の月日が流れた。伯爵家にいた頃とは比べ物にならないくらい幸せで、こんなにも時間が流れるのは早かったのかとふと気がついたときにびっくりさせられていた。

3ヶ月。このままいけば私の命が枯れるのも3ヶ月後。でも最後にこんな素晴らしい思いができたのだからもう思い残すことはない。


いや、一つだけある。それはユーリ様のこと。


たぶん、私は彼に恋をしているのだと思う。はっきりとは断言できないが、彼を見ると小恥ずかしいような、嬉しいような気持ちになる。こんなことは初めてでこの気持ちが本当に恋というものかもわからないけど。

でもこの恋は叶わない事は分かっているのだ。


先日、アルノルド様の教えの元、様々な病気について調べていた。数百年前に大流行した病気や、ここ10年間で新たに確認されているもの。その病気のせいで多くの死者が出たが、今は改善されほとんど見られないもの。または治療法が発見されたもの。逆にまだ何も手掛かりがなく、改善法、治療法が発見されていないもの。多くの病気について知ることが出来たが、その中には奇病と呼ばれるものもあることを知った。

数万人に一人の確率でなるものや噂、伝説などでしか残っていないもの、世の中には出回っていないものまで沢山取り揃えられていた。アルノルド様は魔法師団長という立場上、魔法面で何か解決することはできないかと頼まれ奇病についてよく知っているのだというが、普通の医師などは知らない。そんなものを私が知ってもいいのだろうかと問うたところ、どうせすぐに出回るのだからとあっさり許可が出た。


奇病は私が知らないものが殆どでそれでもその中のひとつ、「精霊石化現象」というものに目がいったのだ。


曰く、はじめは体がだるく、風邪のような現象であるが次第に体は動かなくなり最後には心臓辺りから精霊石が現れ始め、全てが石になると粉々に消えてなくなってしまうのだという。

アルノルド様がいうにはこの病気はほぼ幻に近く、精霊が姿を現さなくなった今、伝説上のものとして取り扱われているらしい。


ただこの病気の症状には身に覚えがあった。

私の今の状況そのままだ。


まだ体のだるさ、体が思うように動かない、までだとこの病気とは判断しづらい。けれど3日前あたりから心臓が痛むと思ったら、私の胸付近から花を咲かせるように瑠璃色の石が付き始めた。どれだけ剥がそうとしても剥がれず、まるで皮膚のようにくっついている。無理やり剥がそうとするならば胸が裂けそうに痛み、とても剥がせるとは思えない。

私が見てもらっていた医師が不治の病だと匙を投げた理由もわかる。その医師は知らなかったのだ。当たり前であろう。世の中に出回っていないものが、貴族でもない医師の耳に入るはずなどないのだから。

もう少し早ければ対処はできたかもしれないが生憎もう石が出てきてしまった。「精霊石化現象」について記述されていた本にも治療法、改善法は記されていなかった。



こんな不治の病気持ちに気持ちを伝えられて何になろう。仮に私のことを思ってくださってもお互いが不幸になる結末にしかならない。それならば私の我が儘かもしれないけれど、ユーリ様にはもっと私よりもふさわしい方を選んで幸せになっていただきたい。


ユーリ様が私を婚約者に選んでいただけた理由がまだわからない。私とユーリ様はあの日、私がリベルタード公爵家へ到着した時が初対面のはずだ。とするならば何故ユーリ様は私を選んでくださったのか。自分の中でひとつ仮説を立ててみた。


もしかして、ユーリ様はしかたなく婚約しなければいけなかったのではないか。


ユーリ様は御年17歳。来年には18歳を迎え、成人される。そのときにまだ噂ではあるが公爵家を継ぐと言われているのだ。でも成人の際に婚約者がいないのは体制が悪いと言われたからではないか。そのためろくに社交界にも顔を出していないカレロ家の長女を選んだのではないか。ユーリ様が本当に想う相手が見つかったときに婚約破棄をしてもあまり騒ぎにならないために。

そう考えたら何もかもが納得がいくようになった。


ユーリ様はお優しい。だからそんな役回りである私にもあんなに気を使ってくれて私に一切不自由のないように、私に必要なものを全て揃えてくださった。だからこそ私が恋心というものを抱いてしまったのだけれど……。


でもそれならばその方がいい。ユーリ様に私への気持ちがないならば私がいなくなったときも悲しまずにすむだろうから。愛する人が消えていく悲しさは幼い頃によく知っている。母がこの世からいなくなったときの悲しさは今でも忘れることができない。そんな思いを、ユーリ様にはさせたくない。



「失礼します、フェリシア様」


控えめにドアをノックし、小さく返事をするとアニタが入ってきた。


「フェリシア様にお茶会の招待状でございます」


「私にお茶会の招待状?」


招待状なんてもらったことがないため初めての経験でびっくりする。私がリベルタード公爵家の婚約者候補であることはまだ公には知られていないはずだ。でも私個人にリベルタード公爵家へ送られてきたということはその事実を知っている上位貴族の中でも一部。


「はい。マドリガル侯爵家のジュリッサ様からでございます。ジュリッサ様はユーリウス様の又従兄妹に当たる方で私の記憶だとユーリウス様と同い年だったと思います」


そんな方がわざわざ私にお茶会の招待状をくださるとは。それにおそらくジュリッサ様は私がユーリウス様の婚約者候補だと言うことを知って招待状をくださっている。後にいいように転がるか悪いように転がるかは分からないが、私に拒否権はない。私はまだユーリウス様の婚約者候補(・・)というだけで婚約者ではない。つまり伯爵家が位の高い侯爵家の招待状を無視するわけにはいかないのだ。



「……日程は、、明後日ね。お返事を書くから便箋を用意してもらってもいい?」


かしこまりましたと、アニタが部屋を退出する。


その次の日、お待ちしていますという返事が返ってきた。

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