理解のできなかったその現象に名前を付ける。
足を早め近づくその生物。
戦闘になればおそらく負けるであろう。
(どうすれば回避出来る……)
その思考も間に合わず、鼻先まで近づかれてしまい
「シャアアアア!」
その叫びと共に横になぎ払われる腕。
後ろへ飛んで避けるも、近づかれてしまう。
「次の攻撃は避けることが出来ない」
そう覚悟した次の攻撃は、僕の右腕を上へ払い除けた。
手から零れる石。
だが、ここで攻撃は終わる。
目の前の僕には目もくれず、弾き飛んだ石を拾い上げる生物。
そして大事そうに石を抱え、またしても威嚇を繰り返す。
今度は命が無いぞということなのだろう。
「ここにいるのは危険か」
そう思い、背を向けることなく後ずさりをしていく。
ジリジリと生物へ距離を取っていく間、目線を逸らさなかった。
ある程度離れた後に違和感に気づく。
石を眺めながらどこか泣きそうな目をしている彼は
一体どんな気持ちだったのだろうか。
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「君の中の考え方では理解できないんだろうな。自らに降りかかるであろうマイナス的要因……いわば敵を放置してまで何をしているのか」
自分が傷つく可能性をあの生物が理解できないとも思えない。
ましてや、人間よりも野生の世界で生きてきてるであろうあの生物がだ。
「生物に感情はあるのか。人間ですらあるというものもいれば、ないというものさえいる。君に答えが出せるのか。」
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あの場から離れ、思考を整理することにした。
開けた場所・ある程度の間隔をあけて置かれた石・マーク
これらが意味するものと、あの生物が考えている意味。
これが分からなければ……
「僕は先に進めないか」
しかし、どこか人間に近いその行為に名前がついているような気もした。
あのトカゲのような生物にある独特の習性だった場合、部外者が乱入した場合に威嚇だけで留めるものでもないからだ。ただ殺せば万事解決する。
「なにか、あそこで殺したくない理由でもあったのか……」
どう考えても、あそこはなにか特別な場所であろう。
そして森の中に刻まれたあのマークとは何か違うのだろう。
あの生物が几帳面に何かをする程の何か。
「1度森のマークと照らし合わせるか」
刻まれたマークの元まで戻り、あの場所で見たマークと同じものが無いか検索にかける。共通項があればなにかヒントが得られるかもしれない。そして……
「一致する……ものがある」
木とはまた別に置かれたマークされた石。一つではなく二つある意味。
あそこに集めておかないといけなかったからだ。
集める理由はどこか感情に委ねているのであろう。
「もしや、これって……」理解のできなかったその現象に名前を付ける。
あの生物が怒った理由も、あの場所の意味を知るために……