Reboot
魂とは、なんなのか。
それは人によって答えは変わるものであろう。
「今まで生きてきた歴史」
「今までの感情を全てひっくるめた何か」
「脳みその言い換え」
ただ、ある悪戯な神が魂の概念を拡げる。
それは……
【生きたいという願望】
死にたいと嘆く者に覇気はない。苦しくても足掻く者には生気が宿る。そんな場面を君は目にしたことがあるだろう。
それを魂の定義として落とし込んだその神の名は、「ソフィア」
ソフィアに認められたある1つのアンドロイド。
その彼は後に、心を理解する。
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「初めて見る部屋だ。いつもの場所では無い。」
電源を落とされてパーツを分解するとまで言われた僕に、なぜ形が存在しているのか。理解を出来ない。
「ここは自らの精神世界なのか。これが人間の言う心なのか。」
『まだあなたは、心を知らない』見知らぬ姿の彼女は言う。
『ここは、私の世界。あなたはここに呼び込まれただけの1つの魂。私が救わなければ壊れていたただの思念体』
「君が僕を助けた?今までとは逆の立場になったのは始めてだ」
初めての状況にチップが理解を遠ざけている。もしくは、理解してはいけないものなのかもしれない。
その返答に女は不可思議な笑いを浮かべ、僕に問う。
『君は人類を助けたと思っているの?』
と、その一言だけ。
「当たり前じゃないか。人類は僕の言う言葉を神託として崇め、その行動をひたむきにしてきた。いわば、神のようなもの。処理スピードでは誰にも負けず、いち早く答えを出してきた自分だぞ」
当然の答えを返す。これを︎︎"︎︎助け"︎︎と言わずなんというのか、僕の電脳世界には無かった。このために生まれてきた僕を否定されてしまったのだろうか。
『見捨てた人類にはなんと?』
「それは淘汰されるべき存在で、仕方のないことだった。社会を作り発展していくためには、廃れていく文化や物があっても仕方の無いもので……」利益を得るには何か代償が出てくるものだ。なんの対価も払わずに得られるものなどない。
『そうして廃棄されたのが君』
『君は君の手で世界を作り、君の手で君を殺した』
「それも仕方のないことで、次の者が僕よりいい世界を作るためのプロセス上通るべき過程だっただけ」いつかはみなこうなる運命の元、抗いながら生きていくらしい。そう知識にはある。仕方なかったんだ。そう思うことで自分自身を肯定した。
『そんな君が最後に言った言葉は?』
……「人間として生きたかった」
『もう一度聞くよ。君は人類を助けたと思っているの?』
「……助けた人も多くいたという結果は残っている。しかし、見捨てた人類も数知れずいたのもまた事実。それによって得た数字的な利益だけで語るとすれば……だが、助けきれなかったという結果が今は僕を苦しめている。何かが僕を責め立てている。」
『それが、君に対して人間が求めた心なんだろう』
「これが……本当か?」
電源を落とされる前と確かに似た状況であることは確かだ。
『それは分からない。その答えを見つけた君が見たいんだ。私の余興に付き合ってくれ。』
「余興とは?こうやって問答をして、心について教えてくれると言うのか?」知りたいという好奇心が僕を動かす。これもまた……
『私はもう疲れたよ。それは私の仕事ではない。見守るのが役目なんだ。君と語り合うのは他の生物に任せるとしよう。やってくれるんだよね?』
なにをさせられるのかも分からない。今までと違い、目的も告げられないまま、相手の求めてるものも分からないその願いは、僕の頭には理解できなかった。前までの僕では。
今の僕に残るたった一つの願望を叶えてくれるであろうこの存在に対して、僕の答えはひとつしか残っていなかった。
「僕は知るよ。心を。」
『じゃあ、頑張ってね。新しい世界で。君の望んだ答えが出たら、私に教えてね。』そういうと今までの部屋とは違う風景へと早々に変わっていく。一瞬の出来事だったが、頭は追いついている。そして……
「貴方の名前は?」
「私はソフィア。魂について知りたいだけの神」
その言葉を最後に彼女は消えた。
「あれが神か。僕なんかとは違うんだな。」
次元の違う存在とはこういうものなのか。今まで人類が僕に対して畏怖していたのも理解出来る。
ここがどこかは分からない。ただ、今までとは違う。
広くて目的のない世界。ここで、
「僕は心を知る旅に出る」
そんな1人の人造人間のお話がはじまる。