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雀(スパロウ)の涙(ティア)の円卓会議

作者: 大錦蔵

  ※カクヨムに投稿しようとします。

 「集まったようだな・・・・・・」

 純白な神殿の奥、中央に円卓が置かれた部屋に、五つの影が入室する。

 円卓の奥側である上座に腰を下ろした白髪白髭の老人が、壁際の燭台から発される蝋燭の灯に照らされながら他のメンバーに声を掛けた。

 ただでさえ、息が詰まるような雰囲気の中、彼の一声によってますますこの場の空気が張り詰める。


 「この度、皆には『殺陣たて鳥瞰ちょうかん』会議に参加してくれて感謝する。

 どうか皆には、お互いの立場など気にせずゆるりとこの会を存分にたのしんでくれ。

 今、ワシの孫が、貴殿らのために、紅茶と茶菓子を用意しているので、遠慮なく召すといい」


 上座にて、威風堂々と腰を下ろす老人は、ここの神殿に似合うような純白のキトンを身に着けている。髪型はオールバック。垂れ目気味であるその瞳から、厳しさと優しさが滲み出ていた。

 

 ムノウス ティタン


 実は、驚くべきことに彼は、聖なる山の中腹に住む神の一端なのだ。


 「ムノウス様。ただの凡夫である我々を聖地に入るのを許可していただき、その上意義に満ちた会議にお招きいただき、至極光栄でございます」

 老人の神に、感謝を述べたのは彼の隣に座る耳の尖った青年だ。

 艶やかな緑髪を持つ彼は、緑色の絹製の服を身に纏っている。尖っている耳には金のリング。手元には腕輪を着用している。端正な顔立ちをしており、常に穏やかに目を細めている。

 気品に満ち溢れている彼だが、その右手には今、痛々しく包帯で包まれていた。


 レピドライト ダージリン


 彼は、遠隔視の魔法が得意なエルフなのだ。


 

 「ムノウス爺さんよ。あたしは、紅茶より熱い緑茶の方が良いんだが・・・・・・あんたの孫に言ってくれないか」


 「ポンポ子さん。いくら親しい仲とはいえ、神様相手に少々不遜では、ないでしょうか」


 「同じ『スパロウティア』のメンバーでしょ。お堅い事言いっこなしだろ」


 レピドライトにたしなめられたのは、和服を身に着けた美人だ。

 彼女の特徴は、茶色の短髪。そして何より頭からは丸くて茶色い耳、臀部からはふわふわの茶味がかった尻尾が生えてあった。


 信楽焼 ポンポ子


 彼女は、外見の特徴通り狸型の獣人で、自分をいろんなものに変化する妖術のエキスパートだ。



 「ポンポ子ちゃんず~る~い。あたいも紅茶から変える。フルーツジュースがい~い~」


 「ああ、スチュワートまで・・・・・・」


 「よいよいレピドライト。ワシの孫がこちらまで参った時頼めば良い」


 ここの入り口に一番近い下座にて、駄々をこねる少女がいた。

 幼いながらも朗らかな顔立ちをしている彼女の両腕には、異様な事に緑色の羽毛に覆われている。それもそう、彼女の両腕には、人間の手は存在せず、代わりに大きな翼が広げられていた。


 スチュワート ピースフルパロット


 種族が、カカポタイプの人鳥ハーピーである彼女は、彼らにとってかけがえのないムードメーカーだ。


 「ああ・・・・・・また人が死ぬ。私が知らないところで人達が、次々に命を落としていく・・・・・・」


 「アザミちゃん。また自分の能力で気を病んでいるよ」

 

 「・・・・・・だって、しょうがないじゃない。ああ、気が狂いそうだわ。

 勇者が魔王に殺される。私にとって知人か知人でないか、関係ない・・・・・・」


 集会の中で泣き叫ぶのは、灰色のマントと緑のローブを着ている細身の女性だ。

 彼女は、髪型はワンレンで、ところどころほつれている。肌は病的なまでに青白く、頬はこけていた。

 

 サザミ クダーン


 彼女の正体は、自分の意思にかかわらず、遠くにいる人間の非業な死を未来視してしまう能力を持った妖精・・・・・・バンシーだ。


 「サザミさん。先程勇者が殺されるとおっしゃいましたよね。差し支えなければ、その人の居場所を教えてくれませんか?」


 「ええ、いいわ。人間界のディープパス領西部5421よ・・・・・・現在も戦っているわ」


 「5421か・・・・・・かしこまりました。今映し出します」

 サザミの説明に相槌をしながら円卓の中央部に下半球程はめ込まれている水晶に手をかざすレピドライト。

 彼がその水晶に手をかざした後、それが眩く光り出した。

 次にそれは、現実世界でいうテレビやスマホの液晶画面みたいに、本来映らないはずの遠隔の景色を鮮明に投影し出したのだ。

 

 「あ・・・・・・ああ。私が予知した内容と一緒・・・・・・」


 俯瞰する形で、水晶を通して二人の影が確認できた。

 一人は、両刃の剣を構えた人間。もう一人は、禍々しいデザインを誇る杖を傾ける悪魔。


 「さて・・・・・・」

 ムノウスがこの場にいるみんなに伝える。

 「『殺陣たて鳥瞰ちょうかん』の鑑賞会を始めようか」


 映像の奥にいる勇者と思しき人間が、悪魔に斬りかかる。

 そのことについて。


 「ふむ、踏み込みが甘いな」

 ポンポ子が冷淡に批判し。


 迫り来る凶刃を、魔法の半透明な壁を生み出して防いだ魔王と思しき悪魔に対し。


 「まあまあな魔力量ですね・・・・・・」

 レピドライトが不敵な笑みを浮かべながら感想を漏らす。


 他のメンバーも無遠慮に、そして辛口に彼らの戦いを批評する。


 「まあ何この甘い剣筋は・・・・・・だからお亡くなりになるのよ」


 「わあ、すごいビュンビュン走り回って戦っているね。これじゃあ、あたい目で追えないよ。ちゃんと観る人の事も考えて戦ってよね。意地悪な人達!!」


 「全く魔族や人間程度の戦闘なぞ、我々神々からしてみれば、お遊戯同然だな」

 

 勇者達の戦いを観戦している『スパロウティア』のメンバー達を、この場の出入口から傍観している影が一つ。

 その影は、ムノウスの孫で、たった今彼らの為のお茶を用意していたのだ。

 その孫は、奴らのあまりの無様さに呆れ果て、開いた口が塞がらず棒立ちしてしまっている。

 もちろん、呆然としている対象は、決して水晶の奥で命を懸けて戦っている二人ではなく・・・・・・。



 


 (こいつら、おじいちゃん含めて全員滅茶苦茶弱いのに、何勇敢な戦士達相手に、安全圏である高みから、素人同然の批判を偉そうにしているんだ・・・・・・?

 どんだけ身の程知らずなんだコイツら・・・・・・)


 そう、孫の言うとおり、ムノウス達は、全員束になってもゴブリン一匹にも敵わないほど、戦闘能力と戦闘経験を持ち合わせてはいなかったのだ。

 もちろん高速で動き回る勇者達の姿を、目で追えないでいる。適当な事をそれぞれそれっぽく評しているだけだ。


 ムノウスは、他の神々から、『無能のムノウス』という蔑称をつけられるほど、ただただ優しさと神性を兼ね備えているぐらいしか褒めるところがない老人だ。

 戦場に行けば、味方に誤って攻撃することが前提で、鍛冶場に働いたら、貴重な金属を無駄にするだけ、冥府に従事すれば、悪霊を地獄から間違えて逃がしてしまうし、天馬の手綱を握れば百パーセントの確率で事故を起こす。全く何の役にも立てれない神なのだ。

 他の神々からも、何もするなと言われる始末。


 

 レピドライトは、他のエルフから『脆弱のエルフ』と呼ばれている程に体が弱く、現に今、レピドライトの右手に巻かれた包帯も、実は彼が僅かな段差に躓いて転んでできた傷だ。

 魔法の才も、遠隔視の分野だけ突出してるだけ、攻撃系に関しては、からっきしだ。



 ポンポ子は、確かに変化の妖術が得意なのは事実だが、その度に自分の命が危機にさらされる程運が悪い。

 例えば、彼女が人間を驚かそうと牡丹餅に変化したところ、筋骨隆々の大男に睨まれたことで萎縮してしまい、食べられる寸前まで焦って術が解けなくなったことだってあったし、竹ぼうきに変身したかと思えば、近くの家事手伝いによって溢れかえる粉塵を掃除するため使われ、そして窒息で気絶寸前になったこともあったのだ。つけられた二つ名は、『自滅のぽんぽ子』



 スチュワートは、カカポタイプの人鳥ハーピーらしく、翼を持っているはずなのに飛行能力を持たず、見知らぬ人にすぐなつき、挙句の果てに危険な場面に出くわすとフリーズしてしまう特徴を持つ。

 可愛らしい容姿を持ち、誰に対しても愛想を振りまくスチュワートに、下心で近づく変質者も数多くいて、彼女が誘拐されかけたり性的暴行を受けそうになったことも一度や二度だけでない。

 それなのにもかかわらず彼女は、相変わらず楽観したまま。

 危機管理能力は、全くのゼロである彼女に対して、『花畑のスチュワート』とという不名誉な二つ名をつけられるのも仕方ないかもしれない。



 『非力のアザミ』の二つ名を持つアザミは、確かに他人の死を予見するという規格外の能力を有している。しかし彼女の予知は、どう誰が尽力しても覆らない、呪いと呼んで差支えないほど強力なものであった。

 (※別に彼女は、誰かに死の運命を突き付ける能力なんてものは、有していません)

 そんな制御不能な能力ともいえない能力を持った彼女は、ただ憐れとしか言いようがなく・・・・・・。




 孫は、内心イラついていた。

 (・・・・・・・・・・・・そうだ。お茶にワサビでも混ぜよう・・・・・・この情けない取るに足らない雀の涙どもが)

 

 ご覧下さりありがとうございました。

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