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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
8/20

07



 桜咲き乱れる今日この頃、私達は小学生になりました。

 幼稚舎とは違う敷地に存在する初等部の校舎。うーむ…流石セレブ校、広い上に新築並みに美しい。これから六年間お世話になります。


 そして個人的に嬉しいのが…祝☆スマホデビュー!


「優深ちゃーん、早速交換しよっ」

「あいよ」

「……………」


 入学式の前日、いつもの三人で集まっていたのだが。楓が酸っぱい顔で私達の手元を凝視している。


「………俺も欲しい」ぽそっ


 折角だし明日さぁ、校門で揃って写真を……あらっ?

 楓?ちょっと目を離した隙に消えた。帰った?


「帰った?じゃねーよ。ここ楓んちじゃん」

「あ、そうだった」


 トイレかなあ?と思い放置。だが彼が戻って来たのは、それから二時間後のことだった…



「俺も買ってもらった!!仲間入れてっ!!」

「「……………」」


 満面の笑みでスマホを掲げる楓。後ろに立つレンさんは笑いを堪えているご様子。

 この寂しがりやめ、愛いやつめ。このままだとわんこ系に成長しそうだな…楽しみだ!




 *




 迎えました入学式。待ちに待ったクラス発表…な・の・だ・が!!!


「なんでー!?私だけ別のクラス!!」


 優深、楓、拓馬くんは二組。私は四組!?

 そうか…一華はメインキャラじゃない、モブ寄りのサブキャラだ!!だから『幼少期の顔合わせ』に存在しなかったんだ!!


「えー!?一華クラス違うの…!?」


 私はショックで、クラスが張り出されている掲示板に手を突いて項垂れた。

 だが私以上に楓がショックを受けており、大きな目に涙を溜めて溢れる寸前。ごめんよ、泣かないで…ってなんで私が謝ってんだ。


「まあ仕方ない。クラスが違くても友達なのは変わらないんだし」


 優深ちゃんがそう慰めてくれる。楓は絶対遊びに行くからー!と叫びながら、優深ちゃんに引き摺られて二組へ消えた。



 気を取り直して私も自分のクラスへゴー!

 自己紹介、クラスメイトと交流…うん、順調な滑り出し。初日から数人と仲良くなれたぞ。


 今日は顔合わせだけで終了、家に帰ってパーリナイッ!!

 っと、その前に優深ちゃんを捕まえて話を聞かねば。



「ねえ、ゆっくんいた?」

「分からん」


 そう…確実にゆっくんは二組にいる。本名は不明だが、シノ様のように名字が由来の可能性もあるわけだ。


「名字が「ゆ」で始まるのは女子の弓川さんしかいない。

 男子は名前が「ゆうご」「ゆうすけ」。もしくは「ちふゆ」が怪しいかも」

「ちふゆ…」


 ちふゆくん…ゆっくん。ありそう…


「フルネームは(いおり)千那(ちふゆ)。出席番号が俺の前だから、席が前後なんだ」

「………それだっ!!」

「うおっ!?」


 私が突然手を叩いて大声を出すもんで、優深ちゃんはビクッと肩を跳ねさせた。


「そうだ思い出した!ゆっくん、優深、拓馬で番号が並ぶんだった!!」

「マジか、じゃあ確定っぽいな。俺のケツは絶対守る…!」


 キリッとしながらお尻を押さえるな、気色悪い。

 とにかく顔を見れば分かるかも。よし、翌日の放課後二組に突撃だ!




「あれだ、女子に囲まれてる奴」


 どれ…廊下からこっそり見物。優深ちゃんの指す先にいる黒髪の少年…ビンゴ!!

 優深、シノ様、拓馬のように華やかな美形ではないが、春の陽だまりのような笑顔が印象的な少年。

 間違いない、ゆっくんだ。笑うとえくぼができるのが特徴。高校では茶髪だったはずだから、将来染めるのだろう。

 ではゆっくん対策を…する前に。


「彼は放っておいて大丈夫、今は朔羅さんを優先しよう。

 優深ちゃん、二人きりでゆっくり話したい」

「…わかった。じゃあ週末、うちに来て」


 私はまだ優深ちゃんに話していないことがある。計画に関わる大事なことだから、共有しておかないといけない。

 さて、帰る前に楓に挨拶しとこ。そう考え姿を探すも見当たらず。



「あ、一華ちゃん。ここにいたんだね」

「拓馬くん。って楓も?」

「一華!もー、お前のクラスに行ったのに!」

「ありゃ、入れ違いだったね」


 後ろから声を掛けられ、振り向けば二人が歩み寄って来る。

 楓は私に抱き着くのが習慣になっているのか、自然にハグされた。もうちょい大きくなったら禁止にしよう。


「…一華ちゃん、東雲くんと仲良いね?」

「うん、それなりに」

「そうだぞ。俺と一華は将来結婚するんだからな!」

「は…!?」


 いや勝手に決めんなやーい。


「……僕との婚約は断ったって聞いたけど」

「へ?いやだって…私達、お互いのことよく分かってないし」


 なんか、拓馬くんが不機嫌そうに唇を尖らせている。まさか嫉妬?でも私、彼に好かれるようなこと何もしてないぞ?


「一華。ちびっ子の恋愛感情なんてな、「顔が可愛い」のと「よく会うから」とか「優しい」程度で生まれるんだよ。

 お前ら親同士が仲良いから、拓馬も自然とお前を好きになってんだ」

「うそん」


 その分冷めるのも簡単だろうけど、と優深ちゃんは小声で続ける。

 女の子も「格好いい」「足が速い」とかで好きになるもんね。じゃあ一華と拓馬が惹かれ合ったのは…それかあ。

 次第に本物の恋心になったのかもしれないけど、二人の根底にあったのは…幼い恋のままだったのかな。


 真実なんて私達に知る由はないけれど。



「とにかく、結婚は置いといて!私もう帰るね、また明日」

「待って一華!週末遊びに行っていいか?」

「ぼ、僕も!」

「あー…ごめんね、週末は大事な用があって」


 ぺちん、と合掌してお断り。

 拓馬くんはしょんぼりして「どうしてもダメ…?」と指をいじる。楓はなんでー!?と地団駄を踏んだ。


「こら楓。自分の都合ばかり押し付けるんじゃない、拓馬もだ。

 大切な用事なんだから、遊ぶのはまた今度な」

「大切な…用事。……はっっっ!?

 よし分かった、頑張れ!!俺は応援してるぞ!!また手伝えることがあったら言え!」

「「?」」


 楓は何を納得したのか、超笑顔で帰った。ついでに拓馬くんも連れて行ってくれたが…何事?




 *




 迎えた週末、絶対部屋に誰も来ないで!と家族に念を押して会議スタート。


「優深ちゃん。…最終確認するけど。

 私達は命を落とす予定の全員を助けるつもり。トラックの運転手も罪を背負わなくていいんだから最高の結果と言える。

 その計画に異論はないね?」

「ない」


 …うん。ならばよし!


「ごめんね、私今まで黙ってたことがあるの」

「……そっか」

「理由を聞かないの?」

「必要ない。一華が判断した結果だろう?俺は信じる」

「…ありがと」


 優深ちゃんは真っ直ぐに私を見据える。うん…私もそれに応えたい。



「実はね。ビルから飛び出す子供ってのは…誘拐された子供なの」

「は…!?」


 驚くのは無理もないけど、説明を続けるよ。

 拡大コピーした現場の写真を机に広げる。私達は頭を突き合わせて見下ろした。


「このビルの二階が誘拐犯のアジトなの。

 被害者の子供は詳細不明だけど、犯人達の隙を見て逃走に成功。でも当然追い掛けて来るから必死に走るでしょう」

「…おう。とにかく前しか見えないから、横から迫って来る車に気付かなかったんだな…」


 優深ちゃんは眉間に皺を寄せて唸る。

 理由はいくつもあるけれど、絶対にこの子を死なせてはいけない。



 こんな最終手段でなく、他にも色々シミュレーションをした。

 誘拐を阻止できないか?不可能。どこで拐われたのか知らないもの。

 その子の家に警告?危険。最悪私の両親が誘拐犯と疑われる。


「その子は警視総監の孫娘。もしも「お宅のお孫さんが誘拐されます!警戒してください!」と通報したとして。

 警備が厳重になって、その子は助かるかもしれない。でも…」

「こっちの立場が悪くなる…か。匿名で通報しても特定される可能性が高い。

 どこで計画を知った?と問われても答えられる訳がない。そんで親が…ってか。

 盛大な後出しするなあ…」

「ごめんよ」

「いいよ」


 優深ちゃんは私を責めるでもなく、頭をぽんっと叩いてくれた。

 こうやって一心に信じてくれるのって…嬉しいなぁ…

 温かくて涙が出そう。でも泣いている暇はない、まだまだ計画は穴だらけだ!



「優深ちゃん、そっちの首尾はどう?」

「俺と一華で「余興の練習をしたいから、先に会場入りする」って父さんに認めてもらえた。俺達は安藤の車で先行するぞ。

 姉さんの車にGPSを仕込んで、俺のスマホで動向を追う。これで現場を通過するタイミングは読めるはず」


 よし!私達は意見を出し合い、綿密な計画を練る。

 私の言葉に優深ちゃんが反論し、優深ちゃんの提案に私が待ったをかけて。

 互いに納得のいくまで一切の妥協をせず話し合いを重ねる。


 一日では終わらず、かなりの時間を要した。

 それに加えて日々の生活も忙しい。ゴールデンウィークだって余興の練習もあり、遊ぶ暇なんてなかった。

 誘ってくれた楓には本当に申し訳ないけど…彼は涙を堪えて「いいの、ヒーローは平和のために頑張ってるんだから」と言ってくれて…ヒーロー?


 全て終わったら、いっぱい遊ぶぞ!と活力をもらえた気分。ふふ…本当に楓は、いい男になると思うよ!



 そのお陰もあって、これ以上無い計画が完成した。

 あとは実践するのみ…絶対に成功させる!!!


 結婚式が近付くにつれ、私達の緊張も高まる。

 カレンダーにマルを付ける手が震える。最悪の光景が頭に浮かんでしまい、手先が冷えて喉が渇く。



「久しぶりだね。余興、楽しみにしてるよ…って元気ないね…?」

「朔羅さん…」

「一華ちゃん、なんだか顔色が悪いわ。具合悪いの…?」

「愛お姉ちゃん…!」


 そんな時に彼らの顔を見ると目頭が熱くなる。

 同時に気が引き締まり…彼らの未来を何物にも奪わせない…!と拳を強く握った。



 心の休まらない時間が流れ、六月。

 運命の結婚式の日がやってくる。



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