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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
6/20

06



「あのね、楓くんはみんなと一緒に遊びたいんだって。でもお友達とどうやって仲良くなればいいのか、分からないみたいでね。

 二人はとっても良い子で、先生いつも大助かりなんだけど…よかったら教えてあげてくれる?」

「「…………」」


 先生にお願いされ、優深ちゃんと顔を見合わせる。東雲は現在離れた所で折り紙中、こっちをチラチラ見ているが。

 先生は昨日、落ち着いた東雲から事情を聞き出すことに成功。曰く…


 例えば「おもちゃよこせ!」=「一緒に遊びましょう」という意味で。

 昨日のマスコットも「これをください。代わりに自分のおもちゃを差し上げます」と言いたかったらしい。

「ずるい!」とは「お友達(私)とお揃いで羨ましいです。仲間に入れてください」という意味が込められていた、と。


 東雲はどうにも絶望的に人付き合いがド下手な模様…子供って自然と友達になってるイメージだったなあ。

 彼に対してイラついてたのも事実だけど、純粋に仲良くしたいと思ってくれてるなら…嬉しいかな。


「これね、二人にお手紙書いたんですって」


 んー?先生に渡されたのは可愛らしい封筒。中身を読むと思わず絶句してしまった。



『うみくん、いちかちゃんへ

 らんぼうにしてごめんなさい。おれもめるへんせぶんだいすきなので、よかったらおはなししてください。こんどうちにあそびにきてくれますか?

 かえでより』



 あ〜〜〜〜〜、可愛いすぎん〜〜〜???

 優深ちゃんは胸を押さえて、私は両手で顔を覆って悶える。拙い文字で一生懸命…所々涙の痕が…母性きゅんきゅんするぅ〜もう許すぅ〜〜〜。



「…行こっか、ウミちゃん」

「仕方ないな」


 優深ちゃんは小さく笑った。手を繋いで東雲に近寄り、後ろから声を掛ける。


「し…カエデくん」

「!!んと……おっおれとおりがみしろ!!」

「行こうぜイチカ」

「そだね」

「ぎゃあああんっ!!いかないでっ、いっしょにあそんでっ!!」


 悪態つくのが癖になってんのか?踵を返そうとしたら半泣きで服を掴まれたので、やれやれだぜと椅子に座る。



「「「……………」」」


 沈黙が。気まずいので折り紙に集中する。

 前世アドバンテージがあっても、この小さな手で折るのは難しい。ふと、隣に座る東雲の手元を見てみる。


「あれ…カエデくん上手ね」

「え?」

「ほんとだ。お前手先器用なんだな」

「!!!ま、まあなっ!!」


 私はチューリップ、優深ちゃんは風船を折っていたのだが。東雲は綺麗な鶴を生み出していた。

 褒められて嬉しいのか、顔を真っ赤にして汗をかいて満面の笑み。……可愛いな。


「こ…これ、あげる」


 え。東雲は私にピンク、優深ちゃんに赤の鶴を差し出した。

 これは…お詫びのつもりなのだろうか。俯いて服をぎゅっと握り締め…困ったように体を揺らしている。


 …謝りたいけど、なんて言っていいのか分からないのかな。



「……しののめ、昨日はゴメンな。どっかケガしてないか?」


 その様子に、優深ちゃんが頭を掻きながら口火を切った。東雲はガバッと顔を上げると、目をキラッキラに輝かせている。


「わたしもひどいこと言ってゴメンね」


 お詫びの品として、歪なチューリップをプレゼント。丁度手元にあったので。

 東雲はそれを大事そうに受け取ってくれて、何か言おうと口をパクパクさせる。だが言葉にならず…待つこと数秒。


「お……おれ、も、ごめん。あのね…らんぼうしてごめん。わがまま言ってごめん」


 彼はポロポロと泣きながら謝罪の言葉を口にする。うん…よくできました。

 頭を撫でてあげると、嬉しそうにはにかんだ。可愛いの権化かよ…


「ほら」

「「?」」


 優深ちゃんがポケットから何か小袋を取り出した。受け取った東雲が不思議そうに開けると…


「これ…!!」

「メルヘンイエロー(※金太郎)だ。レッドはおれな、そこはゆずらん」

「くれんのか!?」

「だからわたしたんだよ。見せつけるだけって、おれそんな性格わるくねえよ…」


 優深ちゃんはカバンを机の上に乗せ、チェーンを替えたレッドを見せる。私もピンクを見せつけると、東雲はいそいそとイエローを自分のカバンに括り付けた。


「おそろい!!」

「うん、そうだね」

「これで仲直りだぞ」

「「「……あははっ!」」」


 三人でマスコットを見せ合うと、誰からともなく笑い声が上がった。




 *




「カエデ。お前人の物とったりすんのやめろよ?」

「う…分かってる。じぶんでも止められなくて…」

「仕方ないねー。今度からわたしたちが止めてあげるよ」

「そこまで言うならさせてや…ごめんなさいおねがいします!」


 微妙に素直になった東雲…いいや、楓はしょぼんと膝を抱える。

 最初は「このクソガキ…」とすら思っていたけども。どうやらこの子は、純粋に友達が欲しかっただけみたい。

 親や使用人といった大人でもなく、彼に逆らえない子供でもなく。

 私達のように…喧嘩して仲直りして、手を繋いで笑い合えるような存在が。きっと今まで寂しかったんだろうな。

 ではMissionⅣを…ってもう必要ないかな。楽しげに話す二人を見ているとそう思う。



「お前らうちにあそびにこいよ!メルヘンセブンごっこしよう!」




 ということで、週末お宅訪問決定。


「こっちこっち!!」

「「おじゃましまーす」」


 あ、こちら手土産でございます。立派な門まで楓が迎えに来てくれたが、玄関遠っ。

 運転手さんには一旦帰ってもらい、素敵な庭を眺めながら歩く。


「いらっしゃい」

「まあ…可愛らしいお友達ね」


 玄関に入ると、ご両親登場!?お二人とも三十代後半と聞いているけど、若々しくてそうは見えないな。

 わざわざお出迎えいただき恐縮です。なんでも初めて一人息子にお友達ができた…と東雲家はフィーバー状態らしい。


「どうかこれからも、息子と仲良くしてあげてね…」

「はい。こちらこそ」


 ああ、お袋さん泣いてしもた。ただ家に来ただけなのに…そこまで感激する?


「最近は家でも良い子になって…うぅ。

 可愛すぎて甘やかしてしまって、どうしようかと悩んでいたんだ…本当にありがとう」

「「はは…」」


 親父さんまで…楓よぉ、今まで何やらかしてたんだ?当の本人はキョトンとしているが。



 広い邸宅、豪奢な調度品。本当にここは日本ですか?シャンデリアすご〜い。

 楓の部屋でとっても美味しいお菓子にジュースをいただきまして、もうお腹いっぱい〜。


「あ〜、ごくらく〜」

「ちょっと昼寝していい?」


 なんでかご両親や使用人が大集合してるが、気にせず優深ちゃんと並んでベッドに横になる。子供はお昼寝の時間…



「メルヘンセブンごっこはー!!?」


 …のそりと起き上がると、楓が涙目で地団駄を踏んでいる。ふう、遊んでやるか!

 彼は「これやるよ!」と変身ベルトを渡してきた。言われるがままに装着…おい、まさか。


「よーし!!変身だ!

 パワーさいきょうのやせいじ!メルヘンイエロー!」


 え、口上も?決めポーズも!?ちょっと…は、恥ずかしいぞ?

 しかもおじさまが動画撮影してるんだけど。プロなの?と言いたい本格的なカメラと照明で。

 使用人の皆様もお揃いで、私達のお遊びを見物している。やりたくないが、とても断れる空気ではない…!


「…………」


 何より、先に変身した楓が泣く寸前だ!!


「…頼れる仲間とともに!メルヘンレッド!」


 あーーー!!先にやられた…!優深ちゃんはレッドの名に相応しく、真っ赤な顔でプルプル震えながらポーズ決める。やってやるよちくしょう!!!


「お月さままで飛ばしてあげる!メルヘンピンク!」


 私は六歳、無垢な子供子供子供…!と言い聞かせてポーズ!大人達がわあっ!と盛り上がった。いっそ殺せ…

 七人揃っていたら最後に「メルヘンセブン、見参!」と台詞があります。

 変身が完了すると、おばさまに武器を渡される。ピンクは鉄扇、レッドは刀、イエローは(まさかり)…もちろんおもちゃね。

 これで、何を、しろと?


「ホントは七人ほしかったなー、しょうがない。

 レッド、ピンク!怪人があらわれたぞ!」


 どこに?部屋を飛び出す楓を追い掛けると…



「はーっはっはっはっ!出たなメルヘン戦士よ!!」

「助けてー!」

「なんてひきょうな…!」


 優深ちゃんと一緒にズザザァーッ!とスライディングしてしまった。

 悪役のコスプレした男性使用人が、メイドさんを人質に!!ノリノリだなこの家!!


「てやあーーーっ!!」

「「「ぐわあーーーっ!」」」

「えいやっ!」

「「ぐはあーっ!!」」


 悪の組織を倒しまくる私達…移動する度撮影隊も付いてくる。

 開き直った私達は、役になりきって暴れた。とても正気じゃいられないが!!


 その映像は特撮風に編集され…大橋家と月見山家にも渡り、それぞれの家宝となるのでした。




 *




 そんなんあって、あまり東雲家には行きたくない。また撮られるし…

 ジャングルジムの一番上に三人で座っておしゃべり。楓がいるせいか、他の子は寄って来ない。


「なあなあ、あと五人あつめようぜ!」

「足し算ちがってるぞ、四人だ。

 行きたいのはやまやまだが(嘘)…おれたち忙しいんだ」


 ふう…と優深ちゃんがため息を。その通り…愛さんの結婚式まで、ついに半年を切った。まだ私達は現場の特定も出来ていない…


 揃って暗い顔をしていたら、楓が首を傾げる。

 なんだよー、仲間はずれすんなよー!と言うので、話したって変わるまいと思って愚痴ってみた。



「わたし達行きたい所があるんだけど…連れてってもらえないの」

「なんで?おじさんとおばさんに言えば?」

「…理由を言えねえんだ。だけど行かなきゃいけない」

「ふーん…?」


 楓は顎に手を当てて唸る。数分後パッと顔を上げて、私達の顔を覗き込んだ。


「なあなあ。それはヒーローか?」

「「ヒーロー?」」


 ああ…良い事なのかって?まあ、人命救助ではあるが。

 故にそうだよ、と肯定する。その返答に楓はにっこり笑って──





「やだーーーっ!!!!行くのぜったい行くの、お出かけするのーーーっ!!!!」

「ぼ…ぼっちゃ〜ん…!」


 うるさっ!?

 数時間後、東雲家はまだ若い男性がお迎えに来た。彼も戦隊モノが好きで、楓と一番歳が近くて仲良しらしい。

 運転手兼護衛の、通称レンさん。そんな彼は押しに弱いらしく、楓の癇癪に超困ってる。


 そう、楓は現在地面にのたうち回って叫んでいる。その甲高い声に誰もが耳を押さえて距離を取る。


「これからウミとイチカとお出かけなのーーー!!!連れてって連れてけーーー!!!!」

「坊っちゃーん!あのですね、お二人のお家にも許可を得ないといけません!」


 そうそう、キッチリしてるね。楓は一瞬止まり、私と優深ちゃんのお迎えを確認する…!


「いいでしょーーー!!?まだまだあそぶの足りないのーーー!!!」


 ターゲットがこっちに!!なので私は運転手さんの服を引っ張って、耳打ちした。


「ちょっとだけお出かけしていい?レンさんが一緒だし、大丈夫だから」

「仕方ありませんね…では同行させていただ」

「大人はダメなのっ!!!子どものヒミツなんだからぁっ!!!」

「坊っちゃん僕は?成人男性なんですけど?」


 その後も楓が止まらない。困り果てた大人達は…

 レンさんが責任持って二人を家まで送る事。

 親には運転手からお出掛けを報告する事。

 今回だけ!と約束をして収束した。



「よっし、行くぞ二人とも!」

「「…………」」


 仕事を終えた楓は、何事も無かったかのように立ち上がり親指でビシッと車を指した。

 こいつ…いつもこうやって大人を操ってたんか…!!




「いいのかなあ…カエデにわがままはダメって言っときながら」

「まあ…さーさんと姉さんのため、今回だけだ」


 東雲家の車で、並んでジュニアシートに座る。楓の癇癪を利用するのは気が引けるが、言ってる場合じゃねえな!


「いいかーレン。今日の行き先はだれにもナイショだぞ!とーさんとかーさんにも!!」

「えー…僕はお仕事ですから…」


 運転しながらレンさんは苦笑する。


「ごめんねレンさん、ナイショにしてほしいの!危ないと思ったら家にも言っていいから」

「うーん…?(なんか子供の遊びにしては深刻だな?)分かりました、ナイショですね」


 よっしゃ話の通じる人でよかった!

 優深ちゃんの道案内で車は走る。まず一つ目の候補地へ。



「…ちがうなあ」


 記憶とよく似た場所だが、三階建てのビルが無い。じゃあ…次の場所だ!



「ここ!!!ここだよ、絶対!!」

「おおっ!!」

「「?」」


 ビンゴ!ビルもあるし軒先テントもある!信号は無くて直線道路!!

 そして…さーさんが花を添えるガードレール。『スナック 絶望♡』の看板!!


「ありがとうカエデ!おかげでなんとかなるかも!」

「お…おう?かんしゃしていいぞ!」

「(おんやあ…?坊ちゃん、顔真っ赤ー)」


 これで希望が見えてきた!嬉しくなって思わず楓に抱き着いた。あとは…なんとか当日先回りをする!



「もう帰っていいんですか?」

「うん!ありがとうレンさん!」

「ぜったいだれにも言うなよ!言ったらきゅうりょうへらすぞ!」

「こらカエデ。レンさんは力になってくれたんだ、その言い方はダメだ」

「う…ごめん、レン」

「いいえ、お気になさらず(にしても、ただ道路を見たかっただけ?この場所を探してたみたいだけど…でも)」


 ?レンさんがミラー越しにこっちを見た。


「(あの坊ちゃんが素直に言う事聞いて…いいお友達ですね)」


 今度はふふっと笑った?にしても…



「ねーねーウミちゃん、レンさんかっこいいよね!」

「…トシの差考えろよ?」

「わかってるよー。ああ、前世で出会いたかった…」

「(前世であの人ペラペラじゃん…)」


 レンさんは垂れ目で穏やかな兄ちゃんなんだけど、護衛として鍛えてるから筋肉もあって。黒いスーツも決まってて、本当に素敵…届け、私のハート♡




 翌日、何故か楓は子供用スーツで登校。七五三みたいでかわいー!と言ったら、ものっそいキレられた…なんでよ。



「なんでキャラの名前も曖昧なのに、道路は覚えてんだよ」

「変な名前のスナックの看板がある、って印象に残ってた。お酒飲める歳になったら行こうよ!」

「行くの怖えよ…」

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