06
「あのね、楓くんはみんなと一緒に遊びたいんだって。でもお友達とどうやって仲良くなればいいのか、分からないみたいでね。
二人はとっても良い子で、先生いつも大助かりなんだけど…よかったら教えてあげてくれる?」
「「…………」」
先生にお願いされ、優深ちゃんと顔を見合わせる。東雲は現在離れた所で折り紙中、こっちをチラチラ見ているが。
先生は昨日、落ち着いた東雲から事情を聞き出すことに成功。曰く…
例えば「おもちゃよこせ!」=「一緒に遊びましょう」という意味で。
昨日のマスコットも「これをください。代わりに自分のおもちゃを差し上げます」と言いたかったらしい。
「ずるい!」とは「お友達(私)とお揃いで羨ましいです。仲間に入れてください」という意味が込められていた、と。
東雲はどうにも絶望的に人付き合いがド下手な模様…子供って自然と友達になってるイメージだったなあ。
彼に対してイラついてたのも事実だけど、純粋に仲良くしたいと思ってくれてるなら…嬉しいかな。
「これね、二人にお手紙書いたんですって」
んー?先生に渡されたのは可愛らしい封筒。中身を読むと思わず絶句してしまった。
『うみくん、いちかちゃんへ
らんぼうにしてごめんなさい。おれもめるへんせぶんだいすきなので、よかったらおはなししてください。こんどうちにあそびにきてくれますか?
かえでより』
あ〜〜〜〜〜、可愛いすぎん〜〜〜???
優深ちゃんは胸を押さえて、私は両手で顔を覆って悶える。拙い文字で一生懸命…所々涙の痕が…母性きゅんきゅんするぅ〜もう許すぅ〜〜〜。
「…行こっか、ウミちゃん」
「仕方ないな」
優深ちゃんは小さく笑った。手を繋いで東雲に近寄り、後ろから声を掛ける。
「し…カエデくん」
「!!んと……おっおれとおりがみしろ!!」
「行こうぜイチカ」
「そだね」
「ぎゃあああんっ!!いかないでっ、いっしょにあそんでっ!!」
悪態つくのが癖になってんのか?踵を返そうとしたら半泣きで服を掴まれたので、やれやれだぜと椅子に座る。
「「「……………」」」
沈黙が。気まずいので折り紙に集中する。
前世アドバンテージがあっても、この小さな手で折るのは難しい。ふと、隣に座る東雲の手元を見てみる。
「あれ…カエデくん上手ね」
「え?」
「ほんとだ。お前手先器用なんだな」
「!!!ま、まあなっ!!」
私はチューリップ、優深ちゃんは風船を折っていたのだが。東雲は綺麗な鶴を生み出していた。
褒められて嬉しいのか、顔を真っ赤にして汗をかいて満面の笑み。……可愛いな。
「こ…これ、あげる」
え。東雲は私にピンク、優深ちゃんに赤の鶴を差し出した。
これは…お詫びのつもりなのだろうか。俯いて服をぎゅっと握り締め…困ったように体を揺らしている。
…謝りたいけど、なんて言っていいのか分からないのかな。
「……しののめ、昨日はゴメンな。どっかケガしてないか?」
その様子に、優深ちゃんが頭を掻きながら口火を切った。東雲はガバッと顔を上げると、目をキラッキラに輝かせている。
「わたしもひどいこと言ってゴメンね」
お詫びの品として、歪なチューリップをプレゼント。丁度手元にあったので。
東雲はそれを大事そうに受け取ってくれて、何か言おうと口をパクパクさせる。だが言葉にならず…待つこと数秒。
「お……おれ、も、ごめん。あのね…らんぼうしてごめん。わがまま言ってごめん」
彼はポロポロと泣きながら謝罪の言葉を口にする。うん…よくできました。
頭を撫でてあげると、嬉しそうにはにかんだ。可愛いの権化かよ…
「ほら」
「「?」」
優深ちゃんがポケットから何か小袋を取り出した。受け取った東雲が不思議そうに開けると…
「これ…!!」
「メルヘンイエロー(※金太郎)だ。レッドはおれな、そこはゆずらん」
「くれんのか!?」
「だからわたしたんだよ。見せつけるだけって、おれそんな性格わるくねえよ…」
優深ちゃんはカバンを机の上に乗せ、チェーンを替えたレッドを見せる。私もピンクを見せつけると、東雲はいそいそとイエローを自分のカバンに括り付けた。
「おそろい!!」
「うん、そうだね」
「これで仲直りだぞ」
「「「……あははっ!」」」
三人でマスコットを見せ合うと、誰からともなく笑い声が上がった。
*
「カエデ。お前人の物とったりすんのやめろよ?」
「う…分かってる。じぶんでも止められなくて…」
「仕方ないねー。今度からわたしたちが止めてあげるよ」
「そこまで言うならさせてや…ごめんなさいおねがいします!」
微妙に素直になった東雲…いいや、楓はしょぼんと膝を抱える。
最初は「このクソガキ…」とすら思っていたけども。どうやらこの子は、純粋に友達が欲しかっただけみたい。
親や使用人といった大人でもなく、彼に逆らえない子供でもなく。
私達のように…喧嘩して仲直りして、手を繋いで笑い合えるような存在が。きっと今まで寂しかったんだろうな。
ではMissionⅣを…ってもう必要ないかな。楽しげに話す二人を見ているとそう思う。
「お前らうちにあそびにこいよ!メルヘンセブンごっこしよう!」
ということで、週末お宅訪問決定。
「こっちこっち!!」
「「おじゃましまーす」」
あ、こちら手土産でございます。立派な門まで楓が迎えに来てくれたが、玄関遠っ。
運転手さんには一旦帰ってもらい、素敵な庭を眺めながら歩く。
「いらっしゃい」
「まあ…可愛らしいお友達ね」
玄関に入ると、ご両親登場!?お二人とも三十代後半と聞いているけど、若々しくてそうは見えないな。
わざわざお出迎えいただき恐縮です。なんでも初めて一人息子にお友達ができた…と東雲家はフィーバー状態らしい。
「どうかこれからも、息子と仲良くしてあげてね…」
「はい。こちらこそ」
ああ、お袋さん泣いてしもた。ただ家に来ただけなのに…そこまで感激する?
「最近は家でも良い子になって…うぅ。
可愛すぎて甘やかしてしまって、どうしようかと悩んでいたんだ…本当にありがとう」
「「はは…」」
親父さんまで…楓よぉ、今まで何やらかしてたんだ?当の本人はキョトンとしているが。
広い邸宅、豪奢な調度品。本当にここは日本ですか?シャンデリアすご〜い。
楓の部屋でとっても美味しいお菓子にジュースをいただきまして、もうお腹いっぱい〜。
「あ〜、ごくらく〜」
「ちょっと昼寝していい?」
なんでかご両親や使用人が大集合してるが、気にせず優深ちゃんと並んでベッドに横になる。子供はお昼寝の時間…
「メルヘンセブンごっこはー!!?」
…のそりと起き上がると、楓が涙目で地団駄を踏んでいる。ふう、遊んでやるか!
彼は「これやるよ!」と変身ベルトを渡してきた。言われるがままに装着…おい、まさか。
「よーし!!変身だ!
パワーさいきょうのやせいじ!メルヘンイエロー!」
え、口上も?決めポーズも!?ちょっと…は、恥ずかしいぞ?
しかもおじさまが動画撮影してるんだけど。プロなの?と言いたい本格的なカメラと照明で。
使用人の皆様もお揃いで、私達のお遊びを見物している。やりたくないが、とても断れる空気ではない…!
「…………」
何より、先に変身した楓が泣く寸前だ!!
「…頼れる仲間とともに!メルヘンレッド!」
あーーー!!先にやられた…!優深ちゃんはレッドの名に相応しく、真っ赤な顔でプルプル震えながらポーズ決める。やってやるよちくしょう!!!
「お月さままで飛ばしてあげる!メルヘンピンク!」
私は六歳、無垢な子供子供子供…!と言い聞かせてポーズ!大人達がわあっ!と盛り上がった。いっそ殺せ…
七人揃っていたら最後に「メルヘンセブン、見参!」と台詞があります。
変身が完了すると、おばさまに武器を渡される。ピンクは鉄扇、レッドは刀、イエローは鉞…もちろんおもちゃね。
これで、何を、しろと?
「ホントは七人ほしかったなー、しょうがない。
レッド、ピンク!怪人があらわれたぞ!」
どこに?部屋を飛び出す楓を追い掛けると…
「はーっはっはっはっ!出たなメルヘン戦士よ!!」
「助けてー!」
「なんてひきょうな…!」
優深ちゃんと一緒にズザザァーッ!とスライディングしてしまった。
悪役のコスプレした男性使用人が、メイドさんを人質に!!ノリノリだなこの家!!
「てやあーーーっ!!」
「「「ぐわあーーーっ!」」」
「えいやっ!」
「「ぐはあーっ!!」」
悪の組織を倒しまくる私達…移動する度撮影隊も付いてくる。
開き直った私達は、役になりきって暴れた。とても正気じゃいられないが!!
その映像は特撮風に編集され…大橋家と月見山家にも渡り、それぞれの家宝となるのでした。
*
そんなんあって、あまり東雲家には行きたくない。また撮られるし…
ジャングルジムの一番上に三人で座っておしゃべり。楓がいるせいか、他の子は寄って来ない。
「なあなあ、あと五人あつめようぜ!」
「足し算ちがってるぞ、四人だ。
行きたいのはやまやまだが(嘘)…おれたち忙しいんだ」
ふう…と優深ちゃんがため息を。その通り…愛さんの結婚式まで、ついに半年を切った。まだ私達は現場の特定も出来ていない…
揃って暗い顔をしていたら、楓が首を傾げる。
なんだよー、仲間はずれすんなよー!と言うので、話したって変わるまいと思って愚痴ってみた。
「わたし達行きたい所があるんだけど…連れてってもらえないの」
「なんで?おじさんとおばさんに言えば?」
「…理由を言えねえんだ。だけど行かなきゃいけない」
「ふーん…?」
楓は顎に手を当てて唸る。数分後パッと顔を上げて、私達の顔を覗き込んだ。
「なあなあ。それはヒーローか?」
「「ヒーロー?」」
ああ…良い事なのかって?まあ、人命救助ではあるが。
故にそうだよ、と肯定する。その返答に楓はにっこり笑って──
「やだーーーっ!!!!行くのぜったい行くの、お出かけするのーーーっ!!!!」
「ぼ…ぼっちゃ〜ん…!」
うるさっ!?
数時間後、東雲家はまだ若い男性がお迎えに来た。彼も戦隊モノが好きで、楓と一番歳が近くて仲良しらしい。
運転手兼護衛の、通称レンさん。そんな彼は押しに弱いらしく、楓の癇癪に超困ってる。
そう、楓は現在地面にのたうち回って叫んでいる。その甲高い声に誰もが耳を押さえて距離を取る。
「これからウミとイチカとお出かけなのーーー!!!連れてって連れてけーーー!!!!」
「坊っちゃーん!あのですね、お二人のお家にも許可を得ないといけません!」
そうそう、キッチリしてるね。楓は一瞬止まり、私と優深ちゃんのお迎えを確認する…!
「いいでしょーーー!!?まだまだあそぶの足りないのーーー!!!」
ターゲットがこっちに!!なので私は運転手さんの服を引っ張って、耳打ちした。
「ちょっとだけお出かけしていい?レンさんが一緒だし、大丈夫だから」
「仕方ありませんね…では同行させていただ」
「大人はダメなのっ!!!子どものヒミツなんだからぁっ!!!」
「坊っちゃん僕は?成人男性なんですけど?」
その後も楓が止まらない。困り果てた大人達は…
レンさんが責任持って二人を家まで送る事。
親には運転手からお出掛けを報告する事。
今回だけ!と約束をして収束した。
「よっし、行くぞ二人とも!」
「「…………」」
仕事を終えた楓は、何事も無かったかのように立ち上がり親指でビシッと車を指した。
こいつ…いつもこうやって大人を操ってたんか…!!
「いいのかなあ…カエデにわがままはダメって言っときながら」
「まあ…さーさんと姉さんのため、今回だけだ」
東雲家の車で、並んでジュニアシートに座る。楓の癇癪を利用するのは気が引けるが、言ってる場合じゃねえな!
「いいかーレン。今日の行き先はだれにもナイショだぞ!とーさんとかーさんにも!!」
「えー…僕はお仕事ですから…」
運転しながらレンさんは苦笑する。
「ごめんねレンさん、ナイショにしてほしいの!危ないと思ったら家にも言っていいから」
「うーん…?(なんか子供の遊びにしては深刻だな?)分かりました、ナイショですね」
よっしゃ話の通じる人でよかった!
優深ちゃんの道案内で車は走る。まず一つ目の候補地へ。
「…ちがうなあ」
記憶とよく似た場所だが、三階建てのビルが無い。じゃあ…次の場所だ!
「ここ!!!ここだよ、絶対!!」
「おおっ!!」
「「?」」
ビンゴ!ビルもあるし軒先テントもある!信号は無くて直線道路!!
そして…さーさんが花を添えるガードレール。『スナック 絶望♡』の看板!!
「ありがとうカエデ!おかげでなんとかなるかも!」
「お…おう?かんしゃしていいぞ!」
「(おんやあ…?坊ちゃん、顔真っ赤ー)」
これで希望が見えてきた!嬉しくなって思わず楓に抱き着いた。あとは…なんとか当日先回りをする!
「もう帰っていいんですか?」
「うん!ありがとうレンさん!」
「ぜったいだれにも言うなよ!言ったらきゅうりょうへらすぞ!」
「こらカエデ。レンさんは力になってくれたんだ、その言い方はダメだ」
「う…ごめん、レン」
「いいえ、お気になさらず(にしても、ただ道路を見たかっただけ?この場所を探してたみたいだけど…でも)」
?レンさんがミラー越しにこっちを見た。
「(あの坊ちゃんが素直に言う事聞いて…いいお友達ですね)」
今度はふふっと笑った?にしても…
「ねーねーウミちゃん、レンさんかっこいいよね!」
「…トシの差考えろよ?」
「わかってるよー。ああ、前世で出会いたかった…」
「(前世であの人ペラペラじゃん…)」
レンさんは垂れ目で穏やかな兄ちゃんなんだけど、護衛として鍛えてるから筋肉もあって。黒いスーツも決まってて、本当に素敵…届け、私のハート♡
翌日、何故か楓は子供用スーツで登校。七五三みたいでかわいー!と言ったら、ものっそいキレられた…なんでよ。
「なんでキャラの名前も曖昧なのに、道路は覚えてんだよ」
「変な名前のスナックの看板がある、って印象に残ってた。お酒飲める歳になったら行こうよ!」
「行くの怖えよ…」