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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
5/20

05



 それから私達は少し仲良くなった。

 とは言え拓馬くんとは家族ぐるみでの付き合いはあるが、幼稚舎では意外と顔を合わせない。

 現時点では『公園で会った時だけ遊ぶ間柄』に近い。でもそれじゃ計画が進まないんだよなあ。ま、朔羅さんと愛さん問題を解決してから考えよう。


 それより…東雲楓が厄介。

 誰かが絵本を読んでいれば「よこせ!」ブランコで遊んでいれば「どけ!」

 みんな従うから調子に乗る。流石に喧嘩になったら先生も動くはず。

 もう…お前初等部の入試無くてよかったな、としか言えない。家の力を以ってしても不合格確実だぞ。


 彼と親しくなる気のない私と優深ちゃんも適当に相手してる。下手に反抗して目ぇ付けられてもやだし。




 そんなこんなで時間は流れ、私達は年長さん。


「一華!さーさんと姉さんの式の日取りが確定したぞ!!」

「……!!」


 ついに…!!

 それは来年の六月。早速優深ちゃんの部屋で作戦会議!!


「優深ちゃんパソコン持ってるんだ、いいなー」

「スマホもあるぞ。一華もお父さんに頼めば?」

「小学生になったら買ってくれるって」


 優深ちゃんが慣れた手つきでパソコンを操作する。まず…地図の確認だ!!

 自宅から出発するのは間違いない。式場の高級ホテルまで…車で約二十分か。


 最短ルートから、混み具合によって変動する場合…裏道含めてあらゆる可能性を考慮して。

 そこから航空写真に切り替え、私の記憶と符合させる!


「でも…回想シーンを軽く読んだだけで覚えてるのか?」

「特徴のある看板とか、まあ色々あんのよ。

 子供が飛び出して来るのは小さいビルの一つ。それはよく覚えてるの」

「……ふうん。とにかく任せた!」

「合点!!」


 それに…ラストでさーさんが事故現場に足を運ぶシーンがあった。

 彼は今まで本気で優深を愛してると思っていたが、ただ愛さんを重ねていただけだと気付いたのだ。


『ごめん…愛。僕はなんてことを…

 僕は優深を君に見立てて満足していた、最低な男だ』


 地面に膝を突き涙ながらに謝罪して、それが最後の出番だった。



 そのシーンも参考にして…!いくつか場所を絞ったものの、実際に見てみないとなんとも。

 これは失敗=愛さんの死。そして…それにより未来に多大な影響を与える。絶対に特定してみせる!!

 しかし幼稚園児だけで外出できようもなく。


「え…お出掛け?どこに行くんだい?

 …?なんでそんな所に?遊びに行きたいなら遊園地に行こうか!」

「「……………」」


 そうですよね、ただ道路を見たいなんて可笑しいよね!

 どちらの親にも事情など語れず…私達は刻一刻と過ぎる時間を、もどかしく感じていた。




 *




「どうしよう…もう最終手段しか無いのかなあ!?」

「誰にも言えないしな…」


 実は私達前世の記憶があるんですぅ!それでここは漫画の世界で、愛さんは結婚式の朝事故で亡くなるんです!!

 なんて誰が信じるよ。変なアニメに影響されて…とか言われるのがオチ。


 使用人にお願いしたところで、結局両親の許可が下りなきゃ動けない。

 くそ…!自分が今無力な子供であることを忘れてた。ああもう!!



「信号は見当たらない、直線の片側二車線道路なのは確実。なんの店か分からないけど、二つ並んだ軒先テントが近くにあるはず。で、三階建てのビルから飛び出し」

「そこまでいくと特定できそうなのになあ…」


 なんとか候補を二ヶ所にまで絞れた。問題はここからだ…!


「最悪私達が二手に分かれて…ってなるけど」

「姉さんの結婚式の朝に、そんな連れてってくれる大人いねえよな」

「「う〜ん……」」


 ここからどうしても詰む。諸事情あって…愛さんもだが、子供も極力死なせたくない。

 お勉強中も上の空…私達は焦燥感ばかり募らせていた。




「おおはし、やまなし。なんだそれ?」


 あ?イライラしてるとこに東雲楓登場。ちょっと…今は勘弁してくんない?

 彼が興味を持っているのは、優深ちゃんとお揃いでカバンに付けてるキーホルダー?これは…


 テレビで大人気放送中である『御伽戦隊 メルヘンセブン』のマスコットだ。モチーフは日本の昔話。

 私達はこれが好きでグッズなんかを集めているのだ。一度ショーを観に行ったこともある。


「これはかぐや姫モチーフのメルヘンピンクだよ」

「こっちは桃太郎のメルヘンレッド」

「ふーん…」


 東雲はジロジロ見てると思ったら…突然眉間に皺を寄せて、優深ちゃんのメルヘンレッドを掴んだ!?


「ずるい、かっこいい!よこせ!」

「は?いや、おやに買ってもらえよ」

「おれはコレがほしいの!!」

「ちょ…ちょっと…!」


 まーた始まったわこのガキ大将!!

 これまで奴が欲しがったのは絵本や遊具、学園の備品ばかりだった。だから譲ってきたが、私物までやる訳ないでしょうが!!


「これはおれのだ!」

「うるさい!!おれがほしいって言ったらおれのなの!!」

「ざけんなこの野郎…!」


 優深ちゃんも同じ考えで、これは絶対やらん!と抵抗する。


 教室でぎゃあぎゃあと大騒ぎする二人。私はどうしようかと右往左往、子供達は皆巻き込まれないよう遠巻きに見ている。

 ついに取っ組み合いが始まった…!先生なんとかしてー!!


「ふ、二人とも落ち着いて!楓くん、優深くん、一旦離れましょう!」

「こいつが離れりゃいいんだよ!」

「コレはおれの!!」

「俺のだって言ってんだろうが!!」


 あわわ、優深ちゃん子供の振りも忘れとる!!先生が間に入るも止まらない。

 優深ちゃんはカバンを抱えて、東雲はマスコットを引っ張って。


「「わあっ!?」」


 その時…チェーンが切れてしまった。

 反動で二人は後ろに吹っ飛び、東雲は先生が助けて優深ちゃんは私が咄嗟に受け止めた。

 だが子供の力では支えられず、一緒に倒れただけだが。



「うわごめん!一華、大丈夫かっ!?」

「…!お、おまえが手をはなさないからだぞ!」

「なんだと…?」


 それでも尚悪びれない様子の東雲に…私は何かブチっと切れる音がした。


「いい加減にしなさいっ!!!」

「「!!?」」


 ここ最近のストレスやら色々溜まっていた私は、つい声を荒げてしまった。

 大人気ないとか言ってらんねえ、もう我慢の限界だ!約三年間も耐えてきたんだからな!!



「これは優深ちゃんの物、アンタのじゃない!!

 同じのが欲しかったら「どこで買ったのか教えて」ってお願いすればいいの!!いつまでも世界は自分を中心に回ってるなんて妄想してるんじゃない!!

 私達はアンタみたいな自己中心的なお子様の相手してる暇はないの!!」


 一気に捲し立てると、東雲はぽかんと口を開けている。恐らく生まれて初めて怒られて、状況を理解できずにいるのだろう。

 それでも私は止まらない。止められない!!彼の額をビシっと指差し(※いけません)啖呵を切った。


「子供だからっていつまでも許されると思うなよ!!その考えを改めない限り、金輪際私達に近寄るな!!

 アンタに正義の味方メルヘンセブンを持つ資格はない!!」

「ふぐぅ……わあああああんっ!!」


 う…泣き出した…!流石にこの状況は…まずい…よね?


「うあああああ!あーーー!!びゃーーー!!!」

「……じゃ、私達はこれでっ!」

「一華!?ちょ…先生さよならっ!」

「え!?あ、どど、どうしましょ…!?」


 東雲は先生にしがみ付き泣き叫ぶ。騒ぎを聞き付けて、他クラスの先生や子供まで集まってきた。

 更にお迎えの時間だった為、保護者達も何事かと騒ついてる…!

 私と優深ちゃんは混乱に乗じて逃走、先生ごめんなさーい!!



「一華ちゃん、何かあったの?」

「お母様!なんでもないわ、早く帰りましょう!!」

「そうなの…?」


 ナイスタイミングー!!お母様の背を押し車に乗り込む!

 優深ちゃんも丁度迎えが来ていたので帰っていく。はあ…疲れた。


 両親が呼び出されたらどうしよう…と帰ってからも身構えていたが音沙汰なし。



「優深ちゃん、学園から連絡あった?」

『いんや、なさそう。それより怪我してないか?』

「平気よ。でも、マスコット…」

『チェーンを替えりゃ大丈夫さ。一華が無事ならそれでいい』


 夜、優深ちゃんと電話で話す。どうしてこうなった…と同時にため息。


 でも、東雲もあれで将来は少しマシになるのだ。

 元々ご両親から真っ直ぐに愛されているから、根は良い子…なのかな?

 拓馬と違って『他人の努力を決して笑わない』という部分もある。


 シノ様は俺様なところがあるが、家柄と顔以外はあまり特筆すべきところが無いのだ。

 勉強は下から数えたほうが早いし、運動は平均。なんかビリヤードが異様に上手い設定だったっけ。

 故に偉そうにしてはいるが、その実自己評価は低い。折角だからもうちょいシノ様を語っておこうか。



 シノ様と優深は別クラスで、高校に進学してから一度も顔を合わせていなかった。

 ところがその約半年後、ついに出会ってしまう!


「優深が…学園祭の出し物、執事&メイドカフェで。拓馬に唆されてメイド服着るんだわ、これが超似合うのよ」

『俺その日は全力で風邪引くわ』


 そこへ多くの女生徒を連れて現れたシノ様。優深を見て…

「お、すっげえ可愛い子いるじゃん!今まで気付かなかったぜ」と気に入る。昔会ったことがあるのは互いに忘れてる。

 デートに誘うも「無理です」と断られ。人生でフラれる経験無かったから、当然衝撃を受ける訳ね。


「躍起になって口説き始めるんだけど、結果は振るわない。

 次に顔を合わせた時、優深は私服で勘違い継続。

 数日後、ようやく優深が男だって知るんだけど…その時には手遅れ。もうムキになってたんだよね。「絶対俺に惚れさせてやる!」って」

『節操ないなあ…』


 だけど顔と金に靡かない人間に、どう対応すればいいのか分からないんだわ。

 そんで当然の如く身体を重ねる二人ですが。次第にシノ様は本気で優深を好きになってしまう。

 対照的にどれだけ尽くしても、優深の心は傾かないのよ。


「まあ優深も行為自体は楽しんでるんだけどね…」

『とんでもねえド変態だな、優深…』


 いいんだよ、読者も喜ぶんだから。



 ざっくりネタバレすると。シノ様は最終的に優深から離れる。


『随分アッサリしてんのな?』

「意外と一途でね。優深に夢中の間は女の子と遊ばないし、優深が他の男に抱かれるのも嫌なの」


 いずれ自分だけを見てくれたら…って淡い期待を抱いてたけど。優深は相変わらずだし…五人の中で一番に離脱した。「俺はセフレになりたい訳じゃねえ」って。


 余談だが涙を流す一華を、不器用ながらに慰めるシーンもある。それもあって私は、彼のことが嫌いではないのさ。癇癪起こす子供は苦手だが!



「シノ様は女の子には優しいのよ。今日の東雲も、私のメルヘンピンクは取ろうとしなかったじゃん」

『……もしかして。あいつが絡んでくるのって、俺と一緒の時だけ?』

「うん」


 なのである。私単体の時は、挨拶くらいしかしないのだ。電話の向こうで優深ちゃんが唸っている。


『…とにかく、俺明日謝るよ。あいつの態度次第だけどな』

「はは…」


 表面上だけでも仲直りしておかないと、先生が大変だしね。

 私もちょっとキツいこと言っちゃったかな…少し反省だわ。

 謝ったらどう反応するかな?「許してやってもいいぞ」とか言いそう。はぁ…




 そして翌日。


「きのうはゴメンな…」

「「…………」」


 登園してすぐ…東雲に呼び止められた。

 何言われんのかなーと構えていたら、まさかの向こうから謝罪が。


 これは全く予想していなかったもので、私達は何も言えずに固まってしまうのであった。



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