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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
4/20

04



 幼稚舎に入学して早一ヶ月。

 優深ちゃんは空手を始めて、私も一応お嬢様だから習い事が多い。茶道や華道、着付けに語学に楽器…徐々にね。

 年少は週の半分は午前中しか通わない。なので優深ちゃんと遊んだりする時間もあるのだ。

 彼とは両家公認で仲良くしている、今日は私が大橋家へお邪魔するぞ。



「来たよウミちゃーん」

「イチカー。今日はな、さーさんも来るんだ」


 あら。朔羅さんとは初対面…ご挨拶せねば!

 お姉さんとは何度か顔を合わせて、すっかり仲良しになっている。そんな愛さんは…むちむちボディの美女でございます。それでいて清楚な雰囲気で、守ってあげたい感じ?



「優深、お友達に挨拶していいかな?」

「さーさん!いーよー」


 うおっ、向こうから来た!優深ちゃんの部屋をノックしたのは、漫画で優深の純潔を奪うオトコ、さーさん!!

 ほう…漫画ではやや顔の皺が目立ってたり、くたびれた印象の影がある美形だったが。

 今は悲劇が起こる前なので、ただの若くて優しいお兄さん。婚約者の愛さんも一緒だ。彼は膝を床に突いて、私達と視線を合わせてくれた。


「初めまして、お嬢さん。僕は優深のお姉さんと結婚する、鐘池朔羅です」

「はじめましてっ、やまなしイチカです!ウミちゃんとはなかよしさんです」

「ね、朔羅さん。すっごく可愛くてお利口さんでしょう?」

「本当だね愛。これからも優深をよろしくね」

「はーい!」


 最大限愛想良く、にぱーっ!と笑顔を見せる。朔羅さんは目尻を下げて、いい子だねと頭を撫でてくれた。

 そのまま四人で少しお話をする。朔羅さんの言葉の端々から…彼がどれだけ愛さんと想い合っているのか伝わってくる。


 この後二人は外出するようで、またねと言って部屋を出て行く。


「マナお姉ちゃん、あさがえりはダメよー」

「!!な、何言ってるのよっ、もう!!」

「きゃーーー!」


 ちょっと揶揄ったら、愛さんは顔を真っ赤にして怒った!朔羅さんは困ったように微笑み、愛さんを宥める。


「まあまあ、きっと意味は分かっていないから…」

「さーさん。送りオオカミになるなよー」

「な…っ!?君達は本当に幼稚園児か!?」

「ひえー、オオカミにくわれる!」

「おいだせー!!」


 私達は二人の足をぐいぐい押して部屋から出す。鍵も閉めれば、廊下から「後で覚えてなさいよー!」と愛さんの声がする。


 そんな平和な日常の風景。絶対に…守ってみせる…!!



 愛さん達の気配が完全に消えたところで作戦会議開始!


「優深ちゃん。鍛える計画はどうよ?」

「基礎すら始まってないよ、まだプニプニだよ。スイミングも始めようかなって思ってるんだ」


 ほうほう。さーさんとユキちゃん対策は、現時点でこれ以上無理だ。

 他のキャラは優深ちゃんの中身が別人な以上、漫画通りにならない可能性が高い。出会いもそうだけど、優深は余裕で逃げられる場面でも快楽を優先するからね!

 というか、さーさんをどうにかすれば未来はかなり変わるはずだし。


「だから下手に行動起こすのもねぇ…」

「そっかあ…」






 そんな会話の数日後。



 ついに出会っちまったぜ…沖原拓馬…!!

 今日は外食するわよ〜って高級レストランにやって来たのはいいけれど。沖原一家が一緒とは聞いていない!!けど…


「初めまして、一華ちゃん。私は貴女のお母様のお友達で…」


 挨拶が頭に入らん…拓馬のお母さん超美人!!

 やっば、うちのお母様も相当だと思ってたのに…最早背景にデフォで花が咲き乱れておる。お隣の旦那様も美形だが霞んで見えるわ…


 で…丸いテーブルの私の向かい側に座る男の子。お母様譲りの美貌が今から約束されているようだ。実際将来、すれ違う女性を片っ端から魅了しまくる男になるのだ。


 でも…私は…



『一華…何その服?月見山家のご令嬢がそんな脚出していいの?』

『悪いんだけど俺、お前のこともう可愛いと思えない』

『俺…優深が好きだ。ずっと側にいて守ってあげたい。お前は俺がいなくても平気だろう?すぐに他の男も出来るだろうし』



 漫画で一華が言われた言葉が蘇る。

 拓馬と一華は中学までは仲睦まじかった。婚約にも不満は無く、新婚旅行で世界一周しちゃう?と笑っていた。

 互いに異性の友達に軽く嫉妬しても束縛は無く。良い関係性…だったと回想で言っていた。


 優深が入学してくるまでは。



『…あれ、拓馬くん?久しぶり、僕のこと覚えてる?』

『あ…ああ…』


 大橋と沖原。二人は出席番号が近くて前後の席だった。振り向いた優深があまりにも可憐すぎて…拓馬は恋に落ちたんだ。


 友達として交流を重ねるうちに、その感情は膨れ上がる。

 比例して一華のことは、精々妹としか見れなくなり。一華はなんとか彼の心を取り戻そうと必死になって。

 メイクや服装を変えてみて。彼が好みそうな場所へデートへ誘い。高価なプレゼントも…全て一蹴された。


 挙句その姿を「見苦しい」と笑ったのだ。これには優深含め周囲もドン引きで、ユキちゃんとシノ様は一華に同情する程だった。


 そして拓馬は無意識に人を見下す傾向にあった。天才…とまではいかないが、勉強も運動も大抵は平均以上の結果を出すからだ。

 授業を聞くだけで80点以上はいけるし。体育でも専門の部活の人には負けるが、球技も格闘技もダンスも陸上もなんでも出来た。

 トドメに生まれ持った美貌。天はこいつに何物与えんだよこの野郎とすら思った。


 だから、他人の努力する気持ちが分からない。優深を好きになって、初めて「振り向いてもらいたい」と胸を痛めるようになったけれど。

 それはあくまでも…自分に酔ってるだけだったんだ。その証拠に一華は「見苦しい」ですからね。


 余談だが一華の登場は五巻のラスト。拓馬と想いを通わせ始めた優深が、婚約者の存在を知って悲しむシーンの為に出て来ただけ。はいはい当て馬アップ開始しまーす、なんてね。

 それまで拓馬は…優深に入れ込みながら、全く婚約者を想わなかったのだ。描かれていないだけで、交流はあったはずなのにね。



 拓馬はこの性格のせいで人気は低かった。「なんで優深はこんな男選ぶんや!シノ様のがマシやんか!!」とネットは大荒れ、全面的に同意する。


 もしも一華が性悪で、優深に嫌がらせとかしようもんなら別だったが。彼女は決して優深に嫌がらせ等しなかったし、最後は涙をボロボロ流しながら

「…さよなら…大好きだったよ、拓馬。大橋さん、彼をよろしくね」

 と言い切ってみせたのだ。私が一華を幸せにする!!という読者が湧いた。




 と拓馬を酷評しましたが。今からなら、性格の矯正も可能じゃない?

 食事中雑談する大人達。私はちらっと顔を上げる。拓馬とばっちり目が合うと、彼はニコニコと笑った。天使かよ…


 親同士が親密な以上、私達もある程度の交流はあるだろう。

 そこで気まずいのはちょっと…ねえ?婚約者じゃなくて、友達ならいいかもしれない。

 彼が誰かを軽視するような言動をしたら、「その考えはよくないよ」と言えるような仲に。…よし!



「ねえお母さま、イチカあの子とおはなししたいわ」

「あらあら、上手にお話できるかしら?」

「うん!」


 余裕でできらあ!こちとら前世で接客業もしとったんじゃあ!

 意気揚々と拓馬のお母様と席替えをして、拓馬の隣に座る。ちびっ子お見合い?を、大人は温かい目で見守っている。


「こんばんは、やまなしイチカよ」

「ぼくはおきはらタクマ。よろしくね、イチカちゃん」


 まずまずの感触。やっぱり、今からなら間に合うかも。


「タクマくんは、おとなりのクラス?わたしはささぐみだよ」

「うん、ほしぐみ。ねえイチカちゃん、ブランコすき?」

「好きだよ。でもシーソーのほうが好き」

「じゃあ、あしたシーソーのらない?」

「いーよ」


 いやん、デートに誘われちゃった。

 拓馬くんは歳の割に大人びてるな…精神年齢成人の私と会話できるんだもの。

 子供特有の話の噛み合わなさもなく、平和に食事会はお開き。


 正直かなり身構えていたけど拍子抜け。よし…今後の方針が決まったぞ!



 MissionⅢ 少年を正しく導け!!



 優深ちゃんにも協力してもらって、思いやりのある男に育ててみせるぞー!!




 ***




「何それ。拓馬ってクズじゃん」

「こら。今の拓馬くんは別人だよ、漫画と一緒にしちゃだめ」

「う…ごめん」


 いいってことよ。多分…拓馬の話を聞いて、二股されたこと思い出してんだろうなあ。よしよし、私の為に怒ってくれてんのね。

 ボソボソと教室の隅で会話する。憤る優深ちゃんは可愛いなあ。


「その拓馬さあ。多分だけど…月見山一華が婚約者ってのも調子乗る一因だったと思うぞ」

「ん?なんで?」

「美人でいい子でお金持ち、しかも自分に一途。そんな子が自分を振り向かせようと必死で…それをあっさり捨てる俺カッケー!!ってコト」


 ………あり、そう。妙に納得してしまったわ。

 神妙に頷く私を見て優深ちゃんはニヤッと笑った。あ、その顔懐かしい!ロクなこと考えてない時に出る表情だ!


「そんなナルシスト野郎を矯正するなら、俺の出番だな」


 …?喧嘩はしちゃ駄目よ?

 おっと、話してたらもう時間だ。さて、約束のシーソーに行きますか!



「タクマくーん、おまたせ!」

「あ、イチカちゃ…だれ?」

「お友だちのウミちゃんよ」

「おおはしウミだ。よろしく、タ・ク・マ・く・ん?」

「よ…よろしく?ウミ、くん?」


 んん…?なんか優深ちゃん、拓馬くんを威嚇してないかい?

 私達が遊んでいる間も、腕を組んで険しい表情。どことなく拓馬くんも居心地悪そう。


 微妙な空気の中、お迎えの時間になった。拓馬くんはお母様が来て、先に帰って行った。


「ねー、何考えてんの?」

「…観察してみたけど、まだ早いな」

「何が?」

「ふっふん。俺達が小学生になったら本格的に作戦開始だ」

「だからなんの?」


 勿体ぶらずに教えてよ!



「拓馬は天才肌で、挫折や努力を知らないから他人の気持ちが分からないんだろう?

 だったら簡単だよ。思い上がったお子様の…鼻っ柱をへし折ってやりゃいい」



 そう語る優深ちゃんの顔は…どう見ても主人公ではなく。

 悪の組織の幹部を彷彿とさせるものであった。



「優深はよく拓馬に惚れたな。性格最悪じゃん」

「よくある「キャーキャー騒がしい女性には悪態つくけど、愛する人の前では蕩ける顔をする」というのがいいんじゃない?読者的に」

「適当〜」

「あとは身体の相性とか…」

「その話はいいから!!!」

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