03
ついに始まった幼稚舎生活だが…
いやあ、これでも前世大学生でしたからね!!三歳なんてオムツしてる子だっているのに…一緒にお勉強なんてやってられっか!!
だが問題行動を起こせば家の評判が下がる。かといってやり過ぎては「神童だ!」と騒がれる。はあ…面倒だけど、他の子をよーく観察してレベルを合わせよう。
篠宮学園は一クラス十人、少ない人数で英才教育派だな。私は運良く優深ちゃんと同じクラスになれた。
「昨日はごめんな、一華」
「いいよ。ま…絶望したくもなるわよね」
優深ちゃんはどうにかその未来を回避出来ないかな!?と必死の形相。仕方ない…手伝ってやるか!
「ゆっくり話したいし…アンタうちに来てよ」
「わかった、お父さんに言ってみる」
誰かに聞かれたら厄介だしね。
さて…拓馬とゆっくんは教室に見当たらない。他のクラスか、ゆっくんは初等部のお受験組かも。だが…
「おいおまえら!じゃまだ、どけ!!」
「「………」」
自由時間、教室の片隅で密会をする私達。邪魔も何も、お前がわざわざ寄って来たんじゃねぇーか。
出たよシノ様…三歳にして、すでに将来の片鱗を見せてやがる。自己紹介からこうだったな、こいつ。
そこで初めて知ったが、フルネームは東雲楓。しののめ、でシノ様か。高校生になったらウゼエとエロい以外の印象が無い男だが、今はまだ天使だわ〜。見た目はね。
どうしてすぐシノ様に結び付いたかと言えば、彼の目の色。宝石のように綺麗な翠色で、黒目茶目の中では目立つ。高祖父がドイツ人だとかなんとか、漫画の設定にあったような。
ま、こっちはお兄さんお姉さんですし?子供の我儘なんて軽く流してやるよ。
「「どうぞ」」
「お…おう…?」
ススっと左右に分かれて道を作ってやる。先は壁しか無いけど…どうすんの?シノ様はすぐ壁にぶち当たり…
「……だましたな!?」
「「なにが?」」
顔を真っ赤にして涙目で、「おぼえてろ!!」と走り去った。いや…秒で忘れてやるわ。
気を取り直して続きをば。一応カモフラージュとして、私達は絵本を広げて読むフリ。
「まさか、アレも俺の…?」
「そう、シノ様。詳しくは家でね。(おっと先生が…)ウミちゃん、ページかえてー」
「(わ、ヤバ)はーい」
「あらあら、仲良しねえ」
という訳で、幼稚舎では完全にお子様な私達。
だが事あるごとにシノ様が絡んで来る…なんでよ。面倒なので適当にあしらった。
帰ってからお父様に聞いたんだけど、東雲家はいくつもの飲食チェーン店を展開するグループの会長らしい。
上流階級の中にも上下が存在するが、東雲家はトップクラスの家格。月見山家も東雲と並ぶのですってよ。
「多分子供同士でも「楓君に逆らっちゃいけません」ってご両親に言われているんだろうね。でも一華は何も気にしなくていいからね」
お父様はそう苦笑しながら言った。ふむ…シノ様は家族だけじゃなく、社会全体で甘やかされているようなモノか。
でもウチは東雲家の不興を買っても、全く問題無いらしいからネ!ま、子供の喧嘩に大人が出て来るほうが可笑しいんだよ。
*
優深ちゃんと出会って初めての週末。優深ちゃんは運転手兼ボディーガードだという男性と共にやって来た。
「来たよー、イチカ」
「いらっしゃーい、ウミちゃん」
両親と一緒に出迎え、挨拶後すぐに部屋に引っ込む。ボディーガード…安藤さんとやらも部屋の外でお待ちいただこうか。
「だれも入っちゃダメよ!」
「はいはい、いつの間に可愛いボーイフレンドが出来たのやら…」
「ふふ。そんな顔をしなくても、今すぐお嫁には行きませんよ」
不穏な会話をしてるわ。心配せんでも、優深ちゃんとだけは結婚しないよ。
メイドがジュースとお菓子の用意をしてくれたので、あえて床に置いて座り込む。私の部屋には猫脚の可愛いアンティーク家具やら、立派なソファーセットもあるけど。
こう…カーペットの上ってのが懐かしくて落ち着くのだ。
喉を潤し腹を満たして…いざ、作戦会議だ!!
以前纏めた情報を優深ちゃんに見せる。彼は段々と顔を青くさせて…
「…たすけて…」
「分かってるよ…」
また涙目に…全く。短い腕を伸ばし、彼の頭をポンっと叩く。すると顔を綻ばせてくれたので、まあ頑張るか!
「で、優深ちゃんは最終的にどうしたいの」
「浮気しない女の子と結婚したい!」
ああ…確か弟は、彼女に二股かけられてたんだっけ。しかも弟はキープ君、本命彼氏が一流企業に内定貰ってあっさり捨てられてたっけ…
「だってさあ、俺今世で初めて鏡見た時思わずチビったもん!!何この天使、顔のパーツが完璧じゃん!特に青い目!!
もー俺ってば人生イージーモード、薔薇色人生勝ち確じゃーん!!って超はしゃいでたのに…!!」
流石私と発想が同じだ…
でもある意味薔薇の人生じゃない?と言い掛けてやめた。床に両手を突き、全身で絶望を表現する姿に良心が咎めるのでな。
ではまず…イケメン達と爛れた関係になるのを回避する必要がある!!急務はコレだっ!!!
MissionⅠ さーさんを救出せよ!
「さーさん、ヴァイオリニスト…?まさか…姉さんの婚約者、鐘池朔羅さん?」
「それ!!」
話を聞くと、さーさんこと朔羅さんはとても穏やかで優しい人なんだと。優深ちゃんは普段からさーさんって呼んでて、本当の弟のように可愛がってくれると。
「あの人、今大学生なんだけど…?それに姉さんとすっごく仲睦まじいのに…」
そう、優深ちゃんとは二十近く歳が離れている。しかも姉の婚約者…だが朔羅さんはいずれ優深を襲うようになる。
「なんで…?」
「……アンタのお姉さん。愛さんが…」
非常に言いづらいけども。膝の上で拳を握り、真っ直ぐに優深ちゃんの目を見つめる。
「愛さんが。この数年後…事故で亡くなるのよ」
「え…」
呆然としているところ悪いが続けるよ。
優深が初等部一年生の話だ。結婚式の当日…愛さんを乗せた車に向かって、子供が飛び出して来るのだ。
運転手は慌ててハンドルを切るも子供と衝突。更に車は対向車線に飛び出し、運悪くトラックと…
「それで運転手、愛さん、子供は死亡。さーさんは先に式場で愛さんをずっと待っていた。
その事故を切っ掛けに大橋家は外国に引っ越すの。さーさんも日本から逃げて、世界中をヴァイオリン演奏者として回る。
で…優深の帰国と同時期に、彼も帰国して。久しぶりに顔を合わせた優深が、姉そっくりに美しく成長して…」
「…思わず、手を出したの…?」
「最初からじゃないよ。優深を目で追ってはいたけど、ちゃんと別人だって理解してた。
ある日友人達と呑んだ帰りに優深と会っちゃって。それで酔った勢いで…」
「もういいよ。…可哀想なさーさん…」
「………」
優深ちゃんはハラハラと涙を流す。そっとハンカチで拭い抱き締めると…彼も震えながら応えてくれた。
今の私達はお子様で、力も無いけれど。絶対に…愛さんを死なせない…!!
「俺も姉さんに死んで欲しくない…どうすればいいと思う?」
「…まず、私達は普通に過ごす。特に朔羅さん関係ではね。展開を変えちゃったら…予測が一切出来なくなる」
「…俺が「姉さんいなくなっちゃやだー!」とか言ったら…結婚式延ばせないかな?せめて二年生になったら、安心出来ない?」
それも考えた。けど…世界の強制力があるかもしれない。優深ちゃんが癇癪を起こしても、大人に宥められてその隙に愛さんは家を出る…とか。
それより、何より。愛さんの代わりに誰かが犠牲になるかもしれない。誰かの車が、子供を撥ねて、トラックと正面衝突…
「…ごめん、俺そこまで考えてなかった」
「ううん、私だって大分時間が経ってから気付いたもの。
最終手段はそれ。結婚式当日に…優深ちゃんが家出でもなんでもして愛さんの式を阻止する!」
それなら愛さんと運転手は助かるだろう。でも可能ならば、身近な不幸は阻止したい。
ついでに式のキャンセル料とか、どえらい事になりそうだからネ!
「結婚式の日取りと会場が決まったら教えて!優深ちゃんの家から車の色んなルートを割り出して…私の記憶と照合して事故現場を特定する!
そこを先回りして飛び出す子供を捕獲!!これが最善、いいね?」
「異議なし。…ごめんな一華、巻き込んじゃって…」
ん?何を今更。もうとっくに覚悟は決めた。
暗い顔の優深ちゃんとハグをして、背中をバンバン叩く。
「いてて、昭和の家電じゃないんだから!」
「でも元気は出たでしょ?」
「…うん!」
ならばよし!私達はニッと笑い合って、拳を突き合わせた。
*
「あと、並行して進める計画もあるよ」
「何々」
MissionⅡ 男らしさを手に入れろ!
「…俺が?」
「他に誰がいんのよ。メインの一人、ユキちゃんなんだけど。彼は「ユキより可愛い男の子がいるって聞いたんだけど?」って絡んで来るのが出会いよ」
「ふへぇ」
で、勝手に優深をライバル視して張り合ってくる。ある日優深も男が好きだと知って…
『へえ…?悪いんだけどユキ、可愛い系は抱けないんだよねえ。逞しい男を組み敷くのが楽しいんだからー』
「そう…彼は可愛い顔に似合わずバリタ「それ以上はいいから!!」あらそう?」
優深ちゃんが青い顔だ、やめてやろう。
ユキちゃんがうっかり優深の着替え中に乱入しちゃって、裸に興奮して『優深ならイケるかもー』と舌舐めずりをして…とは言わないでおこう。
「だからユキちゃん対策は簡単!優深ちゃんが男らしくなれば、可愛い子として興味を持たれず出会いを回避出来る!」
ビシッ!と指を立てて力説すると、優深ちゃんは深く頷いた。
「よし…俺空手始めるよ…!」
「よしよし」
拳を握って腕を振る優深ちゃん。
頑張ろうね!!と最後にもう一度ハグをして、彼は帰って行った。
その日の夜。寝ようと目を閉じて、ふと思う。
「…待てよ?もし優深ちゃんが優深と違って、イケメン細マッチョとかになったら。
それはそれで…ユキちゃんの好みどストライクになるのでは…?」
……ごめん、優深ちゃん。襲われたらそん時は…全力で逃げてね☆
「一華、なんで俺をちゃん付けするの?」
「漫画の優深と分ける為と…アンタが可愛すぎて呼び捨てできないのよね…」
呼び捨て時は基本、漫画の主人公を指しています。