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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
3/20

03



 ついに始まった幼稚舎生活だが…

 いやあ、これでも前世大学生でしたからね!!三歳なんてオムツしてる子だっているのに…一緒にお勉強なんてやってられっか!!

 だが問題行動を起こせば家の評判が下がる。かといってやり過ぎては「神童だ!」と騒がれる。はあ…面倒だけど、他の子をよーく観察してレベルを合わせよう。


 篠宮学園は一クラス十人、少ない人数で英才教育派だな。私は運良く優深ちゃんと同じクラスになれた。


「昨日はごめんな、一華」

「いいよ。ま…絶望したくもなるわよね」


 優深ちゃんはどうにかその未来を回避出来ないかな!?と必死の形相。仕方ない…手伝ってやるか!


「ゆっくり話したいし…アンタうちに来てよ」

「わかった、お父さんに言ってみる」


 誰かに聞かれたら厄介だしね。

 さて…拓馬とゆっくんは教室に見当たらない。他のクラスか、ゆっくんは初等部のお受験組かも。だが…



「おいおまえら!じゃまだ、どけ!!」

「「………」」


 自由時間、教室の片隅で密会をする私達。邪魔も何も、お前がわざわざ寄って来たんじゃねぇーか。


 出たよシノ様…三歳にして、すでに将来の片鱗を見せてやがる。自己紹介からこうだったな、こいつ。

 そこで初めて知ったが、フルネームは東雲楓。しののめ、でシノ様か。高校生になったらウゼエとエロい以外の印象が無い男だが、今はまだ天使だわ〜。見た目はね。

 どうしてすぐシノ様に結び付いたかと言えば、彼の目の色。宝石のように綺麗な翠色で、黒目茶目の中では目立つ。高祖父がドイツ人だとかなんとか、漫画の設定にあったような。


 ま、こっちはお兄さんお姉さんですし?子供の我儘なんて軽く流してやるよ。


「「どうぞ」」

「お…おう…?」


 ススっと左右に分かれて道を作ってやる。先は壁しか無いけど…どうすんの?シノ様はすぐ壁にぶち当たり…


「……だましたな!?」

「「なにが?」」


 顔を真っ赤にして涙目で、「おぼえてろ!!」と走り去った。いや…秒で忘れてやるわ。


 気を取り直して続きをば。一応カモフラージュとして、私達は絵本を広げて読むフリ。


「まさか、アレも俺の…?」

「そう、シノ様。詳しくは家でね。(おっと先生が…)ウミちゃん、ページかえてー」

「(わ、ヤバ)はーい」

「あらあら、仲良しねえ」


 という訳で、幼稚舎では完全にお子様な私達。

 だが事あるごとにシノ様が絡んで来る…なんでよ。面倒なので適当にあしらった。



 帰ってからお父様に聞いたんだけど、東雲家はいくつもの飲食チェーン店を展開するグループの会長らしい。

 上流階級の中にも上下が存在するが、東雲家はトップクラスの家格。月見山家も東雲と並ぶのですってよ。


「多分子供同士でも「楓君に逆らっちゃいけません」ってご両親に言われているんだろうね。でも一華は何も気にしなくていいからね」


 お父様はそう苦笑しながら言った。ふむ…シノ様は家族だけじゃなく、社会全体で甘やかされているようなモノか。

 でもウチは東雲家の不興を買っても、全く問題無いらしいからネ!ま、子供の喧嘩に大人が出て来るほうが可笑しいんだよ。



 *



 優深ちゃんと出会って初めての週末。優深ちゃんは運転手兼ボディーガードだという男性と共にやって来た。


「来たよー、イチカ」

「いらっしゃーい、ウミちゃん」


 両親と一緒に出迎え、挨拶後すぐに部屋に引っ込む。ボディーガード…安藤さんとやらも部屋の外でお待ちいただこうか。


「だれも入っちゃダメよ!」

「はいはい、いつの間に可愛いボーイフレンドが出来たのやら…」

「ふふ。そんな顔をしなくても、今すぐお嫁には行きませんよ」


 不穏な会話をしてるわ。心配せんでも、優深ちゃんとだけは結婚しないよ。


 メイドがジュースとお菓子の用意をしてくれたので、あえて床に置いて座り込む。私の部屋には猫脚の可愛いアンティーク家具やら、立派なソファーセットもあるけど。

 こう…カーペットの上ってのが懐かしくて落ち着くのだ。


 喉を潤し腹を満たして…いざ、作戦会議だ!!

 以前纏めた情報を優深ちゃんに見せる。彼は段々と顔を青くさせて…


「…たすけて…」

「分かってるよ…」


 また涙目に…全く。短い腕を伸ばし、彼の頭をポンっと叩く。すると顔を綻ばせてくれたので、まあ頑張るか!


「で、優深ちゃんは最終的にどうしたいの」

「浮気しない女の子と結婚したい!」


 ああ…確か弟は、彼女に二股かけられてたんだっけ。しかも弟はキープ君、本命彼氏が一流企業に内定貰ってあっさり捨てられてたっけ…


「だってさあ、俺今世で初めて鏡見た時思わずチビったもん!!何この天使、顔のパーツが完璧じゃん!特に青い目!!

 もー俺ってば人生イージーモード、薔薇色人生勝ち確じゃーん!!って超はしゃいでたのに…!!」


 流石私と発想が同じだ…

 でもある意味薔薇の人生じゃない?と言い掛けてやめた。床に両手を突き、全身で絶望を表現する姿に良心が咎めるのでな。




 ではまず…イケメン達と爛れた関係になるのを回避する必要がある!!急務はコレだっ!!!



 MissionⅠ さーさんを救出せよ!



「さーさん、ヴァイオリニスト…?まさか…姉さんの婚約者、鐘池朔羅(さくら)さん?」

「それ!!」


 話を聞くと、さーさんこと朔羅さんはとても穏やかで優しい人なんだと。優深ちゃんは普段からさーさんって呼んでて、本当の弟のように可愛がってくれると。


「あの人、今大学生なんだけど…?それに姉さんとすっごく仲睦まじいのに…」


 そう、優深ちゃんとは二十近く歳が離れている。しかも姉の婚約者…だが朔羅さんはいずれ優深を襲うようになる。


「なんで…?」

「……アンタのお姉さん。(まな)さんが…」


 非常に言いづらいけども。膝の上で拳を握り、真っ直ぐに優深ちゃんの目を見つめる。



「愛さんが。この数年後…事故で亡くなるのよ」

「え…」


 呆然としているところ悪いが続けるよ。

 優深が初等部一年生の話だ。結婚式の当日…愛さんを乗せた車に向かって、子供が飛び出して来るのだ。

 運転手は慌ててハンドルを切るも子供と衝突。更に車は対向車線に飛び出し、運悪くトラックと…


「それで運転手、愛さん、子供は死亡。さーさんは先に式場で愛さんをずっと待っていた。

 その事故を切っ掛けに大橋家は外国に引っ越すの。さーさんも日本から逃げて、世界中をヴァイオリン演奏者として回る。

 で…優深の帰国と同時期に、彼も帰国して。久しぶりに顔を合わせた優深が、姉そっくりに美しく成長して…」

「…思わず、手を出したの…?」

「最初からじゃないよ。優深を目で追ってはいたけど、ちゃんと別人だって理解してた。

 ある日友人達と呑んだ帰りに優深と会っちゃって。それで酔った勢いで…」

「もういいよ。…可哀想なさーさん…」

「………」


 優深ちゃんはハラハラと涙を流す。そっとハンカチで拭い抱き締めると…彼も震えながら応えてくれた。


 今の私達はお子様で、力も無いけれど。絶対に…愛さんを死なせない…!!


「俺も姉さんに死んで欲しくない…どうすればいいと思う?」

「…まず、私達は普通に過ごす。特に朔羅さん関係ではね。展開を変えちゃったら…予測が一切出来なくなる」

「…俺が「姉さんいなくなっちゃやだー!」とか言ったら…結婚式延ばせないかな?せめて二年生になったら、安心出来ない?」


 それも考えた。けど…世界の強制力があるかもしれない。優深ちゃんが癇癪を起こしても、大人に宥められてその隙に愛さんは家を出る…とか。


 それより、何より。愛さんの代わりに誰かが犠牲になるかもしれない。誰かの車が、子供を撥ねて、トラックと正面衝突…


「…ごめん、俺そこまで考えてなかった」

「ううん、私だって大分時間が経ってから気付いたもの。

 最終手段はそれ。結婚式当日に…優深ちゃんが家出でもなんでもして愛さんの式を阻止する!」


 それなら愛さんと運転手は助かるだろう。でも可能ならば、身近な不幸は阻止したい。

 ついでに式のキャンセル料とか、どえらい事になりそうだからネ!


「結婚式の日取りと会場が決まったら教えて!優深ちゃんの家から車の色んなルートを割り出して…私の記憶と照合して事故現場を特定する!

 そこを先回りして飛び出す子供を捕獲!!これが最善、いいね?」

「異議なし。…ごめんな一華、巻き込んじゃって…」


 ん?何を今更。もうとっくに覚悟は決めた。

 暗い顔の優深ちゃんとハグをして、背中をバンバン叩く。


「いてて、昭和の家電じゃないんだから!」

「でも元気は出たでしょ?」

「…うん!」


 ならばよし!私達はニッと笑い合って、拳を突き合わせた。




 *




「あと、並行して進める計画もあるよ」

「何々」



 MissionⅡ 男らしさを手に入れろ!



「…俺が?」

「他に誰がいんのよ。メインの一人、ユキちゃんなんだけど。彼は「ユキより可愛い男の子がいるって聞いたんだけど?」って絡んで来るのが出会いよ」

「ふへぇ」


 で、勝手に優深をライバル視して張り合ってくる。ある日優深も男が好きだと知って…



『へえ…?悪いんだけどユキ、可愛い系は抱けないんだよねえ。逞しい男を組み敷くのが楽しいんだからー』



「そう…彼は可愛い顔に似合わずバリタ「それ以上はいいから!!」あらそう?」


 優深ちゃんが青い顔だ、やめてやろう。

 ユキちゃんがうっかり優深の着替え中に乱入しちゃって、裸に興奮して『優深ならイケるかもー』と舌舐めずりをして…とは言わないでおこう。



「だからユキちゃん対策は簡単!優深ちゃんが男らしくなれば、可愛い子として興味を持たれず出会いを回避出来る!」


 ビシッ!と指を立てて力説すると、優深ちゃんは深く頷いた。


「よし…俺空手始めるよ…!」

「よしよし」


 拳を握って腕を振る優深ちゃん。

 頑張ろうね!!と最後にもう一度ハグをして、彼は帰って行った。




 その日の夜。寝ようと目を閉じて、ふと思う。


「…待てよ?もし優深ちゃんが優深と違って、イケメン細マッチョとかになったら。

 それはそれで…ユキちゃんの好みどストライクになるのでは…?」



 ……ごめん、優深ちゃん。襲われたらそん時は…全力で逃げてね☆



「一華、なんで俺をちゃん付けするの?」

「漫画の優深と分ける為と…アンタが可愛すぎて呼び捨てできないのよね…」


呼び捨て時は基本、漫画の主人公を指しています。

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