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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
18/20

12



「一華様、先程の彼は…?」

「えっとね…」


 協力してくれた神戸さんには包み隠さず報告した。大人の意見を聞きたかったってのもある。



「そんなことがあったんですね。

 …もしかしたら、一華様に弱い姿を見せたくなかったのかもしれませんね」

「え、なんで?」

「男の子だからですよ。特に一華様は年下の女の子ですから。

 虐めの理由は存じませんが…」


 そういうもんなのかな…?

 神戸さんはお父様達には報告しない、と約束してくれた。


 次に会ったら、少しお話しできるといいなあ。

 クラスも分かったし、会いに行ってみようかな?




 *




 とか考えてたら、翌日朝一に向こうから来た。


「ほら」

「え…」

「服とか…色々、お礼」


 彼は紙袋を私に押し付け、すぐ出て行った。

 教室中の子が「あの子だれー?」と興味津々、私に群がってきた。


「ね、何貰ったの?」


 友達に促されて袋を開けると。


「マフラーだ。もこもこ帽子も…可愛い…」


 早速巻いてみるけど、すごく暖かい。

 服をそのまま返しても、男物だから困るって思ったのかな。優しい。

 今度お出掛けする時使おうっと!




 放課後、優深ちゃんと一緒に図書室へやって来た。


「へえ、ユキ先輩センスいいんだな」

「だよね!すっごい嬉しい〜」


 すっかりマフラーがお気に入りとなってしまい、巻きっぱなしで本を選ぶ。


 こんなモンかな…と三冊を手に優深ちゃんと合流。



「それで…ユキち、虐めに遭ってるみたいなの」

「ん…なんでだろうな…

 加害者は男女混じってたんだよな?」

「うん。多分みんな二年生だとは思う」


 場所の都合上小声で相談する。

 あんな光景を目にしてしまったら、放っておくことなどできやしない。


「(俺としては…あんま関わりたくないのが本音だけど。けど…)

 原因はともかく…俺達が友達になれるんじゃないか?」

「なれるかなぁ…」


 どうにも壁を感じるのだ。楓や沖さんとも違う…他人を完全に拒絶している感じ。



 なんで真冬に冷水を掛けられても黙っているのか。

 どうして彼はあの時、私を『友達』として連れて行ったんだろう。

 全ては本人に聞くしかない、か…



 ぽつりぽつりと会話しながらカウンターへ向かう。

 静かな空間だから、ちょっとした物音でもよく響く。


 前世思い出す…公立図書館で、財布のマジックテープがベリベリベリィッ!!て静寂を破って木霊したな…


「いやダッサ」

「当時小学生だったんだよ…!」


 顔から火が出るかと思ったよ、あん時は。

 あとお腹鳴るとか、クシャミとか気を使うよね〜。


 貸し出しの手続きも完了し、あとは帰るだけなんだけど。

 やはり彼が気になるので、二年生の教室へ行ってみることにした。




「……キッモ。お前…だからさあ」

「アハハ…」

「「……!!」」


 昨日も聞こえた不愉快な声…!

 目的地である六組から発せられている。


 私達は少し屈んで移動、廊下の窓から室内を覗く。

 すると今日は三人の男子に囲まれるユキちがいる。


「どうするか、突入出来るぞ」

「そうね…」


 優深ちゃんは拳を握り締め、私は武器を探す。

「いや戦わなくていいから。俺だって殴るつもりないし」と窘められてしまった。万が一ってあるじゃん!


 こほんと咳払い、極めて自然にドアを開けた。



「おーいユキち。遊びに来たよー!」

「は…?なんだお前ら」

「イチ…?」


 いじめっ子達が怪訝な顔でこちらを睨む。

 子供の睨みなんか怖くもなんともありません、華麗にスルー。


 そのうちの一人が、ガキ大将っぽい奴に耳打ちをする。

「大橋と月見山の…」って聞こえるので、私達の一族と関わりがある系?親が子会社に勤めてるとか。

 ガキ大将は舌打ちをして、子分を引き連れ教室を出て行った。



「ふ…口ほどにもない奴らよ…」

「俺らなんもしてねえけどな…」


 勝ちは勝ちですし。

 おとといきやがれー!と心の中で塩を撒く。


「…………」


 ふむ…ユキちは今日も眉間に皺を寄せて不機嫌そう。


「えっとね、こっちは大橋優深。私の友達よ」

「よろしく、ユキ先輩」

「……不動幸久。なんか用?同情とかいらないんだけど」


 うーん前途多難。彼は迷惑そうな顔で、カバンを持って帰ってしまった…



 元々教室には彼らしかいなかったので、今は二人きり。

 ふむ。ここがユキちの机か。

 落書きなんかは無さそうだな…ガキ大将め、先生にバレないようにしてんのが腹立つ!!


「なあ…先輩って将来、男食いまくるって言ってたじゃん」

「うん。特に逞しい男性を好むよ」

「今からは想像もつかねえな…」


 ですよね。

 もしかして…心の傷を埋める為に、人肌を求めるようになった?

 子供の虐めってのは、動機は単純だが残虐だ。


「女子も加担してるってことは…単なる嫉妬じゃねえな」

「なんかやらかしたとか?そうは思えないなぁ…」


 ここで二人頭を捻っても答えなど出るわけもなく。

 モヤモヤしたままではあるが、それぞれ帰路に着いた。




 *




 それから数日、何度か六組に突撃した。

 毎回ユキちには邪険に扱われ追い出されるけど。


 そんなんしてたら、ガキ大将がわざわざ教室まで来て呼び出された。

 あ"?何々、私をターゲットにする気?

 上等じゃねえかこの野郎、と指定された時間に屋上へ向かう。


 優深ちゃん巻き込んだけどね。

 だってえ、か弱い女の子一人じゃ危ないモン☆


 まあ護身用のスタンガン持ってるので…いざとなったら使おう。

 


「(いざとなったら俺が殴ったほうが安全そうだ…)よし、開けるぞ」


 優深ちゃんの言葉に頷き、私達は屋上扉を開けて踏み出した。

 開けてすぐの場所に、ガキ大将と子分五人がニヤけながら待っていた。


 呼ばれたのは私だが、優深ちゃんが一歩前に出て口を開く。


「なんか用か?一華に告白するにしても、お友達同伴とか情けねえな」

「はあっ!?誰がそんなブスに!!」


 はあ?私は美少女ですけどお?

 ま、そんな目の腐った奴こっちから願い下げ。で、用件は?



「べっつに〜?ただお前ら、あの男女(おとこおんな)のオトモダチなのか?」


 おとこおんな?女々しいとか言いたいんかな。


「そのつもりだけど?」

「なんか文句あんのか?」


 避けられているので、勝手に思ってるだけですがね!

 私達が毅然とした対応を崩さないので、相手は若干尻込みしているように見える。


 そしてついに私達は、彼が虐められている本当の理由を知ることとなった。



「…!はんっ、よくあんなホモ野郎と友達やってられるな!」

「ホモ…?」

「気色悪いだろ?あいつ男が好きなんだってよ!」

「あーやだやだ。俺惚れられちまったらどうすっかな〜」

「オカマって言うんでしょ?」



 彼らはクスクス笑いながら悪様に言う。


 ああ…見えてきた。

 彼は男色だから…それを隠していなかったのか。

 それか何かのきっかけでバレてしまったか。今はどちらも大差ないけど。



 大人でも差別する人はいるんだ、子供は尚更だろう。

 自分が正しいって信じて疑わなくて。

 俗に言う世間一般から外れている人を、排除するのが正義だと思い込んでいるんだ。



「「はあ…」」


 私達がこれ見よがしにため息をつくと、ガキ大将は苛立ちを隠そうともしない。


「だからぁ、忠告してやってんだよ!

 ホモって知らねえの?男のくせに男が好きなキモい奴だよ!」

「知ってるけど。ホモって言い方は差別含んでるからやめたほうがいいよ」

「正しくはゲイな」


 こちらの返答が予想外だったのか、相手は目を見開いて固まってしまった。


「お…お前ら変だと思わねえのか!?」

「「別に…」」


 子分の一人が大声で言った。

 いや…知ってたし。ここでは初耳の体を装うが。


「ユキち男の子が好きなんだね」

「好みは人それぞれだしな」


 だから何?と言えば、分かりやすく狼狽えた。


「それにさ、ユキちにだって選ぶ権利はあるし」

「自分に惚れたら困る〜って、自惚れじゃね?」

「他人の趣味嗜好に口出しできる立場なの?」

「恋愛なんて個人の自由だし」

「それ以前に、本人から聞いたわけじゃないしね」

「だよな。お前らが言ってるだけじゃん」



 私達が捲し立てると、相手は最早口も開けずにいる。

 今度は苦し紛れに、「お前達も同類なんだろ!キモっ!!」と叫ぶ。

 子供か。うん子供だわ。


「うーん…俺は女の子が好きだけど。

 もし男に好きって言われても、誠心誠意お断りするよ」

「私も一応恋愛対象は異性だけど。自分が理解できないからって否定する気はないわ」


 あくまでも淡々と意見を述べる。

 ここで感情的になっては相手の思う壺。


 思った通り相手は顔を顰めて、これ以上何も言えずにいる。


「じゃ、もう呼ばないでよね」


 踵を返してドアノブに手を掛ける。

 終わったと思ったのに、背中に金切声が刺さる。


「な…何よっ!!アンタらの悪口言い触らしてやるんだからっ!!学園にいられなくなるわよ!?」

「「…………」」


 え、もしかして脅してるつもり?幼稚ね。


「好きにすれば?犯人探す手間省けるわ」

「噂話に左右される奴とか、ダセエよなー」

「私達別に、この学園に拘ってないし?」

「スズのいる小学校に編入すっか。でもまあ…」



 私達は振り返らずに、軽く首を捻って後方を見遣る。



「月見山家と大橋家を敵に回していいなら…ね?」

「お前ら、ご両親が無職にならないといいな?」


 ニヤリ…と悪役っぽく言い放つ。

 言葉の意味を理解したのか、顔面蒼白になる連中。


 心配せんでも、子供の喧嘩に家を巻き込みゃしないよー。親の権力ですし。

 精々怯えて、少しは反省するこった。



 今度こそ室内に足を踏み入れると…

 タッタッタッ…と階段を駆け降りる音がした。

 まだ仲間がいたのかな?

 これ以上絡んでくるなら考えないとねー、と言いながら優深ちゃんと別れた。




 *




「ふっふ〜ん。今日は連絡先聞いてみよっかな〜」


 放課後、二年生の教室目指して歩く。

 この後茶道教室だから長居はできないけど。


 それにしても、ここが漫画の世界だって気付いてから…メインキャラとは関わらないでいようって思ったのに。

 自分から首突っ込むとは…我ながらお節介だわな。



「なーなー、どこ向かってんだ?」

「お友達のとこ」


 優深ちゃんは空手道場に行ってしまい、楓がなぜか同行している。

 別にいいけどさ。ああいう殻に籠るタイプは、楓みたいな子と相性いいかもしんないし。



「おーい、ユキち」

「…………」

「ユキチ?あいつか?フドーじゃん」


 六組の教室へ着くと、ユキちの他に十人程残っていた。

 あ、ガキ大将。私と目が合うと、慌てて逸らして逃げた。


 放っておこう、もう害は無さそうだし。


「ねえユキち、スマホ持ってる?連絡先交換しようよ」

「……いいよ」

「だよねえ、駄目だよね……いいのっ!?」

「何その反応…」


 いや、断られると思ってたので。

 呆れるユキちと交換した、なんか嬉しい〜。



「……ねえ、イチ」

「んー?」


 早速何か送ってみよう…とスマホを操作していたら、ユキちに腕を掴まれた。

 顔を上げれば、苦しげに眉を顰めている。



「どうしたの…?」

「…ユキ…僕ね。男が好きなんだ」



 教室の空気が凍った。楓すらも口を挟めずにいる。

 なんで突然、カミングアウト…?


「おう…?」

「だから…僕は男だけど男が好きなの。

 友達じゃない、恋愛対象として。

 変だよね、気持ち悪いよね?そう言ってよ…」


 言葉とは裏腹に、目は潤んで口元を震わせている。

 私に拒絶の言葉を求めておきながら、本心では真逆のことを思っているんだね。



「…そっか。気持ち悪くないよ、それがユキちだもの」

「……………」


 素直になれない彼の頭を撫でると、私の肩にぽすっと埋めてきた。

 だから背中に腕を回して優しく叩く。

 彼も私の背中や腰に腕を伸ばし、強く抱き締めた。


 次第にグスッと鼻を啜る音が耳元でした。

 ふふ…目一杯甘えなさい!お姉さんが慰めてしんぜよう。




 ユキちが離れたのは十分以上経ってから。

 目を顔を赤くして、「ごめん」…と恥ずかしげに呟いた。


「いいのよ。ほら、顔拭いて」


 ハンカチを取り出すと黙っていた楓が口を挟む。


「いつまでくっ付いてんだっ!!」


 私達を無理やり引き剥がそうと間に滑り込む。

 ユキちはハンカチを受け取って、顔を拭きながらニヤニヤした。



「何、嫉妬?イチ好かれてるんだね〜」

「う…ま、まあね」

「だーもう、離れろ!」

「安心しなよ、ユキはイチのこと友達にしか思ってないし」

「本当か?ならいいや!」

「「(いいんだ…)」」


 楓のこういう所は見習いたいわ。


 よく見たら、教室には私達しかいない。

 そういや楓は…さっきの話、どう思ったんだろう?


「ん?男が好きってやつ?

 そういうこともあるんだなー!って思った」

「………あそ。変だと思ったでしょ」

「いんや。だって俺、普通なんてわかんねえ!!だから一華や優深に沢山教わってんだ。

 フドーも教われば?こいつらな、すんげえ色々知ってるんだ!」

「……それも、いいかもね。

 てか名字呼びやめてくんない?」

「オッケー諭吉!!」

「ゆ・き・ひ・さ!!」


 思った通り、なんか楽しそうだな。自己紹介し合ってるし。

 楓の屈託のない笑顔や素直な言葉は、ユキちのように傷付いた子には癒しになるだろうね。



「ふーん、東雲楓ね。シノって呼ぶよ」

「あだ名いいな!珠々も一華のことチカちゃんって呼んでるし…」

「私?好きに呼んでくれていいけど」


 でも呼び捨てだって、誰にでも許してる訳じゃないし。

 不快だと思ったら「やめて」って言うよ。


「じゃあ…イッチは!?」

「絶対やめて」

「えー!?」


 好きに呼んでって言ったじゃん!と楓は不満を漏らすけど。それは本当やめて…


「じゃあ…イチとチカの間を取って…

 イカ!!!」

「ブッフォぉ!!!」


 楓は本気で名案!といった表情で言い放つ。

 それを聞いてユキちは盛大に噴いた。


 楓は後でシメるとして…塞ぎ込んだ顔ばっかりのユキちが笑ってくれたのは嬉しいかも。


「は…あははっ!ばっかじゃないの…!!

 イカって、イカって!あはははっ!!」


 おおう、ついに腹抱えて笑っちゃった。


「いいんじゃない?イカ子」

「生臭そう!!」



 さっきまでとは別の種類の涙を流し、ユキちは大きく息を吐いた。


「あー…アホらし。イチとシノはこの後どうすんの?」

「私は習い事だけど…サボっちゃおうかな」

「いいの?」

「息抜きだよー」


 習い事の殆どは嗜みとして始めたしね。

 もう知識は充分だから辞めてもいいのだ。


 神戸さんに「ユキちと遊びに行くからお茶休む!」と電話した。

 彼女は何かを察して…「では連絡を入れておきますね。お車出しましょうか?」と提案してくれた。


「ユキち、楓。車出してくれるっていうからどこか行こうか?」

「俺んち来いよ!」

「じゃあお呼ばれしようかな」


 みんなで一緒に教室を出て、私と楓のクラスに寄って荷物を持って。

 私が身支度をすると、ユキちがぽそっと呟いた。


「そのマフラー…」

「これ?可愛いよね、気に入っちゃった!

 毎年冬は大活躍しそうだよ。ありがとう」

「…どういたしまして」


 彼は背中を向けてしまったが、頬が赤く染まっている。

 見なかったふりをして、やや背の高いユキちと並んで歩き出した。



 彼が今までどれだけ苦しんできたのか、私達には想像もつかないけれど。

 せめてこれからは…こうして側にいられたら、と思う。

 


「イカってあだ名ダメ?」

「むしろなんでいいと思った?君はタコって言われたらどうするのよ」

「俺の名前に『タ』『コ』ってないぞ?」

「そう…いう…問題じゃ、なーい!!」

「(面白い子達だな〜)」

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