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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
17/20

11



 ああ、今日はいい天気。絶好の運動会日和!


 篠宮学園初等部は全学年六クラス。

 奇数組が赤、偶数組が白という組み分けだ。


 つまり私は優深ちゃん達と同じチーム!頑張ろう!


「「「おーーー!!」」」


 沖さん、そのハチマキは頭に巻いておきなさいね。縛って欲しそうに手首差し出さないでね。



 こほん。お金持ち学校ですので、警備が厳しくお客も厳選されている。

 両親は無条件でオッケー(身分確認はされる)だが、それ以外は完全招待制(二人まで)。


 折角なのですうちゃんをご招待!あと神戸さんで、私の枠は終わり。


「俺も安藤と聖一郎くんにしたわ」


 という訳で、納夢兄妹が観客席で手を振っている。


 …聖一郎くんの姿に、思うところはある。最悪私一人で、すうちゃんを助けようと思ってた。

 それが叶わなかったら…なんとか聖一郎くんが恨む矛先を、私に変えられないかと考えていた。



 いや、もうやめよう。未来は変わったんだから!!


 私も笑顔で手を振ってハチマキをぎゅっと縛る。

 みんなの声援を受け、気合い充分で挑むのだ!




 一年生の種目は…午前が五十メートルの徒競走。ダンス。

 午後は玉入れ、最後に全学年混同リレー(選抜)だね。


 ではまず徒競走。男女別、五人ずつ走った結果…

 一華ちゃん圧勝!!!イエーイ!!


 私の足が速いというより、一緒に走った女の子達が遅すぎたんだけどね。

 くねっくねの女の子走りしてるし、何より『必死に走って』いない。金持ちの余裕ですかね…


 優深ちゃんは沖さんに負けてた。

 悔しそうに二位の旗を持っていたが、すうちゃんが「うみくんステキー!」と声援を送ったお陰で笑顔になってたぞ。




「あ…優深ちゃん!見てあの子!」

「あの子?えっと…白髪の子?」

「プラチナブロンドだよ!」


 一年生が終わり、二年生の徒競走。

 入場する列を眺めていたら、私は一人の男子生徒が目に留まった。

 私の現在地は白組一年生の待機場所であるテントの下。

 椅子はあるけど席指定はないので、いつものメンバーで並んで座っている。



 今はちょうど沖さんと楓はトイレ。優深ちゃんの腕を叩いて、その生徒を指差した。


 銀髪のサラサラヘア、まつ毛も長くて銀色。

 女子と見間違う愛らしさ、あれは…恐らくユキちゃんだ!!


「うわ、本当に可愛い…」

「でしょ!あの顔で将来男を食いまくるのよね…」

「(なんか雪女に見えてきた…)」


 広い学校だからね、初めて見たよ。

 いや本当に可愛いな。私や優深ちゃんに匹敵する、いやそれ以上なのでは?

 桜色の頬、気だるそうに伏せられた目。背景に花を背負っている…なんて美少年かしら。



「ユキちゃん…か。なんて名前だろう。ユキト?漢字も雪兎だと可愛いよな」

「ユキナくんとかもありそう!単純にユキくんも?」

「ユウキ、でユキちゃんとか」


 みんなが声援を送る中、私達はユキちゃんの本名でこっそり盛り上がる。


 徒競走の前に、紹介も兼ねて生徒の名前が呼ばれるのだ。

 わくわく…次はユキちゃんの番!!



『第二レーン、不動(ふどう)幸久(ゆきひさ)くん』

「はーい」


「「……………」」



 思ってたんと違う。


 ものすごく理不尽だと分かってるけど、けど…裏切られた気分…




 *




 ユキちゃん…不動くんの衝撃は置いといて、プログラムは進む。

 ダンスは国民的アニメに合わせた振り付け、保護者の声援が響き渡った。


 お昼、家族の元へ向かい一緒にご飯!

 えへへ、今日も料理人さんのお弁当は美味しい。

 優深ちゃんと聖一郎くんはちょっと離れちゃってるけど、すうちゃんは楽しそうにしてくれてる。


「スズもちかちゃんと同じ学校通いたいなー」

「残念だけど篠宮学園、中途編入は受け入れてないみたい。中等部か高等部の入試だね」

「せめて高校生になったら!ってパパに言ったら、「学費が…」って頭抱えてたわ」


 あんまご両親困らせないでね…

 和やかな雰囲気の食事は終了、もっかい行ってきまーす!




 玉入れは力いっぱい投げまくった。

 途中事故で沖さんの顔面に投げつけたら、ごくりと喉を鳴らして私を凝視し…わざとじゃないのー!

 結果は負けた。だって沖さん、私の軌道に侵入しまくるんだもん!!



「ごめんね一華ちゃん、僕のせいで負けちゃったね。

 さあ、準備はできてるから…怒ってくれて、いいよ…?」

「………さ、次は二年生の借り物競走だね!白組頑張れー!」


 沖さんは期待に満ちた表情で私の前に立った。

 スルーしてもハアハア興奮してるし…助けて。


 つか自分の欲の為にみんなを巻き込むな!



 お、不動くんだ!次の走者として準備してる。

 彼が走り出すと黄色い歓声が上がる、と思いきや。

 意外と少ない…?あの子なら男女問わず友達多そうなのに。


 ◯◯くーん!△△ちゃんがんばれー!という中に彼の名が無い。どうして…


「……頑張って、不動くーん!!」

「い、一華?」


 優深ちゃんが驚きの表情をしている。

 遠くて分かりづらいが不動くん本人もだ。足が止まりかけて、再び走った。


 今は仲間なんだから、応援しても不思議じゃないでしょ。

 おらキビキビ走らんかい!!


「ふーん?えっとフドー!走れー!!」

「じゃあ僕も。不動先輩、頑張れ!」

「…不動くんファイトー!!」


 するとみんなも続いてくれた。

 心なしか、不動くんの口角が上がっているような…まさかね。


「!……」


 あれ、不動くんはお題の紙を確認すると、嫌そうに顔を歪めた。

 そんなに難しいお題だった?好きな人とか。


 ってどんどん抜かれてる!

 こら、突っ立ってないで動いて!!


「何してるの白組!不動くん、走んなさーい!!」


 このままじゃ負ける!さっきの沖さんの負債もあるんだからー!


 全力で応援していたら、不動くんは唇を結んで…

 紙をぐしゃりと握り潰し。

 ようやく足を動かした。ずんずん…どんどん…


 こっちに、向かって来る?



 彼の端正な顔立ちが徐々に迫る。

 思わず見惚れてしまう美しさ、それが目の前に!

 …へっ?


「あんた、ちょっと来てくんない?」

「私…?」

「そうだよ!」


 腕をがっちり掴まれている、間違いなく目的は私だ。

 あ、お題は美少女だった?

 なんてふざける間もなく、不動くんと手を繋いで走り出す。


 ロスタイムもあったせいでビリだったけど!お題はなんなのさ?


「お題確認するね。『お友達』、と」

「え…」

「………」

「はいオッケー!ご苦労さま」


 お手伝いの上級生は、なんら不審に思わず処理した。

 未だ手は繋いだままだが…私達は初対面だよ?



「もしかして、出会った瞬間友達になるタイプ?」

「何それ、ユキそんなんじゃないけど。

 単に…友達って呼べる人がいないだけ」


 彼は律儀に私をテントに送ってから、走り終えたみんなの所へ戻って行く。


「一華…?何があったんだ?」

「…うーん、よくわかんない…」


 優深ちゃんと並んで、小さくなる彼の背中を見送る。

 高校生になったユキちゃんは男子生徒にチヤホヤされてて、女子生徒とも女友達のように仲良しで。


 もしかして…幼少期はそうでもなかった?

 クラスにも友達がいないって…私は何か勘違いをしていたのかな…




 *




 それから不動くんと顔を合わせることもなく、日々は過ぎる。

 少しずつ肌寒くなり、もう半袖では過ごせない。

 吐息も白く染まり、学校に習い事に遊ぶのに充実した日々を送る。



「ねえねえ、スズもメルヘンセブンの仲間に入れて!」

「え?」


 この日は私の家に大集合。優深ちゃん、楓、沖さん、納夢兄妹でゲーム大会だ。

 今までテレビゲームとか持ってなかったんだけど、久しぶりにやったら超楽しくってねえ。買ってもらっちゃった!


 で、すうちゃんも仲間入りしたいって?

 そんなん、この男が断るわっきゃねえ。 


「いいぞ!じゃあ珠々は女の子だからホワイトだな。

 聖一郎はどうする?ブルーとグリーンが空いてるんだけど」

「んー、俺はいいや。どっちかって言うとライダー派だし…善玉怪人とかでいいかな」

「オッケー!」


 兄妹は私の紹介で、楓と沖さんとも友達になったのだ。

 見事メルヘンセブン入りを果たしたすうちゃん。

 こうして証?であるマスコット・変身ベルト・武器を授かったのである!!



「わーい!ホワイトは鶴の恩返しなのね」

「そうだ、翼から羽根を高速発射する遠距離タイプだからな!糸を操ったりもするんだ。

 よーし、久しぶりに怪人退治に行くぞっ!!」

「「「えっ」」」

「おーーー!スズの初陣だねっ!」

「「「え!?」」」


 えーーーっ!!?ちょ…っ

 抵抗虚しく、レッド・ピンク・ブラックは付き合わされるのであった。




 *




 本格的に寒さが厳しくなってきた十二月。


「俺ら今日スイミングの日だから」

「一華、また明日な!」


 そっかー、頑張ってね。


「僕も今日テレビの撮影が…またね」


 あらら、バイバイ沖さん。


 この日私は習い事もなく、彼ら含む友達は全員用事があるようだ。

 まっすぐ帰って宿題するかー、と玄関に向かって長い廊下を歩く。



 バシャッ


 アハハ… クスクス ざわざわ


「ん?」


 今どこからか、水の音が?

 バーカ!とか複数の子供の声も聞こえてくる。

 外…?不意に窓を開けて外に目を向けると、そこには。


「っ!?何してるのあなた達!!」

「うっわヤベー!」

「逃げろー!!」

「きゃー!」

「あははっ!!」


 ここは二階なのだが、丁度私の真下に。

 バケツを持った男子生徒…水浸しの男子生徒。彼らを囲む五人の男女がいる。


 私が声を上げると、六人は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 残されたのは、全身からポタポタと水滴を垂らす…不動くん!!?


「ま…待ってて!動かないでよ!!」

「…………」


 遠目でも分かる、顔は真っ青で身体が震えてる!

 私は廊下をダッシュし階段を駆け降り、上履きのまま中庭へ出た。


「不動くんっ!」

「……なに」


 声も震えてる、いけない!!

 私のコートを羽織らせ、無抵抗の彼の腕を取って走った。



 保健室に行くも先生はいない。

 えーとタオルタオル…みっけ!!


「ほら拭いて!服脱いで、体温奪われるよ!!」

「…放っておいてくんない?」


 放っておけるかバカ!!風邪引くだけならいいけど、悪化したらどうするの!?


「人間は風邪こじらせて死んじゃうこともあるんだよ!ほら脱いで、見られたくなかったら向こう向いてるから!!」

「………」


 流石に死にたくはないのか、彼は素直に脱ぎ始めた。着替えどうしよ…特にパンツ。


「あ、そうだ!」


 スマホを取り出し神戸さんに電話だ!


「あのね、男の子用のパンツとお洋服買って来て!」

『…?かしこまりました、すぐ行って参ります』


 私の必死な様子が伝わったのか、何も聞かずに行ってくれた。

 さて、不動く……んっ!!!?



「きゃあああっ!?ま、前っ、隠して!!」

「は?ユキに隠さなきゃいけない場所なんてないんだけど」


 なんたる自信。でも全裸でこっち向くな!!

 私は恥ずかしいの!せめて腰にタオル巻いとけ!

 彼は渋々言う通りに。ふう〜。


 暖房で暖まったようで、顔色も大分いいね。

 まだ髪は濡れているので、彼をベッドに座らせて拭いてあげる。



「「…………」」



 気まずい。

 さっきのアレ…明らかに虐めだ。まさか恒常的に…?


 聞きたいけれど、彼を傷付けてしまうかもしれない。ここは…機会を待とう。


「……お節介だね、あんた」

「こんなの普通よ」

「普通…ね」


 会話はそれだけだった。

 よく見ると不動くんの身体には、薄っすらと痣もある。なんだか…胸が締め付けられる。どうして、こんな…

 

 数分後先生も戻って来て、状況に驚いてたから事情を説明しようとしたんだけど。


「なんでもない。ユキが泥遊びして全身汚して、この子が世話してくれただけ」

「そう、なの?…気を付けてね?」

「はーい」


 ……先生も不審に思っていても、それで一旦引いた。なんで、隠すの…


 神戸さんから着信があり、私は席を外して車に走った。

 荷物を持って保健室へ戻り、不動くんに着替えるよう促す。


 彼は無言で受け取ってくれて、タオルを…だからこっち見ながら着替えんな!!!



「「………」」


 校門まで一緒に歩くけど、ここでも会話はない。

 私は駐車場に神戸さんがいるから合流。


「不動くん。その…乗ってかない?」

「ユキ、電車通学だからいい」

「じゃあ駅まで乗ってかない?」

「………」


 彼は軽くため息をつき、車に乗ってくれた。

 駅までの道中、今更だけど自己紹介した。



「あのね…私は一年四組の月見山一華っていうの」

「…ユキは二年六組の不動幸久。

 不動くんってやめてくんない?可愛くないからヤなんだけど」

「おおう…じゃあ…」


 ユキくん…いやユキちゃん。いや…


「ユキちで」

「(絶妙に可愛くないような…)まあ、いいけど…」



 あっという間に駅到着。

 ユキちは無言で降りて…ドアを閉める時に。



「…ありがと。ばいばい、イチ」



 ほんのり頬を染めて、蚊の鳴くような声で言った。可愛い。


 パタパタと駅構内に向かう姿を、私は消えるまで見続けるのであった…



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