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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
14/20

10



 楽しい楽しい夏休み!満喫するぞー!!


 お母様と二週間シンガポールに旅行して。

 大橋家のプライベートビーチに誘ってもらったり。

 会社関係のパーティーに家族で参加したり!


 小学生らしく宿題も進めている。

 余裕すぎて二日で終わったがな!日記は毎日書いてるけどさ。


 今メルヘンセブンの劇場版が撮影中なんだけど…私・優深ちゃん・楓・拓馬くんでエキストラ参加しちゃった!

 いかに可愛いとはいえ演技は素人なので、本当にモブだけどね。

 それでもスクリーンデビュ〜、フゥー!!




「メルヘンセブンかっこよかったなー。

 俺、大きくなったらヒーローになる!」


 夏休み終盤、宿題が遅れている楓のために集まって勉強会。

 当の本人は目をキラッキラに輝かせ、鼻息荒く夢を語る。


 ふむ、俳優になるのかな?

 確かに成長した彼は、髪をかき上げる仕種一つで女の子が悲鳴をあげる美貌を持つ。拓馬と並んで二大イケメン扱いだったな。

 本当に特撮俳優になったら、若いお母さんにモテモテだろうね〜。



 その流れで将来の話になった。まず優深ちゃん。


「俺は…順当に行けば財閥を継ぐだろうな。

 楓は家を放っておいていいのか?」

「ん?なんも言われてないぞ!」

「ふうん…私も特に何も。お婿さんを迎えて事業を継ぐもよし、どこかにお嫁に行ってもよし」

「!俺婿入りできるから!」

「いやいや、僕がお婿さんになるよ。

 うちも世襲に拘ってないし…ね、一華ちゃん」


 拓馬くんは濁った目で私の顔を覗き込んでくる…

 その手にはブラックの武器であるハンマーのおもちゃが。

 これで、殴れ、と言外に語っている…



 わあああーーーん!!!もうイヤこの変態!!

 しかも私が嫌がってると、余計に悦ばせてるって優深ちゃんが言ってた。


 だからいっそ「跪きなさい、このブタ野郎」って言ってみた。

 すると彼は心臓を押さえて「はぅ…!」とビクンビクン痙攣し…話がちげーじゃねーーーか!!!


 でも一応この三人と沖原家一同の前以外では、いつも紳士な拓馬くんなのだ。

 …いや、家族公認ってこと?沖原家、闇が深い…


 というか私はSじゃないので…勘弁して。

 拓馬くんは「顔がいいから許されているだけ」の変態である。

 マジで縁切り、とまでは言わないが距離を置きたい。


「拓馬くん…いや、沖原く…さん」

「…!!塩対応…!」ハア…ハア…


 ど う し ろ と !!!

 泣きたい。私が何を言ってもダメだ…

 優深ちゃんは憐憫の眼差しだし、楓は「楽しそうだな!」と笑顔。じゃあアンタ代われ!


 そのうち私は拓馬くんを『沖さん』と呼ぶようになった…




 *




 楽しい夏休みはあっという間、始業式である。

 二学期は学園祭や運動会…イベント盛りだくさん。


 そんで今日は動物園へ遠足!年甲斐もなくはしゃいでいます。


「一華ちゃん、ライオンさん見に行こう!」

「うん!」


 行動はクラス毎なので、女の子の友達と一緒に楽しむ。


 可愛い、格好いい、大きい動物を沢山見て。

 ふれあいコーナーでウサギと戯れて。

 餌やり体験…楽しい!!



「象さんおっきかったねー」

「ね!背中乗ってみたいなあ」


 お弁当を食べながら、午前中の感想を言い合う。

 金持ち学園らしく、うちこんな珍しい動物飼ってるんだー!と自慢する子もいる。

 …ペンギン飼いたいな。



 さて、腹ごしらえも完了。移動する前にトイレ行っとこう。


「……ん?」


 女の子五人で集合場所へ戻る途中。

 一人でパンダを眺める男の子がいた。

 私以外気付いてないけど、あの後ろ姿…


「庵くん?」

「わっ!?…えっと、月見山さん?」


 やっぱりそうだ、庵千那くん。将来朔羅さんが切っ掛けで、性癖歪められるゆっくん!

 友達に断りを入れてから近寄ると、彼は肩を跳ねさせて驚いた。


「どうしたの?二組のみんなはあっちよ」

「うん…ありがとう」


 私が指差すと、彼は力なく笑って走り去った。


 さっき…聞き間違いでなければ。

 パンダの檻の前で…「パンダはいいな。存在だけで可愛がってもらえて…」と呟いていた。



 ゆっくんって…優深にすごい執着してたけど。

 庵くんはどうなんだろう。少なくとも優深ちゃんは、ただのクラスメイトとしか言っていないけど。

 なんとなく…パンダに向けていた目が忘れられない。

 友達がいない訳でもなさそうだし…ご家庭の事情でもあるのかな。

 だからと言って、私にできることは何も無い。

 後ろ髪引かれる思いだが、その後も動物園を満喫した。




 *




 秋深まる今日この頃。私は運動会の練習も兼ねて、公園で優深ちゃんとかけっこ。


 というのは建前で。遊具で遊んだりバドミントンしたり…やっぱ子供はこうでなくちゃ!

 家の庭でも十分広いけどさ、それじゃ意味ないっていう謎の感覚。


「一華、木登りしようぜ!」

「おー!」


 お付きの安藤さんと神戸さんはハラハラしている。落ちたらキャッチよろしく!

 靴を脱いで木に手を掛けて、協力しながら上を目指す。疲れたので途中の太い枝で腰掛け、空を眺める。



「はー…やっば、虫潰した!ごめんよ〜」


 優深ちゃんは「ひー!」と言いながらも虫を掴んだ。

 …弟は虫が全然駄目だった。てんとう虫すらも…

 やっぱ優深ちゃんは別人なんだな、と思い知らされる。まあいいんだけどね!



 さあぁ… と気持ちのいい風が吹く。


「……平和だな…」

「(沖さんの存在から目を逸らし)そうね…」


 なんとなく手を繋ぎ、ぼーっと遠くを見る。


 折角だし…庵くんの相談をしてみようか。

 口を開こうとした瞬間。



「ねえねえ」

「「?」」


 どこからか女の子の声がする…?


「聞き間違い…?」

「いや…下見てみろ」


 言われた通り覗き込むと…赤い髪で同じくらいの子が、明らかに私達のいる木を見上げている?


「ねえ、あたしも登っていい?」

「「え…」」


 いいけど…あれ?この子どこかで…あっ!


「警視総監のお孫さん!えーと…納夢さん!?」


 あの時の、保護された女の子…!

 彼女は私の言葉に、パアァ…!と顔を綻ばせた。

 そんで木にしがみついて…ぴょんぴょん跳ねている。


「ちょっとー!?どうやって登るの!?」

「あ、えっと…待って!今降りるから!」


 怪我でもさせたらマズい!

 最後は飛び降りて、服に付いた葉っぱやら虫をはたき落とす。


「すごいのね!こんな木を簡単に登り降りしちゃうなんて!」


 納夢さんはテンション高めに褒めてくれた。

 昔から…嫌なことがあった時、よく高い所に二人で登ってたんだ。誰も届かない場所に…


 なんて言えなくて、優深ちゃんと私は曖昧に笑ってやり過ごした。




 改めて彼女と顔を合わせる。


「あたし納夢珠々!この間会ったわよね?」

「うん。私は月見山一華」

「俺は大橋優深」


 もう二度と会うまい…と思っていたので驚いた。

 なんでも彼女は、私達にお礼が言いたくてずっとタイミングを伺っていたらしい。


 むぅ…大人は「怖かった出来事を忘れるように」と、あの事件について一切蒸し返さなかったのに。

 安藤さんと神戸さん。納夢さんの付き添いっぽいガタイのいい男性も困り顔。


 子供には通じないか。というか、一番怖い思いしたのあなたよね?

 張本人は満面の笑みで、私と優深ちゃんの手を握った。


「あのね…ありがとう」

「俺達…別にお礼を言われるようなことなんて…」

「そういうのいいから!」ズバッ!!


 ぶった斬られてしまった。ちょ…こういうタイプ初めて…!


「…どんな理由があろうとも、あたしはあなた達に助けれた!

 それが全てで事実よ。だからありがとう!」

「「…どういたしまして」」


 すでに納夢家から、月見山家と大橋家には礼がいってるはずだ。

 これ以上はいらない。そう思っていたのだが…



「あのさ…あたしとお友達になってくれない!?」

「「は?」」


 予想外の申し出に呆けた声が出てしまった。


「ダメかしら?いいわよね!じゃあ早速連絡先交換しましょう!!

 ちかちゃんとうみくんって呼んでいい?あたしも好きに呼んで!!友達はみんなすうちゃんって呼んでるわ!」

「「………」」


 ぐ…グイグイ来るなこの子!

 嫌ではないので…まあ、友達くらいなら。そう思って交換完了。



 ベンチに腰掛け、少しおしゃべりをする。

 納夢珠々さん…すうちゃんは篠宮学園とは別の私立小学校に通い、同い年の一年生。

 誘拐事件については触れないが、普段の生活についてとか色々話してくれた。


「それでね、おじいちゃんが警視総監ってだけで逃げる子とかいるのよ!」

「あー…でも街で制服の警官とか見るとドキッとするわよね」

「パトカーが通る時とか、つい自分の身なり確認したりな」

「「「あっはっはっ!!」」」


 警察あるあるで爆笑。そんな様子に大人達は変な顔だが、気にせず会話を続ける。


 彼女は騒がしい子だが、不快なタイプではない。単にコミュ力が高く、場を盛り上げる能力が高いのだろう。

 どっちかっていうと内向的な私達とは正反対。それが心地良いのかな。



 結構長く話していたようで、空が赤く染まってきた。

 また会おうね!と約束をしてお別れ。

 すうちゃんは両腕をブンブン振って、最後まで明るかった。


「なんか…不思議な子だったな…」

「うん…」



 あの子は本来、死んでいたはずだった…

 そう考えると胸が痛いが、元気な姿に安心した。




 まあ次の日、普通に遊びに来たんだけど。


「お邪魔しまーす!ちかちゃんち広いわね」


 私の部屋に案内すると、すうちゃんは何かに気付いた。


「これ…」

「あ…」


 それは…メルヘンピンクのマスコット。

 あの日も持っていた、防犯ブザーだ。

 今はランドセルに括り付けているのだ。外すと楓が泣くし…

 彼女は顔を歪ませた。それは悲しみの表情に近い。



「…本当に、ありがとう。あたしもう、家族にも会えないまま死んじゃうんだって思ってた」

「………」


 彼女の言葉に口を挟めるはずもなく。

 ベッドに座って続きを待つ。


「本当に、色んな幸運が重なって。トイレに行くって言って…僅かな隙に逃げ出せて。

 もちろんすぐ追ってきて…一心不乱に走ったわ。

 外に続く扉を見つけて、嬉しくてたまらなくて。

 脇目も降らず前に進んだ。

 その時だったのよ、あの音に正気に戻ったのは」



 だから、ありがとう。

 そう微笑む彼女の瞳は、潤んでいるような気がした。


 だから立ち上がってぎゅっと抱き締めて…

 どういたしまして。あなたが元気でいてくれて、私達も嬉しい…と答えた。

 彼女も私の背中に震える腕を回して、強く返してくれた。



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