一
サブタイトル漢字表記は優深視点です。
俺は前世の記憶を持つ小学生。今世の名は大橋優深、絶世の美少年である。鏡を見飽きない…うっとり。
しかも家は金持ち、美人の姉さんと優しい義兄さんもいて超ハッピー。将来安泰、女の子にモテモテ待ったなし!!でも顔と金しか見ない子は勘弁ね!
最初は前世の家族を想って今の家族を拒否していたが…真っ直ぐに愛してくれる家族のお陰で、諦めがついた。
以来寂しい気持ちになっても、温かい家族のお陰で笑顔になれた。
そしてなんと!前世の姉と再会したのだ!!俺は一目で分かったし、姉ちゃんも同様だった。
それは、いいんだけど。その日俺は絶望の底に叩き落とされた。
俺はどうやらBL漫画の主人公で…女の子じゃなくて男にモテモテらしい…いやだーーー!!!
癇癪を起こして泣きじゃくっていたら、気付けば家。やだな…精神年齢が肉体に引っ張られてる…!俺は成人男性だ!!
ふと冷静になると、前世で姉が腐ってたという事実にも衝撃を受けた。
そこは最悪の未来を回避するためだった、とポジティブに切り替える。
その夜上質な布団の中で目を閉じて、久しぶりに前世を思い出すと…
「……?あ、あれ?姉ちゃんって、名前なんだっけ…?」
何故か…姉ちゃんと俺の名前が思い出せないと気付いた。両親や妹、友人は分かるのに。俺ら二人分…まるっと記憶が無い。
どんな顔をしていたか、性格、人生、住んでた家…全部鮮明に思い出せる。
転生してすぐは覚えてたはずなのに。少しずつ…俺らに関することだけ消え始めている…?
「…今の俺らには、不必要な情報って事か…?」
俺達はもう姉弟ではなく、他人なのだと現実を突き付けられている気分になる。
いずれ全て忘れてしまうのだろうか。それが当たり前と言われてしまったら、それまでだけど。
俺は元々輪廻転生を信じていたが、それは前世とは別人だと区別をしていた。
同じ魂を持つだけの、よく似ている全くの他人。
でも…俺らは生まれた時から前世の記憶があり、人格も前世ベースだ。
それはもう、顔が違うだけの同一人物ではないのか?と錯覚する。
生まれ育った環境で、多少性格に影響はあったようだが。
例えば前述した姉さんと義兄さん。彼らが迎えるであろう未来を聞き…俺は涙が流れて止まらなかった。
俺達は最悪の未来を回避すべく動いていたが、その最中。
友人である東雲楓のファインプレーで事態が進展したのだが…一華は「いいのかなあ」と少々後ろめたそう。人命が最優先!なのですぐ切り替えていたけど。
姉ちゃんは違う。「終わりよければ全てよし!!使えるもんはなんでも利用する!」な精神の持ち主だ。
むしろ楓に「アンタちょいっと癇癪起こせや」と命じる可能性もなきにしもあらず。そんな姉でした。
結果は同じだけど、そういった些細な違いはあった。
あと言葉遣い。一華は姉ちゃんと違い「そうね」「分かったわ」と女性らしい話し方をする。でもたまに中性的になるし、心の中と表面で差異があるのだろう。
俺も自分で分かっていないだけで、性格は変化しているかもしれない。
おっと前置きが長くて悪いね。何が言いたいかというと…
俺と一華は血も繋がってないし顔も全然似てないけど。
姉弟だとも思えないけれど。
やっぱり…俺らは家族なんだ。
前世とは程遠く、一華は俺に匹敵する絶世の美少女だ。でもどうしても、女の子としては好きになれない。
一華も同じで「優深ちゃんとだけは結婚しないよ」と言っていた。
それが今世の俺達なんだ。
*
今日は大変な一日だった。そう…
俺達は頑張って、義兄さん達の未来を変えたんだ!
「「イエーイ!!!」」
結婚式の日、一華はうちに泊まりに来た。まだ子供なため一緒に寝る許可をもらい、深夜に二人で祝杯を挙げる。
事件解決だけでなく、俺達にとってはもう一つの理由もあったけど。
「もう朔羅さんが優深ちゃんに、愛さんを重ねることはないでしょう。
これで未来は完全に変わった!って断言できるよ!!」
くぅ…!俺の純潔?も守られたのだ!!久々に漫画の内容について話し合った。
義兄さんは悲しみに暮れることなく、姉さんと共にフランスへ渡る。→弟の俺に欲情する可能性は皆無!
「大橋家も外国に引っ越さない、優深ちゃんはずっと篠宮学園に通う!
楓は今後もいいお友達としていられそうだし、この問題からは除外していいでしょ」
お友達、か。あの男が一華の心を奪える日は来るのだろうか。
「拓馬くんはどうかな…
漫画の拓馬は『再会し、美しく成長した優深に一目惚れ』な訳だから。別れる期間が無ければ、そもそも惚れるのか?という疑問が出てくんのよ」
「いくら美人でも、男に惚れるもんかな?」
「そこはご都合展開か…彼は無自覚の両刀なのかも」
「…それなら、自分で言うのもなんだけど。年々美しくなっていく優深に惹かれてく…って可能性もアリ?」
「アリアリよ。でもそうなったら、私達に為す術なんて無いじゃん。人の感情なんて…止められないじゃん」
「……………」
俺は返答に迷ったが…少なくとも現実の拓馬は一華に惚れている。
そんな一華と親しい俺は、むしろ目の敵にされている節がある。
でも漫画の通り、クラスで無意識に高慢な部分を多々見せている。
な・の・で。そろそろ本気で、奴の鼻っ柱をへし折るかな!あくまでも自然な形でな。
「次、嫉妬深いゆっくんこと千那くん。彼もまだ希望がある」
「マジ?」
思わず前のめりになってしまう。いかん…ちょっと喉を潤して、冷静になりましょうかね。
「そもそもゆっくんが優深に対して…その、恋愛感情を抱く切っ掛けがね?優深とさーさんがヤってる現場を見ちゃったからなのよ」
「ブーーーッ!!?」
思いがけない言葉にジュースを噴き出した。汚っ!?と一華はプンスコ拭いてくれる。
「もー…とにかく、それ以来優深のことをエロい目で見る訳よ。
優深の部屋で二人きりになったある日。「ねえ優深。この前さ…偶然見ちゃったんだけど…」と優深を押し倒す」
「ごほっ、げっふ、うぐ…!どこで致してた…?」
「さーさんの車の中」
「ひぃ…」
難易度高くない?無理むり絶対俺はムリ!
「ただの友達、ならそこまで執着しない人だし。普通にクラスメイトとして接するしかないよ」
「そっかぁ…」
若干の不安は残るが、最大の障害を俺達は乗り越えたばかり。
今後は騒がしくも、楽しい学園生活が待っていると信じよう──…
*
義兄さんと姉さんが旅立ち、気を張り詰める必要もない穏やかな日々が戻ってきた。
「おはよー優深」
「おはよう楓。今まで悪かったな、もう普通に遊べるぞ」
「!!!じゃあじゃあ、週末遊びに行っていい!?習い事ない日はいつ!?」
登校してすぐ、そんな会話をする。
一華が楓を『わんこ系』って言ってたが…犬耳と尻尾が見えそうなほどハイテンション。なるほど…
結婚式でコイツが登場した時はビビったわ。
なんでサプライズの対象が俺達になっていたのか…全く!
俺はクラスで楓と過ごすことが多い。それと席が近い子はちょくちょく会話するかな。
「おはよう沖原くん!テレビ見たよー」
「おはよう弓川さん、ありがとう」
ん?沖原拓馬が登校してきた。
彼は母親が女優で、その関係でテレビに出ることもある。
それが放送された次の日は、今みたいに女の子に囲まれているんだ。
「おはよう、優深くん」
「…おはよう、拓馬」
席が前後のせいで自然と挨拶をする。
一華は俺にとって妹みたいな存在だから…彼女を不幸にする(かもしれない)奴は好きになれん。
ただ子供の恋心なんてすぐに消えるもんだ。
こいつが天狗のまま大人になるんなら、早く一華から興味を失くしてくれないかな…切に願う。
今日の国語は漢字の小テスト。ふ…余裕という言葉すら余るぜ。一〜十と花や月といったレベルだもん。
それでも一年生には難しかろう、満点は俺と拓馬含む六人だけだった。
「拓馬くんすごーい!」
授業後、奴には女の子が集まる。ちなみに俺はどっちかって言うと男が集まる。
何故だ…!?こんなに美少年なのに!!まさか七歳にして、BL漫画主人公のオーラでも溢れちゃってんの!?
ま、まあ…可愛すぎるせいかもしれん。成長して男らしくなったら、きっとモテモテに違いない!
「ありがとう。大したことないよ」
「…………」
拓馬のそのセリフ…笑顔の下で「この程度で騒ぎすぎ」と副音声が聞こえてしまう。
駄目だ、漫画の情報が邪魔をしている。決めつけはやめよう。
「優深すごいな!俺半分しかできなかった!」
「ふっふん、勉強してるからな!(※前世で)」
拓馬に聞こえるよう、わざと大きな声で言ってやる。
バレないようにそろ〜…っと後ろを見ると。
拓馬の顔に…「勉強しなきゃ満点取れないの?」と書いてある、気がする。なんつーか鼻で笑われた、一年生のくせに!!
金持ちが多い篠宮学園は、大人びた子が多いと思う。その中でもコイツは群を抜いている。
見てろよ…お前はこれから先。お前の理解できない『努力する凡人』に悉く敗北するんだからな!!
季節は六月下旬、今日はプール開きの日。
鍛えるためにスイミングに通ってる俺は、もう二十五メートル泳げるんだぜ!前世でも得意だったし!
俺は完璧だと先生にも判断され、お手本も兼ねて自由に泳がせてもらった。
授業は全く泳げない子、スイミングに通ってるような水に慣れてる子、俺の三つに分かれる。俺ってなんだよ。
まあ一年生なんて、浅い場所で遊んでるだけだし。頑張れ少年少女!
「…………」
視線を感じる…拓馬だ。
俺の動きをじぃ…っと見つめ、真似をしようとしている。
すぐには泳げなくても…流石メインヒーロー、吸収が早い。不恰好ではあるが、ちょっとだけ前に進んでいる。まだ深い所には来れないが。
「優深くんかっこいー!」
「えへへ、ありがとう」
あ、今の声援男子ですから。チクショウ!!!
「うあー!やーだー!!」
楓は全然泳げないどころか、水に顔をつけるのも嫌がる。
なので「一華と海水浴行って、溺れるダサい姿見せんのか?」と煽ってみたら。
なんか知らんうちに、同じスイミングスクールに通い始めてたわ…
そんな楓は置いといて。
拓馬は思うように泳げず、イラついているように見える。
だよな。だって俺がいなかったら、自分が劣ってるって自覚しなかったもんな。
…所詮俺は努力の人間、天才型には敵わんだろう。
十で神童 十五で才子 二十過ぎれば只の人。今の俺にぴったりのことわざだ。
拓馬は数年もすれば俺に追い付き、追い抜くだろう。
だからその時までに…
努力することの苦しさ、実った時の爽快感。
自分がどれ程恵まれた立場にいるのか。
他人に寄り添う心…そういったものを知って欲しい。
そんで将来いい男になったなら。
ま…一華との仲を応援してやってもいいかもな。
優深がモテない理由。
・可愛すぎて男の子に見られていない。
・一華と特別な関係だと周囲に思われているので、女の子は諦めている。




