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当て馬女子の受難の日々  作者: 雨野
幼少期
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01

唐突に書きたくなった。



 私はいわゆるオタクと分類される人間である。

 両親が漫画好きだったので、幼少期から家に漫画雑誌が転がっていた。特定の曜日には双子の弟と競うように帰宅して、どっちが先に読むか!と取っ組み合いをしていた。


 だが…ガチな人と比べると、自分オタクなんすよ!と言うには少々躊躇いがある。あ、馬鹿にしてる訳じゃないよ?

 ただ私は特定の漫画が好きなだけ。アニメはそこそこ、ラノベに手を出したのは中学生になってから。

 大体ファンタジー、バトル物を好んでいる。高校生くらいから、日常系の魅力に気付いた。


 同人誌も好きだった。公式では実現しなかったキャラ同士の掛け合い、カップリング…時には解釈違いもあったが、好きなサークルの新刊は必ず購入していた。


 だが若かった私は、同人でどうしても受け入れられない事があった。


 それは…好きな作品が、BL展開になること!

 私の好きな歴史漫画で、登場人物の多くが男キャラというものがある。メインの女キャラはヒロインと主人公の妹と、他数人ってレベルの。


 見なければいいのだけれど、作品名で検索するとどうしても出てくる。

 オタクとして他人様の嗜好を否定したくはないが…と悩みに悩み。



「よし。まず私に必要なのは歩み寄る心だ!!」


 表面しか知らない相手?を完全否定するのはポリシーに反する。なので…手始めにBL漫画を読み漁った。


 作品のレビューでオススメ!な作品をピックアップして本屋に走った。近場に無ければネットショッピング、片っ端から手を伸ばす。



 で、結果。


「…なんでBLってエロ多いんだろ…?」


 こんなに濡れ場無くていいんじゃないですかね…?まあ、それなりに楽しめました。

 んで読んだ本は全部古本屋に持って行った。家に置いといて、家族に見つかったら恥ずかしいし…


 ん?店員さんに見られる事に抵抗は無いのかって?あるけど…友人でも知人でもない人にどう思われてもいいし。



 …とにかく!私は敵情視察を遂行した。であれば後は自分の中での裁決のみ。


「…うん。まあ、それで楽しめる人がいるんだし!」


 そう…私は相互理解を得た。何言ってんのか自分でもよく分からんが。

 視野が広がった事により、多くの趣味嗜好を受け入れられるようになったのだ。



 …前置きが長すぎたな、すみません。

 えーと、何が言いたいのかと言うとだね。


 まず私、死んだわ。死因は多分…食中毒?

 大学卒業間近で…家族五人で夕飯を済ませ…夜中に激しい腹痛で目覚め…

 隣の部屋、弟に助けを求めに這って行ったら…


「ね…ねえ、ぢゃん…!」


 お ま え も か !!!

 その後記憶が無い。次に目覚めたら…都内築二十年の部屋とは思えない、豪華な屋根が視界に入ったのだ。更には若々しく美しい男女が見下ろし…え、何、両親!?嘘だ、私の両親はアラフィフだ!!!


 うっそでしょう!?第一志望ではないけど就職も決まっていて、春から念願の一人暮らしだったのに!!

 私は…前世の記憶を持ったまま再び生まれてしまったのだ。




「ふう…」


 天井に腕を伸ばし、紅葉のような手をにぎにぎする。まさかの赤ん坊スタートか…


 最初は受け入れられず、家族を求めて狂ったように泣いた。今のハイスペ両親より、くたびれたお父さんとお母さんに会いたい!!と…

 イケメンの父親に噛みつき引っ掻き、美しい母親のキスも拒み続けた。


 だが生後半年程…私が泣き疲れて眠った後。今の両親が「このままずっと、嫌われたままなのかな」と呟いているのを見てしまった。

 頬を伝う涙、私の頭を優しく撫でる手。その時、ようやく理解した。

 この人達にとっては…私こそが掛け替えの無い、愛する娘なんだって。


 それから少しずつ、現状を受け入れられるようになった。初めて「パパ、ママ」と呼んだ日には、親戚を集めて盛大なパーティーしよるし…恥ずかしかった。




 周囲の情報から、転生先は現代日本だと知った。もしや前世の家族に会えるのでは…と考えたけれど。

 成長するにつれ、ここは異世界…恐らく並行世界のようなものだと思い至る。その決め手となったのが…


一華(いちか)、入学おめでとう!」

「ありがと…お父さま…」


 私…月見山(やまなし)一華はこの春、篠宮学園幼稚舎に入学が決まった。

 祖父は大企業を経営しており、いくつもの子会社を傘下に持つ。ぶっちゃけ、超お金持ちに生まれた訳だ。も〜、現代日本の家にメイドさんがいるって、ファンタジーだと思ってたわ〜。


 そして篠宮学園はそういったセレブが集まる学舎。幼稚舎〜大学までエスカレーターである。

 前世にそんな金持ち学園があれば、知らないはずがない。

 テレビを点けても知っている芸能人は一人もおらず、だが西暦は死んだ年とほぼ同じ。それだけじゃなくて!


 私は入学式を前にして、自室の鏡に手を突いて項垂れた。


「まあ、一華様どうしたのかしら?」

「きっと不安なのよ、私達がサポートしてあげましょう!」

「大丈夫よ、こんなに可愛らしい一華様だもの。すぐお友達も出来るわ」


 メイド達が見当違いな心配をしている。確かに私は可愛い、そこは客観的に見て断言出来る。

 クォーターのため、生まれつきのアッシュブロンドの髪。桜色の頬、潤んだ黒い瞳…子役ですか?と言いたくなる紛うことなき美少女である。

 追い討ちに超金持ちの一人娘!人生イージーモードの勝ち組じゃん!!と最初は喜びました。



 だ、が。今から数ヶ月前、篠宮学園という名を聞き私は絶望した。

 …なんてこった…!私、私…!すんげー惨めな当て馬女子じゃんか!!!


 それは前世でBL漫画を読みまくっていた中にあった。タイトルはずばり、『イケメン溺愛注意報発令中!』という作者と編集のセンスを疑う漫画。

 主人公を巡って、五人もの男が争うドロドロ展開モノ。その中で最終的に主人公と結ばれるメインヒーロー…沖原拓馬。

 私は彼の婚約者なのだ…!!はいはいテンプレ、漫画転生ですね!!と鏡を叩き割りそうになった。



 ふう…落ち着け一華。まず情報を整理しよう。

 主人公は高等部から編入して来る美少年、大橋優深(うみ)。中学までは…外国にいたんだっけ。

 メインの登場人物は、大体が幼少期から顔見知りである。優深は初等部の途中で転校して行ったんだが、彼が戻って来てから物語が始まる。



 はあ…乗り心地の良い高級車で学園へ向かう私。その間も嫌な想像は止まらない。

 一華は主人公カップルがくっつく為の当て馬だ。拓馬とは良好な関係を築いていたのに、高等部に進学してから一変する。


 拓馬は…誰もが目を張る美少年へと成長した優深に、一目惚れをしてしまうのだ。

 それからは一華と優深の間で揺れる心。一華はそれを悟り、あらゆる手で拓馬の気を引こうとする。

 拓馬はその姿を…醜いと感じるようになってしまった。彼女はただ、好きな男の子に自分を見て欲しいだけの…健気な子なのに…!!



「ハラ立つわ…」

「ん?何か言ったかい?」

「ううん、お父さま」


 いけない、今の私は可愛い幼女!一旦拓馬は置いておこう、顔が怖くなっちゃうもの☆



 さて、入学式も無事終了。これから懇親会だが…パーティーの規模デッカ。

 本当にここ日本?華やかなパーティーホール、楽団…美味しい料理にドリンク…これが上流階級。世界が違う…!



 てか、この中に拓馬も優深もいるんだよね…

 人が多すぎて分からないが、それは確かだ。拓馬は…父親が実業家で母親はハリウッドで活躍した女優だっけ。

 母似の拓馬はそれはそれは作品を代表するイケメンですわ。中身は二股野郎だがな!!

 私とは母親同士が友人関係で、それをきっかけに…


「一華ちゃん、向こうにお母様のお友達がいるの。あなたと同い年の息子さんもいてね、お友達になれるかしら?」


 ぶ…っ!!危うくジュースをこぼしてドレスを汚すところだった。

 このパーティーで私達は知り合い、すぐに仲良くなる。その様子を見た両家の親が「婚約しちゃう?」と軽いノリで決めてしまうのだ!!


 ならば簡単だ。私は奴と婚約する気はさらさらねえ、友達にならなければいい!


「はあい、お母さま!」


 にぱーっと笑顔で返事をして、お母様の手を取った。いかにも「お友達になれるかなあ?」と不安がる娘を演じる!!


「一華はまるで天使だなあ」

「ふふ、そうよねあなた」


 いやあ、親バカなところすまないが…私はこれからやらかすよ。でも月見山家の名前に泥は塗らんと約束する。


 本当は逃げてもいいけれど、避けては通れぬ道だ。ならば早めに通過する!

 相手はお子ちゃまだ、適当にあしらえばいい。知人以上友達未満をキープして、あんたらは十年後勝手に恋に落ちてくださいな。



「……ん?」


 お父様とお母様と歩いていたら、後ろから服を引っ張られた。

 振り向くと…うわ美少女!!じゃなくて…少年?

 白い肌、ふわふわの黒髪に深い青の瞳。まるで優深のような………は?



「「…………」」



 まるで、じゃない。これは優深だ。漫画で読んだ幼少期の姿そのものだもの。

 いや…なんだろうこの感じ?どこか…雰囲気が懐かしいような…


 両親は突然歩を止めた私に、どうしたんだい?と優しく問い掛ける。


「おや?君は…大橋財閥の息子くんかな」


 知ってるんかい、お父様?

 てか今の日本に財閥なんて残ってたっけ?やっぱ異世界なんだなぁ…と思考が飛んでしまった。


 優深は私の目から視線を逸らさない。私もじっと見つめ…彼がついに可愛らしい口を開く。

 それはとてもとても小さな声で、目の前の私にしか聞こえなかっただろう。



「………ねーちゃん?」



 …………お前かよ!!?




後悔はしていない…多分。

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