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4.魔女は幸せになりたい

 あれから半年がすぎた。戦が予想以上に長引く。

 ヴィクトルさんが武勲を上げる話がよく耳に入る。穏やかな顔と裏腹に、彼は誰よりも強い戦士だ。

 だからこそ心配だ。

 強くなるほど、前線に立つチャンスも増える。他の兵士を助けようと、敵と剣を交えるのかもしれない。


「どうか、彼が無事でいられますように」


 冬は温もりを奪うのと同じくらいに、彼への思いが募る。

 寒くなるにつれて、ガリーナ婆さんも家に引きこもり、ここに遊びに来る日も少なくなった。

 ガリーナ婆さんの家に訪れると、マフラーがなんと完成した。青色のマフラーを巻くガリーナ婆さんはとっても嬉しそうに笑った。


 寒くなったけど、薬作りはサボっちゃいけない。

 小屋の外のガーデンに行って、薬草を採った。

 ふいにメイフォンの木を目に映る。秋になった頃はたくさんのメイフォンを収穫したけど、ヴィクトルさんがいなくて、残念だった。

 ジュースは非常においしくて、ガリーナ婆さんも褒めてくれた。


 ――彼は今、なにをしていたのだろうか。


 敵と戦ってるのか。傷だらけになってるのかな。大丈夫のか。ちゃんと戻るのか。

 いや、彼は約束を律儀に守る人だ。きっと、戻ってくるはず。

 ふと、後ろから声が降り注ぐ。


「傷薬はあるのか」


 とても懐かしい声がした。

 振り返ると、ヴィクトルさんがいた。

 夢なのか。戦はもう終わったのか。無事に戻ってきてくれたのか。どうしてここにいるのか。

 話したいことが多くあるのに、頭は白紙のまま。


「あ、あります。ヴィクトルさんのためにたくさん用意したから」


 薬草を抱えながら、彼と一緒に小屋に入った。

 隣に立つ彼の姿に年月の流れを感じる。手に小さな傷があっちこっちにあって、目つきが鋭くなり、声も前よりもすこし荒っぽくなった。

 雰囲気が変わったみたいで、なにを話せばいいのか。戸惑うことばかり。

 薬棚を漁ってる間に、おどおどしながら考えた。


「あ、あの、私」


 傷薬を持って彼の元へ。

 すると、テーブルの向こうに座った彼が私よりも先に話をかけた。


「最初に出会った日もルフィナが似たような感じで話してくれたよな」

「うっ、覚えていたんですか」


 反射的に両手で顔を覆う。


「もちろん、覚えている。半年の間、一度も忘れたことはない」


 手を少し下げて、上目遣いで彼を見る。真剣な面持ちだった。


「ヴィクトルさん」

 手をテーブルに置いて、頭をあげた。彼は私の視線に気づいて、満面の笑みを浮かぶ。

 その笑みは昔みたいに、優しさが溢れていた。

 姿が変わっても昔のままだと確認した瞬間、思わず緊張した。やはり、彼のことが好きだ。


「――ルフィナ」

「は、はい、なんでしょうか」

「気づくのに半年くらいかかったけど、返事を聞いてくれるか」


 うん、うんと頷く。その瞳に魅入られるみたいに、身動きが取れなかった。

 深呼吸して。彼は。


「昔なら、騎士の任務だと、務めだと思うのだろう。でも今は違う。今ならわかるよ、ルフィナ。あなたのことが好きだ――――俺と結婚してください」

「け、け、け、け、結婚!」


 びっくりして訛りも隠しきれずに、椅子から飛び上がる。すぐに口を封じたが、彼はさらに追撃した。


「訛りがあっても好きなんだ」

「ヴィ、ヴィクトルさん」


 顔が熱い。うう、ヴィクトルさんはずるいよ。

 頭が真っ白になって、なにも思いつかない。訛りも好きだなんて、好きだなんて。

 しかもお付き合いからじゃなく、最初からプロポーズ。どういうこと。どういうことなの。


 返事は。返事はどうすればいいの。

 どうしよう。どうしよう。

 無性に手紙が書きたい気分だ。

 ダメだ、手紙に頼っちゃダメだ。


「今すぐに返事しなくてもいいから。落ち着いて」

「わ、私もヴィクトルさんと一緒に居たいんですう!」


 必死すぎて。声が裏返る。自分でもおかしいと思った。これって返事と言えるのか。

 彼は私の言葉につられて吹き出した、ごめんごめんと謝りながら。

 うう、やっぱり手紙のほうがいい。

 嬉しいけど恥ずかしい、ある雪曇りの日のことでした。

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