『好き』と自覚してしまったら……【好感度A】
私、レム・ミアガラッハ・リリアーナはナダ共和国の首都ノウムベリアーノに住む20歳。
この街で『ミアガラッハ猟団』の団長をしており日々書類に追われている。
最近身体がなまってきたからたまには荒事もしたいのだけど……
まあ、妹のスパーリング相手はしてるけどね……
仕事終わりに商業区となっている第3区を歩いている中、ふと店に飾られている1本のマフラーが目についた。
派手な色合いではなく落ち着いた雰囲気。柄もセンスが良い。
「これ、あいつに似合うかもね……………あれっ?」
私は今しがた呟いた一言に首を傾げた。
ちょっと待って。今私ったら、何を考えた?
そう、『あいつに似合うかも』って考えたわよね?
…………『あいつ』って……誰?
父様の事を『あいつ』だなんて言わない。
弟のホマレ?どっちかというと私の中では『あの子』だ。
何せいつまで経っても可愛い弟なのだ
となると近場で『あいつ』扱いする人といえば……そりゃ……ユリウス、よね?
「いやいや、それはおかしい」
何で私がマフラーを見てユリウスに似合うか否かを考えないといけないのだ。
でもこれ見れば見る程似合いそうだしなぁ。
いや、待って。似合いそうなのはいいとしよう。
あくまでそれ『感想』だ。このマフラーってユリウスに似合いそうだよねって立派な感想だ。
それで私はこれをどうするの気だったのだろうか?
「やっぱりプレゼントしようとか考えてるのよね……」
何ということだろう。
あのユリウスに、腐れ縁で何度振っても諦めないしつこい男に私が自らプレゼントを贈ろうなどとと考えているでは無いか。
おかしい。何故?もしや明日世界が終わるとでもいうのだろうか?
いや、待てそんな事を考えるには何か合理的な理由があるに違いない。
「そうか、誕生日が近いわ…………ってちょっと待って!」
新しい疑問が浮かぶ。
何で私があいつの誕生日を知っている?
そうだ、書類とかには個人情報が書かれているし本人が宣伝していたこともある。
更に言えば腐れ縁なので学生時代から知っている。
よし、誕生日を知っている理由は説明がついた。次!
誕生日を知っているというのなら猟団のメンバー全員がそうだ……いや、割と知らないか。
まあ、それは隅に置いておくとして……
では次に考えるのはわざわざ『ユリウスに』プレゼントを贈ろうとする理由だ。
「ま、まあそうね……日頃世話にはなってるし。そうよね、世話になっているというのは大きい理由になるわ」
「あらリリィ。あんた、店先で何をぶつくさ言っているの?」
「ああ、ケイト。実はユリウスにプレゼントを贈ろうと思ったのだけど何故そう思うに至ったか、贈る理由を検証しているところ……で………!?」
気づけば姉が隣でにたっと笑っていた。
「へぇ、あんたがユリウスにねぇ……」
「えーと…………」
私の顔はかなり引きつっていると思う。
「いや待って!これは違うのよ。ほら、あいつそろそろ誕生日なの。日頃のお礼とかしておくのがやはり副団長という役目を任せている以上は円滑な職務の遂行と関係性の構築には重要だと思ってその……」
はっきり言おう。自分で何を言っているのか割とわからない状態だ。
「あんたさ、前から思ってたけど……ユリウスのこと結構好きよね?」
「す、好き!?わ、私が!!?」
私がユリウスを?
好きってあの好きよね?
嗜好の問題ではなく恋愛と言う観点で見た場合のつまり性的な意味合いでの『好き』なのよね?
「待って。おかしいわ。あんた私が男嫌いなのわかってるでしょ?考えてみて、ユリウスのせいで私は家出までしたことがあるのよ?」
学生時代。姉の恋心を笑いものにしようとしたユリウスを投げ飛ばした私はその後ケイトと大げんかをして家出をしてしまい異世界にまで行ってしまったのだ。
色々な要素はあったが悪いのはユリウスだ。
「まあ、あれはね。あの時は大変だったわね。でも、あんたがピンチの時にあいつは何の迷いもなく異世界まで助けに行ったじゃない。それに何やかんやであんた達ずっと一緒に居るし」
「い、いやだけど……」
「あんた気が付いてないの?傍から見たらどう考えてもあんたユリウスの事が好きって感じよ?」
嘘……そんな、そんな事が!?
「思い返してみなさいよ。お化粧してみたり同じ本を買ってみたり、いじらしい所があるなって思ったものよ」
言われてみれば、最近ユリウスを発端として何かしらのムーブを起こしていた。
その際に揺れる奇妙な心の変化に恋愛という言葉を当てはめたら……
何てこと、全てが合理的に説明出来るじゃないの。
私は……ユリウスを男性として、恋愛対象として意識している……ということに……なるわよね。
「どう、自覚できた?」
「そ、それじゃあ私は……」
ユリウスの事が……『好き』。
「私の行動は……ユリウスを恋愛対象と意識して……あぁぁぁ、そんな、いやぁぁぁ……」
どうやら脳の処理が限界を超えたらしい。
思わず情けない声を挙げ両手で顔を覆うと座り込んでしまった。
「ちょ、リリィ!?こんな所で座り込まないでよ!!」
□
【ケイト視点】
妹を引っ張りながらカフェテラスに移動した。
まさかここまで自分の気持ちに自覚がなかったとは。
我が妹ながら世話が焼ける。
そして……
「あり得ないわ!私がユリウスの事を好きになってたなんてそんなの、そんなの酷いわ……」
「いや、酷いってねぇ」
「どのくらいから?どのくらいから私はあいつのこと好きだったというの!?」
本気で言っているのだからこの子は本当に……
「えー……それを他人に聞く?まあ、見ている感じだと学校卒業の辺りでは意識している感じだったかな?一緒に事務所立ち上げた時あたりでは『あれ、この二人付き合ってない?』って感じだったし」
正直、見ていてやきもきした。
あんた達、早く付き合え!と。
「う、うそでしょ……」
私の言葉に妹は恥ずかしさのあまり顔を覆った。
耳まで真っ赤になっているのが何だか可愛い。
「つまり、職場のみんなから見ても私がユリウスに好意を抱いているのがバレバレという状態ってことよね?」
そりゃそうでしょ。
気づかない方がおかしい。
「そういうことね。あんた、普段なら必死に否定するのに今日はしないのね」
「否定したいわ。でも……いくら理由を並べても最近の行動を合理的に説明できるのってこれしかないのよ」
合理的に説明出来ないと駄目なんだ。
結構めんどくさいわね……
「私がユリウスの事を好きだったなんて……どうすればいいのよぉ……」
「どうすればって両想いでしょ?自分も好きだって言って付き合えばいいじゃない」
「そうは言うけどね、私なんかと付き合っても不幸になるだけよ?」
「あんたねぇ、その『私なんか』の事を好きな男に片思いしてて失恋したあたしはどうなるのよ……」
そうだ。
あたしは元々ユリウスが好きだった。
ただ、彼が選んだのは自分を投げ飛ばした妹の方だった。
まあ、脱ぎ癖がある変態だったから結果的には良かったのだけれど……
「……ごめん。でも、何度も言うけど私は男の人が怖いの。触られたらきっとパニックになるわ。そんなの……あいつに失礼よ」
「うーん……」
言いたいことはわかる。
妹は学生時代に上級生から酷い仕打ちを受けて以来男性恐怖症だ。
父親と弟以外で触れる事が出来るのはしょっちゅう投げられているユリウスくらいだ。
あれ、そう見ると意外と上手くいってない?
「好きって気持ちを自覚する前は気にならなかった。でも今は……どうしよう。怖い」
「怖いって?」
「好きって自覚した以上はその先を考えるわ。でも先に進む為には『あの日』に向き合わなくちゃいけないの」
「そうね……」
「それに、向き合えたとしてもその事で拒絶されたらって思うとものすごく怖い……」
まあ、あいつに限ってそれはない気もする。
何せどれだけフラれてもアタックを続け妹の傍に居る事を選び続けたなのだ。
イケメンで金持ちなのだから探せばいくらでも相手はいる。
それでも尚、彼は妹を選んでいた。
ただ、言いたいことはわかる。
色々と考えてしまう妹にとってはどうしようもない恐怖なのだろう。
「……どうしよう。もう明日からどんな顔して会えばいいかわからない。部屋に閉じこもりたい……」
それは本当に洒落にならないから止めて欲しい。
学生時代のあの出来事で妹が引きこもった時、どれだけ大変だったか……
「普通でいいのよ。あんたがあんたらしくいられる、それがユリウスとの関係でのいいところよ?」
「普通で…………」
「先の事はどうなるかわからない。でもあんたがユリウスの事を好いているのは確かよ。だからね、自分の気持ちは偽らず。やろうと思った事をしてみたらどう?」
「うん……」
□□
【リリィ視点】
翌日、私は昼休みに仕事の話と称してユリウスを呼び出しふたりきりになった際、買っておいた例のマフラーを渡した。
「ユリウス、あんたもうすぐ誕生日でしょ?その、これ……」
「こ、これは……」
「い、いつも世話になってるし。その、お礼って言うか。あんた寒い日が続くのにマフラーもしてないから……ね?」
「ああ、ありがとう!リリィ君!!まさか君からこんな贈り物をもらえるなんて」
「従業員を労うのは……その、と、当然だから!!」
ダメだ。まだ素直になれない。
きっと『実は私もあなたが好き』って言えればきっと何かが動き出す。
だけどまだその覚悟はない。
それでも、ほんの少し、ほんの少しだけ前へ進んでいこう。