命の恩人
「離せ!」
私は腕を振り回すが、さすがに何人にも押さえつけられると抵抗出来なくなる。
「鈴麗様を助けたいのよ! いいから手を離して!」
「うるさい! 鈴麗様のご遺体になんという無礼を……絶対に許せません!」
わなわなと震えながら拳を握りしめて睨みつけてくる。
「まだ死んでない……んだよ!」
大人しくした振りをして力を込めると、女官達が驚きひっくり返った!
そのすきに鈴麗様に寄ってもう一度マッサージをすると……
「ブッハッ!」
鈴麗様が水を吐き出して咳き込んだ!
「り、鈴麗様! 大丈夫ですか⁉」
女官達がそばに寄ると私は力が抜けてドサッと後ろに座り込んだ。
すると、いいタイミングで呼びに行った医師が駆け付けた!
「また溺れる方が出たとか⁉ え? また王蘭様ですか!」
私を見るなり顔をしかめてくるので
「違います! 鈴麗様です! 今心臓マッサージをして水を吐かせましたが、まだ意識が戻ってません。後はよろしくお願いいたします」
「まっさあじ?」
「あっ……えっーと、どうにか飲んでしまった水を吐かせられないかと、色々やってみたら上手くいきました」
「そうですか……しかし王蘭様といい、鈴麗様といいこの池で溺れて助かるとは運がよろしいですな」
医師は鈴麗様の様子を窺い、命に別状は無いと判断したようだ。
しかし、この池で……という言葉が気になる。
だが今は悠長に話を聞いてる暇はない。医師は鈴麗様を連れて女官達と医務室へと向かってしまった。
「ふー……」
よかったと息を吐いていると……
「王蘭様……鈴麗様殺害未遂の容疑で拘束致します」
「え?」
同時に駆け付けた警備兵達に立ち上がれと冷たい目で見下ろされた。
「お待ちください! 王蘭様は鈴麗様を助けたのです!」
春さんが慌てて説明するが警備兵達は聞く耳をもたない。
「先程報告に来た女官達からはそう聞いている……話は後で聞くので今は大人しく着いてきて下さい」
「待ってください! 鈴麗様の女官達にもう一度話を聞いてください!」
「そうです! あの人達絶対に勘違いしてるんです」
春さんと凛々が必死に警備兵達に説明するが……
「女官ごときが口を挟むな、これ以上何か言うならお前達も捉えるぞ!」
警備兵達が春さん達に手をあげようとした。
「待って! わかりました、ついて行きますからこの子達に手は出さないで下さい」
私は慌てて二人を庇い前に出た。
「そんな! 王蘭様!」
「春さん、いいからここは大人しくしてて。きっとすぐに誤解だとわかってくれるわ」
だといいが……
春さんにはそう言いながらも、あの女官達の態度に話が通じるかはわからなかった。しかし、ここで揉めて春さん達まで捕まりでもしたらそれこそ助けるのは難しそうだ。
私は大丈夫だと笑って見せて、警備兵達の後を大人しく着いてくことにした。
「わかりました……でも服だけは着させて下さい!」
春さんの言葉に自分を見ると、薄い着物一枚になっていた事に気がつく。春さんは私が脱いだ上着を羽織らせてくれた。
「王蘭様、どうか大人しくしててください。鈴麗様の女官達に話をつけてきますから……」
そっと近づいて声をかけてくれた。
「ありがとう」
私は心強い味方に一人じゃないと力をもらい、笑うことが出来た。