救助
「そのままの意味だけど……そうね、他の人もいたら話しにくいわね……ねぇあなた達ちょっと席を外してくれる? 私、王蘭様と二人で話がしてみたいの」
「しかし鈴麗様!」
女官の一人が反対するように顔を歪めた。
見れば、春さんも眉をひそめ、反対だと言外に物語っている。
「お願い」
しかし、鈴麗様の言うことに逆らえるはずもなく、女官達は渋々その場から離れた。
離れはしたが、ある程度見える位置で待機している。でも、話が聞こえることは無いだろう。
「ごめんなさいね、それでなんで溺れたのかしら」
「そ、それは足を滑らせて……服の重さに耐えられずに上がって来れなかったのです」
「え? それだけ?」
鈴麗様はつまらなそうに顔をみつめてくる。
「はい……」
「なんだ……あなたは私と同じだと思ったのに……」
鈴麗様はこちらに興味が無くなったのか、立ち上がると池の方へと向かいだした。
「り、鈴麗様?」
嫌な予感に声をかけたが、鈴麗様はこちらの声など気にする様子もなく、私がまさに落ちた橋の上に行った。
そして同じように池を覗き込み手を伸ばした……
ポッチャン!
駄目だ!
あの人はあの時の私と同じ!
考えるより先に足が動いていた。
重い服を脱ぎ捨てて身軽になると、私は迷わず池へ駆け出した。
あの時は溺れたけど、前世は運動神経抜群だったのよ!
頭から池に飛び込み、沈んでいく鈴麗様を掴んだ。
鈴麗様は気を失っているのか、抵抗することなくダランとしている。そのおかげでどうにか水の上へと引き上げる事が出来た。
「こちらに!」
地上に上がると女官達が手を伸ばした。
鈴麗様を渡し、数人がかりで引き上げる。自分もあがると、凛々と、春さんが泣きそうな顔で迎えてくれた。
「王蘭様! 何度も……」
「ごめんね、でも今回は人助けだよ」
苦笑して布をもらい羽織ると鈴麗様の元に向かった。
「鈴麗様!」
女官達が必死に声をかけるが、鈴麗様が目を開ける素振りはない。
「ちょっとどいて!」
私はあわあわするばかりの女官達を退かし、鈴麗様の脈を測った。
これは……
私は鈴麗様の服を脱がせると心臓マッサージを施す。こんな時の為に授業を受けといてよかった!
交互に人工呼吸をすると、女官達から悲鳴のような声があがる。
「鈴麗様になにをする!」
私の肩を掴んだ女官が、私を鈴麗様から引き剥がそうとした。
「うるさい! 今助けてる! 邪魔するな!」
女官達の手を払い落とし、春さんを呼ぶ。
「春! 私の合図と共に私がさっきしたように鈴麗様の胸部を三十回押して!」
「え⁉」
「早く! いい! 肘は曲げずにまっすぐ下ろすのよ!」
「は、はい!」
私の真剣な顔に春さんは慌てて頷くと鈴麗様の胸部を押した。
「一、二、三……三十!」
春さんの心臓マッサージを確認してすかさず人工呼吸をする。
「ふー! ふー! はい! 押して!」
「は、はい!」
私達の行為に、鈴麗様のお付きの女官はみるみる顔を赤くして、怒りをあらわにする。
「いい加減にしてください! 誰か医師をそれに警備兵も呼んできて! この無礼な人達を早く押さえつけて!」
女官長らしき年配の女性が叫ぶと呆気に取られていた女官達が一斉に私達を押さえつけた。