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記憶


「ハッ!」

王蘭は意識を取り戻し、はぁはぁと大きく空気を吸い込む。

息が出来ることが、こんなにも幸せな事だったとは……

しかし、さっき見た夢……いや夢じゃない、あれは前世の記憶だ。

そうだ。私はあんな恥ずかし理由で死んだんだ……

王蘭は頭を抱えた。

「嘘でしょ……恥ずかしすぎる……あんな浅い噴水で溺れ死ぬなんて。しかも合コンの失敗でヤケ酒……」

あの時の酒が残って二日酔いでもしたように、頭が痛かった。

――ガシャーン! 

その時、大きな音が部屋に響いた。見ると、入口で女官が桶を落として驚いた顔をしている。

「王蘭様……!!」

駆けつけると、彼女は涙を溜めていきなり土下座をした。

「え⁉」

王蘭は驚き立ち上がろうとするが体が上手く動かせなかった。

ぐらついてベッドに手を付きよろめくと……

「ご無理なさらずに……王蘭様はずっと目覚めることなく寝ておいででした……」

震える声でそう言うと、

「私達が目を離したせいで王蘭様は池に落ち、助け出された時にはもう既に意識が……私共でどうにかお世話をしておりましたが……よかった……目が覚めて……」

そう言って本当に嬉しそうに目を潤ませる。

死ぬ前は、この子がこんなにも自分を思っていてくれてるとは気が付かなかった……

「ねぇ……あなた名前は?」

「はっ、はい! 凛々(リンリン)と申します。王蘭様が目が覚めるまでどうか世話をさせて欲しいと頼み込んでおりました……王蘭様の目覚めた今、どのような罰も受ける覚悟にございます」

凛々は頭を下げて決してあげようとはしなかった。


「凛々、こちらに……」

王蘭は頭を下げ続ける凛々を自分の方へと呼んだ。

「は、はい……」

凛々は顔を下げたまま王蘭の手の届く所まで近寄る。

彼女の肩は小刻みに震えている。凛々は幼く現代でいう中、高校生くらいに見えた。

「凛々、あなた年は?」

凛々は「なぜそんなことを……」とでも言うように、不思議そうな顔をしたが素直に答える。

「十三にございます」

「十三!!」

嘘でしょ! 中学生じゃない!

それなのにもう死を覚悟しているのか……

「凛々、あれは私が悪いのよ。自分で足を踏み外してしまったの……つい花に見とれてね」

そう言うと、凛々はハッとしたように私を見上げた。

私は笑ってウインクを返す。

「だからずっと看病してくれてありがとう。私にはあなた達しかいないのだから、これからもよろしくね」

「王蘭……様?」

驚く凛々を無視して、もう一人いたはずの女官は何処かと探す。

「あれ? もう一人居たわよね?」

聞けば、いつ目覚めてもいいように食事の用意をしてくれているとのこと。そんなことを聞いたら余計にお腹が空いてきた。

――くぅ~

お腹がなると、凛々がクスッと笑う。しかし、一瞬のち、さっと青ざめた。

「も、申し訳ございません」

再び床に額を擦りつけて謝る。

「いいのよ、それよりお腹空いちゃった! 凛々、早速ご飯お願い出来る?」

「は、はい! ただいま!」

凛々は慌てて立ち上がると、駆け出そうとする。

「あっ! 待って!」

慌てる凛々に声をかける。凛々が急いで止まって振り返った。

「なんでしょうか⁉」

「そこ……桶の水で濡れてるから気をつけて……」

先ほど凛々が水浸しにした床を指さす。

「あああ! すみません! すみません! すぐに片付けます」

凛々は慌てて駆け出し、その先ではまた何かを倒したような物音が聞こえる。

「あーあ、ああならないように声をかけたんだけど……」

私は苦笑して、パサッとベッドに仰向けに倒れ込んだ。

見慣れてるけど、初めて見るような天井を見上げる。

手を伸ばして自分の手を見つめると……そこには王蘭の手があった。

葵の腕はもう少し黒かったが、王蘭の肌は白く、傷もなく綺麗だ。

確かに王蘭として過ごした記憶があるが、そこに上書きされるように葵としての記憶が重なる。

「私は王蘭、でも葵……だった。そしてここは後宮……なるほどね」

これは転生って言うのかな?

葵は死んだ、そして王蘭も一度死んだ。

葵の死んだ理由は恥ずかしすぎるが、王蘭は?

以前の王蘭の気持ちが流れ込んでくるが、今の自分には理解できない。自分のしたいことをして、自分の思うことを口にも出せずに死ぬなんて……

後宮だから、女だからと、自分に人生を我慢するなんて葵にはできそうにもなかった。

でも、ここからはニュー王蘭として生きていかないと……

これからの事を考えると頭が痛くなったが、

――ぐぅ~

頭は痛くても腹は減る。

まぁ、とりあえずはご飯を食べてから考えるか……

王蘭はパタッと手を下ろした。

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