言葉
「わぁ……南明様ないです。本当にデリカシーがない……」
私は呆れて、眉を眉間に寄せて南明様を見つめる。
「で、でり?」
南明様が聞きなれない言葉にポカンと口を開けている。
「鈴麗様は今は体調を整える事が先決です。それを……これだから男は……こんな状況でそんな事が言えるなんて? 本当に女心がわかってないですね」
「な、なんでしょうか……少し難解な言葉が混じっていて意味がよく……?しかし貶される感がします」
「そんな事ないですよ」
私はニコッと笑いかけた。
「本当ですか……」
南明様にじっと見られるが嘘なら得意だ。顔色をかけずに目線を逸らさずにじっと笑って見せた。
「まぁいいでしょう……確かに私も余計な事だったかも知れません。とりあえず今は体を治すことを優先してください」
「はい、ありがとうございます……」
「では……」
今度こそと南明様が部屋を出ていこうとすると……
「申し訳ありません。最後に何か持ち出してないかだけ確認を……最近宝石類を持ち出す者が多くて、部屋を出る際に確認をさせて頂いております」
「杏!」
鈴麗様が止めさせようと声をかける。
「いくら鈴麗様の仰ることでもこれは譲れません……それとも何か王蘭様にお渡しした物でもあるのですか?」
「そ、そんな事は……」
鈴麗様が顔を背ける。どうも嘘は苦手なようだ。
「私は構いませんよ。何も取ってませんから」
私は調べて見ろとばかりに手を広げた。
杏女官長は少したじろぐがすぐに切り替える。
「それではこちらに……」
他の人に見えないように衝立で囲まれた所に連れていかれると体の隅々まで撫で回すように触られて確認される。
ガサッ……
胸元辺りを探られている時に杏女官長の顔がピクっと動いた。
「これは……?」
『それ』を取り出すと目の前に突き立てる。
「ああ、それは鈴麗様から頂きました。お見舞いのお礼だそうです。なんなら鈴麗様に確認してみてください」
「本当ですか?」
泥棒を見つめるような眼差しを向けられる。
「ええ! 確かに私が差し上げた髪飾りよ……。あなたも古くて汚いから捨てるように言ってたじゃない」
衝立の向こうから鈴麗様の声がかかる。
「宜しいのですか?」
「ええ、王蘭様にもらって欲しいと思ったの。私の話を真剣に聞いてくれた方だから」
「それは……失礼いたしました……。よく見れば大変お似合いですね」
ボロボロの髪飾りを見て、女官長は馬鹿にするように笑った。
「決まりとはいえ大変失礼致しました。こちらはお返し致します」
「いいのよ、鈴麗様があんな事故に合えばピリピリしてしまいますよね……これの価値もわからない方でなくてよかった。だから止めたんですよね」
クスッと笑って髪飾りを受け取った。
「なんですって⁉」
女官長は驚きに目を剥く。今までそんなことを言われた事がないのだろう。その顔は羞恥と怒りに赤く染まっている。
「じゃ、失礼します」
私は、何か言われる前にさっさと屋敷を後にした。
「クックック……あの悔しそうな顔を見ました」
私は外に出るなり気分よく南明様に声をかける。
「あんな嫌味言って……目の敵にされても知りませんよ」
「もうなってますから大丈夫です。あんなヒステリックばばあはおそるるに足らず!」
「ヒス…………先程から思いましたが王蘭様のその言葉はどこの国の言葉でしょうか?」
「あーこれは私が作った言葉だと思って気にしないで下さい」
「作った……では今のヒスナンタラはどういう意味でしょうか?」
「うーん……まぁ怒りやすく喚き散らす女……ってところでしょうか」
「王蘭様……結構言いますね」
「でもその通りでしょ?」
「確かに……」
南明様もあの女官長を思い出しているのか口の端がくっと上がった。




