話
南明は先生にお礼を言うと、今度は鈴麗の元を訪れる。
鈴麗は女官達に甲斐甲斐しく世話を焼かれていた。うんざりした様子で外を眺めながら、ベッドに上半身だけ起き上がらせて横になっている。
自分が来たことに気がつくと、さっと表情を強張らせる。それから、覚悟を決めたように姿勢を正した。
「南明様、王蘭様への誤解はとけましたか……」
少し悲しそうな顔で聞いてきた。
「それが……話す前に鈴麗様と話したいと何も話して下さらないのです」
私がそう言うと、話を聞いていた女官長がカツカツと足音を立てて近づいてきた。
「なんですかそれは⁉ あんな事をして鈴麗様と話したいなど……もちろん断ってくださいましたよね⁉」
女官長が凄まじい形相で詰め寄ってくる。
「やめなさい」
すると鈴麗が女官長をたしなめた。
「何度も言ってるでしょ、彼女のせいでは無いと……南明様そのお話お受けします。ですが私はしばらく動けそうになくて……」
顔色を見れば確かにまだ青白く、気分が悪そうに見える。
「ではこちらに王蘭様をお連れしても大丈夫でしょうか?」
「もちろんです」
鈴麗が頷くが女官長は人でも殺しそうなほど怖い顔で立っていた。
私は怖い女官長を無視してサッサと外に出て、王蘭様の元へと戻ることにした。
しばらく陛下を王蘭様と二人にしてみたが……変化はあっただろうか?
少しの期待を胸に牢屋へと急いだ。
南明は牢屋の前の兵士に声をかけ、階段を下りる。階下からは話し声が聞こえてきた。
内容までは聞き取れないが仁陛下が女性と話している事、それ自体が珍しく南明は足音を忍ばせて近づいていく。
「だから~こうですよ! こう! あー! 物覚え悪い人ですね」
「な、なにを⁉ 私は手先は器用なんだ!」
「これで?」
何やら揉めているような、呆れるような会話が聞こえる……そっと見つからないように顔を覗かせるが……
「あっ、きた!」
まさかの王蘭様にすぐに見つかってしまった。
「すみません……お待たせしました」
王蘭様は仁陛下と座っていた椅子から立ち上がって、こちらに早足で駆け寄ってくる。
「それで……?」
そして心配そうに顔を見上げてきた。
「おい! こっちはまだ終わってないぞ!」
すると、無視された仁陛下が、機嫌悪そうに王蘭様に声をかけた。
しかし王蘭様はもう既にそちらに興味が無いようで、仁陛下を無視している。
「クックック……」
そのいつもとは逆の様子に笑いが込み上げてきた。
「なにを笑ってる」
仁陛下に睨まれた。
「いえ、いつもならあなたが女性を無視しておいでなのに……と」
その事を伝えると、仁陛下は面白くなさそうに手に持っていた物を机に置いた。
「それは?」
二人がなにをしていたのか気になって思わず聞く。
「それよりも鈴麗様は?」
しかし、王蘭様はそれどころでは無いようだ。
「鈴麗様はまだ気分が優れないそうですが、王蘭様と話したいとおっしゃっております。なので出来るなら部屋に来て欲しいそうですよ。ただ、一応王蘭様は容疑者なので、私も同行させていただきます」
鈴麗様が会うと言ったと聞いて、王蘭様の顔には安堵が広がった。
「それで、次は私の番です。あの方となにをしていたのですか?」
「え? ああ、ここにいてもやる事無いので? 折り紙? で、千羽鶴でも折ろうかと……そしたらその人が、自分もやってみたいって言うんで、教えてあげていたのです」
「おりがみ? 千羽鶴?」
はじめて聞く言葉に私は首を傾げた。




