晩餐会2
「……王妃様にも同じようなことを言われましたわ。わたくしの人生ですからわたくしが考えて出した答えです。
人生は長いのですからどう言う選択になろうとも、わたくし自身で責任を取りますわ。失礼ながらわたくしは王女殿下に何か失礼なことを致しましたか?」
ハッキリと聞いた。
相手に攻撃をされる前に聞いておきたかった。この国の伯爵令嬢ごときが言ってはいけないことでしょうけど、もう心は南の国へ嫁いでますもの。
私を馬鹿にすると言う事はウェズリー様に対しても同様の事です。
「ジュール殿下の事よ! 散々誑かし捨てたくせに変わり身の早さに驚いているの。自分だけ他国に逃げるなんて驚いたわ」
「幼い頃から王宮に出入りさせていただき殿下と親しくさせていただいておりました。それは事実です」
「認めるのね!」
「わたくしは身分の低さから殿下をお慕いしていても結ばれる事は出来ませんもの。身を引くのは当然のことですわ」
「だから逃げたの?」
「はい。国にいては迷惑がかかると思いましたから単身叔母の家へ身を寄せました。元より王妃様からは殿下に婚約者ができるまでの出入りが許されていたのですから、遅かれ早かれそうなっておりましたわ」
「ジュール様が体調を崩されて、平気だったの?」
「それは存じ上げませんでした。わたくしはわたくしのことで精一杯でしたから。婚約者がいらっしゃるのに私のような身分違いのものがお側にいる事は出来ませんもの」
「よくも。まぁ、よく喋る口ね……身分違いというのならウェズリー殿下とも身分が違いましょう?」
「はい。わたくしもそう思っておりましたが、南の国ではそうではないようです。そして両国の陛下も婚約を認めてくださっていますし問題はないかと」
「生意気な口を! あなたなんて帰ってこなければよかったのに!」
手がわなわなと震えワイングラスを床に落とした王女殿下。お酒に呑まれているのかもしれませんね。
「はい、わたくしも三年間過ごした南の国が懐かしく思っております。既に故郷よりも居心地が良くなるとは思ってもおりませんでした。父との約束で戻ってきましたが、皆様からは歓迎されていないようですわね」
周りを見るとシーンとしていた。関わりたくないのだろう。
「この国にいる限りはこの国のルールがあるのよ?」
「はい、存じておりますわ。王女様はそれに則り行動をされている事も」
「……なんの、こと」
「わたくしは南の国に行って、世界が狭かったことに気付きました。国によってルールは違えど選択肢はわたくし自身にあるのですから、どう言った行動をすれば良いのかも」
「なにを言うの……」
「王女様がお生まれになった東の国はどう言ったお国柄でしょうか? 聞いた話によりますと、男女の差はなく女王陛下が民をまとめ生涯一夫一妻であるとお聞きしましたわ」
「そうよ……だから?」
「それなのにわたくしをジュール殿下の愛人に据えようとするのは、王女殿下の気持ちと反しているのではないですか?」
「……そんなこと」
「東の国は女王陛下の御世になり更に栄えられたと聞きました。身分差をなくし平民の方も王宮で仕事をされていると」
「……そうね」
「わたくしは……気さくで美しい王女殿下がジュール殿下のお妃様になると聞いて、とても嬉しく思いました。王太子殿下とブリジット様と手と手を取り合って良い国になると信じておりますわ」
王女殿下は黙り込んでしまわれた。何か思うところがあるのだろう。
「不敬だ!! この女を捕らえよ! 伯爵令嬢の分際で王女殿下に意見するなど、陛下に言って伯爵家はお家取り潰しだ!」
公爵がおっしゃいましたわ。そろそろウェズリー様が出てくる番でしょうね。
「不敬なのはお前たちであろう。黙って話を聞いていれば我が婚約者を乏しめる発言ばかりだ。ついでにお前の娘は私の母上をも侮辱したな? この件についてはしっかりと抗議させてもらうことにしよう。陛下がバカンスにとこの場を勧めてくれたが、ひどい有り様だ。陛下が仕込んだのか? 併せて東の国の女王へも抗議をする。この国の人間は来賓として招かれたものに対する礼儀を忘れたようだ。ミシェルの身分がどうのと言っていたが、近い将来王子妃となる。この国で言うとお前たちの方が身分は下になる」
席についたままテーブルに肘を突き、片手には顎を乗せて気怠い感じを装っているが相当怒っている様だった。
顔を青ざめる一同にウェズリー様は
「安心するが良い。婚約者ともども早々にこの国から出て行ってやろう。馬鹿なお前たちでも言っている意味がわかるよな? 高位貴族同士で婚姻を結びすぎて、遺伝子に影響でもしているのだろうか。言っている意味が分かるか? ミシェルの家がこの国にあるからと思い、大人しくしてやったのに……そろそろ我慢の限界だ」
恐らくこの一件で公爵家は良くて降格となるし侯爵家も降格……散々馬鹿にした一般貴族へ……
南の国からの抗議となると国同士の話し合いになる。一貴族がどうのできる問題ではなくなり先程公爵が言ったお家取り潰しだ。
「お許しください! ウェズリー殿下!!」
ここにいた者たちが皆頭を下げた。
黙っていたジュール殿下が席を立った。
「許してやる事は出来ないだろうか」
「ジュール殿下……何と慈悲深いお言葉を」
縋るようにジュール殿下を見る公爵達。
「先程聞いた話によると私たち先客がいたにもかかわらず、ジュール殿と王女が責任を取るから入れるようにと言っていたらしいな。その件をまず陛下に報告する。陛下が私たちにこの離宮行きを勧めた理由は、この国での諸々の差別について謝罪の意を込めてのバカンスだったのだが、バカンスどころか更にこんなことが起きた。この件に関して陛下が黙っていないだろうし、こんなことが二度と起きないようにすると言う陛下との約束が反故にされてしまった結果だ」
「そんなことが……」
皆が項垂れた。
「ミシェル部屋へ戻ろう、明日の早々にここを出る。やはり準備させておいて良かったな」
手を差し伸べられたので手を取り微笑む。
「はい。ウェズリー様、それでは皆さまお先に失礼しますわね」




