彼らと共に居られる所以
肩慣らし代わりの戦闘を終えた5人は、素材をユニアに預ける事となる。
「お、レアドロップの瞳があるじゃあねぇか。 今回灰狼で稼ぐつもりは無かったんだがなぁ」
それもそのはず、今日は6層に行く事が目的であり、この程度の魔物適当に蹴散らせばそれで事足りるのだ。具体的に言えばドーガを先頭にし、大斧を前に構えて通路を突っ走る。さらにアリサの補助も積めば灰狼程度その四肢を爆散させてなお余りある。
まぁ、5層最大の難敵と呼ばれる黒蛙が存在する限りこの案は現実的では無かったりするのだが。
そんな事を考えながらユニアはドロップ品を自前のリュックに詰め込んでゆく。
このリュックには下位の重力魔法が付与してある。効果はリュックそのものとその中身の重量の軽減。荷物持ちを始める前に全財産をはたいて購入した品で、丸まったユニアの体がすっぽり入ってしまう程に大きい。
ユニアはグロテスクというよりも宝石のような美しさを感じさせるその瞳を、モコモコした布に包みリュックへと放り込む。最適な保存方法ではないが今はこれ以上の方法は取れない為仕方ない。
その他にも毛皮などの素材を収納したリュックは、通常ならその重みにステータス2であるユニアの肩は負けるが、魔法の効果でユニアでも持てる軽さになっていた。まだまだ6層の魔物素材も詰め込まなければならないので当然だ。
5層の魔物の群れを3つほど蹴散らして進んで来た5人は、遂に6層への階段に辿り着いた。
その階段は暗く、6層の様子を覗く事は叶わない。微かに魔物の鳴き声が響いて来るのみだ。
どれ程の光であっても呑み込んでしまいそうな程の濃密な闇がその階段の先にある。ユニアは人間としての根源的な恐怖を感じる。
「よっしゃ、行くか!」「油断だけはしないで下さいね。常に予想外の事態を想定して動く事をお忘れなく」
何も考えていなさそうなアレンの声にアリサが小言で返す。わかってら、と返したアレンは多分わかっていない。人の話を聞かないのはアレンの欠点の1つだが、そこを補えるのもパーティの強みというものだ。
ドーガは今までもアレンの無鉄砲な所を見てきたのか、はぁ、と諦めを含んだため息をこぼしたのだった。彼は良いお父さんになると思う。
一同は6層に降り立った。
ユニアはよりいっそう身を引き締める。他のメンバーも息を潜め、先の見えない闇の中を慎重に進んで行く。
石橋を叩いて渡る緊張の中、パーティは分かれ道を選択しながら20分程をそのまま進む。そこで、先頭を進むドーガがゆっくり振り向いた。
「かなり大きめの部屋を発見した。地図を見る限り、ボス部屋ではない筈だが...ここまで大きな物は珍しい。危険性が高いと見てユニアを偵察に行かせたい。お前ら、いいか?」
その質問はユニアにではなく、他のパーティメンバーに向けられていた。ユニアに投票権は無く、全員賛成で結果は確定した。
「よし行け、"スライムもどき"。お前の活躍出来る場所なんてここしか無いんだからよ」
...来てしまった。自分の出番が。
誰もドーガの意見に反対しないので、自分は行かなければならない。──ユニアがどれだけ怖くて、不安で泣き出しそうでも。
ふぅ、と一息ついて小部屋の取手に手をかけ、一瞬躊躇したが振り切って一思いに開ける。
...ユニアはスキル《最低保証.ーーー》による副産物でとある特異性を保有している。こと未探索領域の偵察において、その特異性は非常に重宝される。
これが無ければ全ステータスが2しか無いユニアは役立たずとしてギルドから追放されていただろう。
全ステータス2の役立たずを1人前の荷物持ちに引き上げるその特異性。それは、「
───ぶつん、と。
ユニアの全てが空っぽになろうとしている。
「──────────────────?」
何がどうなった? それは、自分が地面に膝をつくことか。
あぁ、自分からながれ出ていく血が 。
なにしろ、自分の顔から鎌が痛い。
、眠い 。
ユニアが最後に見たのは、自分の顔から鎌が飛び出している光景──を映した何百もの眼球。ユニアが知覚する事は無かったが、それは昆虫の持つ特徴のである複眼だった。
ユニアの意識は深い死のまどろみに落ちていく。