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さいつよスライムもどき  作者: 根岸 葱
スライムもどきは世界を越える
17/73

悪しき秒針は誰を指す

 なんとか光源を確保したユニア。



 これで視界は確保した。化け物の中はゲル状の黒く半透明な塊で埋め尽くされており、もがくように手を動かせばなんとか移動できそうだ。


 このゲルの中に第三者は居る、はずだ。しかし、探そうにも光が足りずあまり奥まで見えない。

 闇雲には探し回りたくない。いくら時間があろうとも、この不快なゼリーの中に何時間も居られるものか。どうにか魔力を限界まで注ぎ込むイメージをするも、これでも己は限界でやっているようだった。


 無理だったので工夫を凝らし、光が進む方向を限定する。これで光を圧縮し、もっと遠くまで見渡せるように。


『厄災』の中を照らす。自分の心臓の音以外、何の音も聞こえない。夜闇を灯り1つで出歩くような恐怖がユニアを包み込む。


 焦りと恐怖が混在する中、どうやらユニアは幸運だった。色々な場所を照らしているとふと違和感を感じたのだ。暗闇しか映さなかった光が何か別のものを映し出す。再度その場所を照らす。


 すると、そこには心臓があった。


(?!)


 これは───『厄災』の心臓部か? (せわ)しなく四肢を動かし、どうにか近づいて観察する。スライムに心臓はないが『厄災』に同じ事が言えるかどうかはわからない。


 大きさは『厄災』の巨躯に見合わず人のものと同程度。薄く黒いピンク色をしていて、元気に脈打っている。吐き気がした。


(《鑑定》)



 ノヴァ ?歳 男 吸血鬼・真祖の子 Lv--- (弱化)


 体力 23/167

 魔力 12/47

 攻撃 174

 魔法 42

 防御 55

 魔防 56

 速さ 47


 sp:5


 《破損》《破損》《炎魔法.E》《自動再生.S+》《破損》...


『人類の敵』『真祖殺し』



(コイツだ!)

 ユニアと酷似したステータス。これが求めていた第三者。しかしその当人は心臓だけの無惨な姿になってしまっていて、会話は叶わないだろう。


 鑑定をするためにそっと心臓に触れていた。強く拍動し触れたユニアの手を押し返す、なんとも生命力に溢れた心臓である。けれど、その在り方は陸に打ち上げられた魚のようだ。


(吸血鬼、か)


 歴戦の傭兵でも裸足で逃げ出す、最上位の『魔族』。魔物とは違い人の言葉を介す存在のみが魔族と呼ばれる。吸血鬼の特性は異常なまでの再生能力と、森の中でのエルフにも劣らない魔法力、ただただ高い身体能力。一介のヒトが勝てる道理は無い。一応弱点もあるにはあり、銀の武器などだがそれらを常備している人間など千人に1人居るかどうか。


 それはこんな姿になってしまっても健在で、心臓単体でもこれだけの能力を備えているのはもう化け物冥利に尽きるだろうさ。


 これをどうすべきか?


 殺すか、生かすか。


 殺せばこの世界に生きる者はユニアと『厄災』のみになり、ユニアは『厄災』以上のステータスを手に入れる(おそらく)。生かしておいてはただこの心臓が脈打つだけ。ただ、血でも垂らせば復活する可能性はあった。


 ──究極の選択を迫られている。

 どちらを選べば自分がここから出られる確率が僅かにでも上がるのか。それだけをユニアは思考する。おそらく、会話が通じるのは吸血鬼であり、強いのは『厄災』だろう。

 吸血鬼を殺したなら脱出のヒントは得られず。吸血鬼を殺さないなら『厄災』には一生勝てない。



 結果──ユニアは選ばない。いや、選べなかった。


 吸血鬼の心臓に手を突き入れる事はせず、自分の肉を切って血を吸わせる事もしない。


 実の所、ユニアは人生でまともな選択をした事が無かった。親の手を離れて育ったから他よりたくましく育ったかと言えばそうでなく、目標により近い道を歩き続けただけ。分かれ道など出会った事がない。荷物持ちになったのは生きるため仕方なくだし、ここに来てからの全ては出るためだけの行動だ。


 答えの出ない問などユニアの専門外。だから仕方のない事だも言えるし、この場において最悪の選択である第三の選択肢を選んでしまったとも言える。


 時間だけが過ぎていった。






 そのまま、ユニアは停滞の海にぷかぷか浮かんでいた。くらげのように、波に揺られるがまま、自分から動く事もできず。ただ、次の波が訪れるのを待っている。


 手の上で光っている光球、あとユニアが泥のように眠っている。心臓はまだ勤勉な事に脈打っていた。


 ユニアは──目を開ける。


 寝ぼけた頭は大した事を考えられないが、思考が単一化した事で逆に考えるべきものを考えられる。すなわち、自分はこのままでいいのか。


 多分、否、だった。


 ここから出る。しかし、その後をユニアは好ましく思わない。戻ってもただ生きるために必死な日々、果たしてそれは生きていると言えるのか?...知ったことか。

 今のユニアの頭は欲求だけを吐き出す。

 父さん、母さんは元気か。あのパーティに自分を紹介してくれたギルド長は。好意的ではなかったけれど、尊敬していた、自分みたいなのを雇ってくれていたパーティメンバーは。結局何も返せなかったけどこれまで助けてもらったたくさんの人々は。


 ──彼らに、会いたい。


 こんな場所に来て、ようやくユニアは今までは恵まれていたのだと自覚する。確かにステータスのせいで難儀な人生を送ってきた。それでも、救いが無かったわけでは決してない。


 沢山の人と話し、支えられ、ユニアはここまで生きて来たのだ。今、心はひたすらに空虚だった。人との繋がりがユニアをなんとか善人に押しとどめていたのだ。


 だからごめん、ノヴァとやら。


 それが酷く自己中心的な考えだとしても。1つ世界線のボタンを掛け違えれば、ここに落ちてきた同士として会話を交わしていたかもしれなかったしても。


 ──自分は、外に出たいんだ。


 手のひらの光球をじっと見つめる。《光魔法》は魔の者に対して特効があった、はず。今まで照らすだけだった光球に、殺傷能力を外付けする。スキルを取得した感覚があるが無視。その光球を、



 心臓目掛けて振り下ろした。



 光球は夜闇のような黒を切り払い、吸血鬼の心臓を─────貫く。


 えも言われぬ感情を、黙祷と共に噛み締めた。



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