暗く黒く、底なし沼
ユニアは『厄災』の内部に侵入した。
ゲル状の物に体を包まれる。中は暗く、というか黒く外からの光を全く通さない。その分他の感覚が鋭敏になり、服に染み込む謎の液体が死ぬほど気持ち悪く感じる。
スライムに捕食された生き物はどうなるんだったか、とユニアは思い出そうとする。確かだんだんとスライムの持つ酸性に溶かされ骨だけになるんだっけな。しかし、自分は全く溶けるそぶりを見せない。やはりスライムとは違う生き物...なのか?
ともかくこんなに暗くちゃ何もできない、と解決策を探す。思いつくのは《視力強化》系、《光魔法》くらいか。
そして、ユニアは《視力強化》の取得を目指す事にした。理由は3つある。
1つ目は、コストが低いこと。《視力強化》の取得spが低いのは周知の事実であり、sp6では流石に足りないが恐らくこちらの方が取得は容易だろう。...ユニアはそう思っているが、実際は才能がなければどうにもならない。消費spが低いというだけで取得難易度も低いと思うのは単なる偏見であり、才能の有無にはなんら関係がなかったり。
2つ目はユニアの持つ《最低保証》との相性の良さ。ユニアの魔力は常に今のステータスの17/46で固定される。そのため持続的に魔力を消費するスキルとの相性が抜群なのだ。《光魔法》であれば魔力17以上の魔法は使う事ができないのであまり相性が良いとは言えない。対して《視力強化》ならば常に最大効率を出し続ける事が可能であり、圧倒的にこちらの方がが欲しいと言える。同じ魔力の光球を無限に並べるとかはロマンがあるが。
3つ目は《光魔法》の扱いの難しさ。これは何も《光魔法》に限った話ではなく、魔法全般に言える問題である。魔法とは本来師があってようやくまともに使えるもの。ユニアは何の工夫もなく水魔法をだばーと垂れ流しているが、普通ならそれをするのにも師の教えを乞う必要がある。ユニアの方が特殊なのだ。そんなユニアでも独学で水球を形成する事はまだできていない。《光魔法》を取ったとしても扱いに困るだろう。
そんなわけでユニアは《視力強化》の取得sp緩和もしくは無料取得を目指してみる。目に力を入れ(実際は瞼がぎゅっとしてるだけ。あほ)、暗闇の中を識別しようとする。
何も見えない。
それでも諦めない。《水魔法》の時に諦めない事が大事だとユニアは思ったのだ。最後の方に諦めていた事をユニアはすっかり忘れていた。
目が更に細められる。どんどん瞼が下げられ、目が1本の線になろうとした時──なんと、スキルを取得した感覚があった。
(来たが)
まさかこんなに早くスキルが取得できるなんて。今日はいい日だ。ユニアはつい笑顔になりながら、確認のために《鑑定》で自分のステータスを開く。
ユニア 15歳 男 Lv4
体力 23/168
魔力 17/46
攻撃 175
魔法 43
防御 56
魔防 57
速さ 48
sp:6
《最低保証.ーーー》《鑑定.D+》《死への恐怖.C》《水魔法.E-》《光魔法.E-》
「(???)」
《視力強化》は取得されず、その代わりと言わんばかりに《光魔法》が佇んでいた。
(...悩んでてもな)
色んな可能性が浮かんでは溶けて、闇鍋みたいになっている脳を一旦逆さにぶちまける。《水魔法》を才能とわずかばかりのspで取得出来たのに、それ以上を求めるのは傲慢だったかもしれない。が、それにしたってよくわからないのだ。《光魔法》取得に関連する事を行った記憶が爪の先ほども無く、どこまで行っても腑に落ちない。
まぁ、視界確保への道を1歩進めたと考えれば別に悪くない。むしろ両方とも適正が無いかもしれなかったわけだし全然良い結果だ。
(やるか)
魔法とは、魔力という見えない触れない物質を現実に存在する何かに変換する機構の事だ。その有り様は十人十色、人によって使う魔法が同じでも効果は変わってくる。
例えばサラの使う『炎弾』。あれは速度と威力に割り振り、起動速度と範囲を犠牲にした《炎魔法》。最も威力の高い魔法系統である《炎魔法》に適した割り振りだと言える。
《〜魔法》スキルを使う際にはスキル名ではなく、それぞれの魔法の名前を使う事が多い。魔法名を言うと魔法における重要な部分である想像力が裏側から固められ、再現性が高くなる。言わなくても使う事が出来るが、全体的に出来が落ちる傾向にあるのだ。
その点今回ユニアは光を放射し続ければ良いだけ。そこら辺特に考慮する必要はなく、魔力が尽きる事もないため多少の無茶も効く。
いざ。
魔力を右手に集め──ようとした。
なんか全身が光っていた。
(うわわ早いいいやちょ待って待って待って)
おかしい。明らかにおかしいのだ。漢字を書けるか確かめる問題で最初からなぞり線がついているくらいにはおかしい。
いや、確かに周りを見るという難関はクリアしたのだが。純粋に想定外過ぎて混乱を引き起こした。《光魔法》を使おうときただけなのにどういう事?
(しかも止め方がわからん! 一生コレとか嫌だぁ?!)
光は止む事を知らず、むしろだんだんと光量を増していく。目が焼けそうだ。
(うわばばばばとととりあえず操作できるか確かめよ)
再度、魔力を操作すべく右手に集中。光がだんだんと移動していき手のひらに集まる。光輝く右手から魔力を空間に留め、手だけ引き抜くイメージ。...成功、後には光球が漂っていた。危機は脱したようだ。
想定外を乗り越えつつ、ユニアは探索用の光源の確保を達成した。