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さいつよスライムもどき  作者: 根岸 葱
スライムもどきは世界を越える
13/73

広い部屋にただ1人

 血が止まる感覚。


 これは魔力操作に応用出来るのでは?



 ユニアは先程までの緩慢な動きからは信じられないほどの早さで脳を回転させる。


 生命の輝きを失わんとしているこの身の魔力は、血液と同じく亀の歩みのような速度で身体中を巡っている。


 ──これは、いける。


 激流の中に木の板を突っ込むのではなく、この程度のせせらぎにならば...


 その試みは成功。

 ユニアの魔力は掌に集中していく。


 水を出すイメージは──それを求める本能が嫌というほど発している。



 ここに条件は揃った。あとはユニアに水魔法の才能があるかどうかだけだ。


 水の女神、自分に力を──!


 普段は絶対にしないような神頼みも必死に行う。水魔法の才能が無ければ今までのあれこれは無駄になるし、ユニアの人生は実質的にここで詰みだろう。


 一世一代の大勝負。生き死にを賭けた今世紀最大のユニアの願いは──



 ぼすり、と魔力が抜ける。



 ...あと1歩だけ、届かなかった。


「──────。」


 失敗、した。魔力を集めるだけ集めた右手は水を出そうとせず、ただ床につっ伏している。ユニアの瞳から光が失われた。ここでユニアは動かない置物になっていくのだ。

 まぁ、これも1つの終わりだろう。ユニアは"自分"という存在に対する執着心をどうしようもなく見失っていた。


 最後に、ユニアは宝物である自分のステータスを開く。それはここに来て唯一勝ち取った希望。これを見て死のう、と思うほどの。


 まったく、これだけステータスが上がったのにspは上がらないなんてなぁ。酷い話もあったもんだ、なんて力なく笑ってみ



 その時。



 ユニアのspが、急激に0になる。


「...は?」


 そうして。


 突如、床に伏していたユニアの手が水圧で上に弾き飛ばされた──!


「は」


 水を浴びる。


「はは」


 瞳に光が戻る。


「ははは」


 先ほどまでの悲壮な笑みなどどこにもない。3日ぶりの潤いに、感情がまた再び湧き上がった──!


「あーーーっははは、はーははぁあぁあああっはっはっはっはっはっはあはあひはは!!!!!!!」


 まさしく狂喜、


 自分はまだ、立ち上がる事ができるのだ──!



 



「ふぅ」


 ちょっと落ち着いた。


 先程起きたのは、スキル取得に必要なsp量の軽減。世界的にあくまで都市伝説程度に扱われているほど事例が少なく、ユニアは知らなかった。何故かはわからないがたったのsp6で魔法を取得できたやったーとお得感を感じている。この事実を発言力のある人間が公表するだけで世界が激震するほどの出来事だというのに。


 消費したspはお得意の《最低保証》でまた6に戻っている。


 空腹は全然耐えられる。元々あのパーティに雇ってもらうまではずっと空腹で過ごしていたから、かなり耐性がついている。《飢餓耐性》とか生えてきてもおかしくない。


 すっかりたぷんたぷんになったお腹を揺らした。


 気分はだいぶリフレッシュできた。そして自分が寝ていないことにも気づけた。見知らぬ空間に来て精神が(ハイ)になり、それに気づけなかったのは仕方の無い事だろう。


 自分にはそこそこの水魔法適正があるらしい。パーティで荷物持ちをしていた時には、自分が魔法を使えるようになるなどと想像もしなかった。実に良い気分だ、と随分ごきげんにユニアは眠りに沈んでいった。






「...め!..サ......悪....」「こ...魔..子...」「..........鬼....」



 これは、何だ? 自分が夢を見ているのはわかっている。周りにはどこにでも居るような、それでいて全く見たことの無い幻影のような人々。



「駆..死...て..い...」「...ぁ..」「...様...けて..」



 虚構であるような、事実であるような。少なくとも自分はこの光景を見た事がない。何かが自分に向けて降ってきていると思えば、それは石。片方の目が潰れた。



「不...か...」「嘘..........や、ぁ」「や...て...」



 そして、潰れた目の()()()()()。失われた器官の再生、ユニアにとっては当然の事だが ...


 次第に何もかもぼやけて──朱色。


 きっと、何かがここで終わった。



 



「...?」何か夢を見ていた気がするが。少しも思い出せなくて、それが何故か悲しくて歯噛みする。


 なんだか、寝る前より疲れてしまったような感じがする。目の前には変わらないただ1色の白。


 ...白って、こんなに色が無かったっけ?



 



 その後もユニアは壁伝いに歩き続けて目印(化け物)のもとへと帰って来てしまった。


 このおおよそ1週間にのぼる探索で、ユニアは第三者を見つける事ができなかった。あと探していない場所と言えば部屋の真ん中か。


 どこかには居るはずなのだ。ユニアがそれを見つけていないと言うだけで。


 不安になる気持ちを、顔に水魔法をぶつける事で相殺する。ぷは、と豪快に頭を振り水を飛ばし、鬱屈とする気分を晴らす。まだ希望はあるのだ。弱音を吐くのは探し尽くしてからにしようと決意を新たにした。



 そして、第三者捜索からさらに二週間──ユニアは何者の影も見つけることは出来なかったのである。



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