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さいつよスライムもどき  作者: 根岸 葱
スライムもどきは世界を越える
12/73

隔絶された異次元の檻

 ユニアはここが自分の住んでいる世界とは別の世界だという結論に至る。


 つまるところ、アリサの言った『次元牢』は文字通り次元によって断絶された檻ということだろう。


 それと同時に、ユニアと同じだけの能力を持つ何者かがこの空間に居る、という事もわかった。



 目下の目標が決定した。この空間に居るユニアと『厄災』ともう1人(以上)。そのもう1人を探しに行くのだ。


 眼前の脅威はすっかり眠りこけている。善は急げ。さっさと化け物から離れてこの空間の探索に移ることにした。



 この空間はひたすらに広いひとつの部屋。上を見上げればそこにはただただ澄んだ白があり、天井があるかどうかは定かでない。周りは完全な円で囲まれているので、『厄災』という名の目印がいなければ早々に方向感覚をねじ曲げられていただろう。


 ちなみに壁はいくら殴ろうが引っ掻こうが傷1つつかない。目印をつけようとしたユニアの試みは失敗に終わった。


 ぐるりと辺りを見渡すが探し人らしき影は見当たらない。ユニアに見えるのは円の1割程度。そこから先は遠すぎてよく見えないので、探し人が居るとしたらそこだろう。


 唯一の目印である『厄災』の元へ戻って来れなくなっては(たま)らない、ということで壁づたいにこの部屋を回る事にした。これならば1周した時目印が見つからない、とはならないだろう。


 そうしてユニアは、先の長い探索を開始した。






 壁に手を当ててひたすら歩く行為は、変わらない景色のせいで一日目に飽きが来た。上がったステータスのお陰で以前とは比べ物にならないほどの健脚を手に入れたが、それでも一日中歩けば疲れる。


 そして、ユニアは現実的な困難に直面する。喉の乾きである。どうせ死ぬことはないので我慢しろと言われればそれまでなのだが、この渇望は誤魔化せるものではない。ここに水など無かったのだ。


 そこでユニアが考えたのがスキルの取得。《水魔法》を取ってしまえば今後給水に困る事はないし、なんなら空腹感も多少は薄れる。ここには食料もないのだ。


 以前の自分ではsp(スキルポイント)が足りなくて取れなかった数々のスキルも、今の自分なら取れるのでは──? と。ユニアは希望を持って自分のステータスを見る。



 ユニア 15歳 男 人間 Lv4


 体力 24/168

 魔力 17/46

 攻撃 175

 魔法 43

 防御 56

 魔防 57

 速さ 48


 sp:6


 《最低保証.ーーー》《鑑定.D+》《死への恐怖.C》



 そこには、sp:6という残酷な数値が。


「な"ん"て"た"よ"...!」


 ガラガラの喉を震わせて現実を呪う。たったのsp6ではユニアに最も必要のないスキルである《手加減》くらいしか取れない。


 しかし、実の所まだ希望はあるのだ。それはsp以外でのスキル取得。それに類する才能があればspを支払わなくとも勝手にスキルが追加されに来る事例があるのだ。実際、貴族なんかは生まれた時から親の優秀なスキルを継いで生まれてくる事が多い。流石に貴族ではないので生まれからスキルを持ってはいないが、才能があれば努力する事でもそれと同様の現象が起こる。


 事実、ユニアの《鑑定》はパーティメンバーの戦闘中、魔物の観察しかやることが無かったのでずっとしていたら生えたスキルだ。ユニアは実に微妙な気分になった。


 さて、そんなわけで現在ユニアは手から水が吹き出すイメージを保ちながら壁ぎわを歩き続けている。先に、自身の内にある魔力を感じる事ができるようになった。元々2だった魔力が急激に増えたため、違和感によってそれを知覚できたのだ。


 魔力を手に集めるようにして、形状化...とずっと思ってはいるが、どうにも難しい。なぜなら魔力は一定の場所に留まらないからだ。魔力は体の中を一定の速さで循環し続ける。これをせき止めて魔法に変換する、というイメージがどうにも湧きづらい。喉の乾きは今にも張り裂けそうなほどになっていた。






 ここに太陽や月もないので体感時間になるが、およそ2日目。そもそも自分に魔法の才などないのだ、と諦めそうになる思考をなんとか押し留めてひた歩く。眠らないことで陰鬱な気分が増していることにユニアは気がつけない。


 手から吹き出す水は無いが、汗腺から嫌な汗が染み出していた。白一色の部屋、しかもずっと変わらない景色。


 気が狂いそうだった。






 人間が水を飲まないで生きていられる限界、と言われる3日目。足は震え顔面は蒼白、何も溶けていない胃酸が勝手に逆流してくるような生き地獄。遂にユニアは膝を折った。


 これ以上は歩けない。生きていけない。ただただそう泣き叫び続けるだけの役立たずに変わり果てた脳は(いま)だに水を求めている。


 あぁ、この手から爪の先ほどでいいから水が出て来てくれないかなぁ。と、手から出る水を幻視してザラザラの舌を擦りつける。当然喉は潤わない。


 だんだん意識も混濁してきた。ここで終わりか、とぼんやりした頭で考えるが多分自分は死なない。ここでずっとこうして生きていくのかなぁ、とユニアは思う。そこに悲壮感は無い。感情を考える脳の機能は消失していた。


 体が、重い。肘から先は既に力が入らず、なんとか動かそうとしてもだらんと垂れるだけ。舌だけは水をを探し求めてチロチロと上下し、生き汚さを虚空に証明している。おそらくそろそろ体の全機能が停止する。だんだん血が止まるような感覚に襲われ、ユニアは──



 ──血が止まる、感覚?


 光明を見出した。



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