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さいつよスライムもどき  作者: 根岸 葱
スライムもどきは世界を越える
1/73

最弱より1強いだけの男

初投稿です。

 


「そっちに行ったぞ!!」「任せて!」「こっちに2匹ィ?!」


 見る者に言いようの無い不安を与える此処(ここ)迷宮(ダンジョン)。 古今東西、一攫千金を夢見た者が集う場所である。

 しかして常に死の危険が隣合うこの死地に集ったのは人族、いわゆる"冒険者"と呼ばれる集団だ。


 聞こえる声のような(つたな)い連携はいずれ致命的な(ほころ)びを生み、彼ら自身を殺すのだろう。だが、冒険者とはなにもそれだけではない。



「咆哮来るぞ!」

『ゲェッギョォォォォァァァッッ!!!!!』


 迷宮の奥の奥、ある一定以上の実績が無ければ立ち入ることの出来ない深層では、1匹の"魔物"と冒険者のパーティが激しい殺し合いを繰り広げていた。人族に仇なす存在である魔物を武器が捉える度、血が飛び散り、壁と床をびしゃりと汚していく。魔物の放った咆哮(ハウル)は空気をビリビリと震わせたが、冒険者を止めるまでには至らない。


「"炎弾"!」


 魔物の爪や牙は冒険者に触れる事すら叶わず、攻撃後に致命的な隙を晒し、突如空間に現れた燃え盛る火の球に焼き尽くされる。魔物は迫る焼死から逃れようとしてのたうちまわるが、やがてその動きは止まる。


「こいつで...終わりだァ!!」


 叫ぶように返答した男が大斧を打ちつけるように振るうと、ゴキリ、と嫌な音が響いて魔物の首が180°後方に折れ曲がった。頭の形が大きく変えられた魔物は手足を痙攣させた後、戦利品(ドロップアイテム)を残して空気に溶けた。

 戦闘の終わりだ。張り詰めた空気は次第にほどけ、冒険者の顔に楽しげな色が浮かぶ。


「皮だけか。ちぇ、しけてやんの」「でも、これで今日のノルマは達成できたみたいですよ。やりましたね」「アリサがそう言うならまぁ、いいか..... さっさと拾え、荷物持ち!」


 ...1人、その良感情が伝播しなかった者が居た。

 ここいらでは珍しい黒髪黒目を持ち、平均より低い身長、細い体躯(たいく)をした男。

 その男は先ほどの戦闘には参加しておらず、ひたすら目線を床に落とし続けていた。荷物持ちとはどうやら彼の事のようだ。男はこの世の諦念全てを混ぜ合わせたかのような声で答える。


「...わかった」「...間違えても盗んだりすんじゃねーぞ? "スライムもどき"」


 スライムもどき、などと呼ばれた男は露骨に嫌がるそぶりは見せない。ただ冒険者と目も合わせずに黙々と魔物が落とした素材をリュックに詰め込んでいるだけだ。この場に居る誰かが、惨めだな、と小さく呟いた。



 最後まで見届けることなく、冒険者達は迷宮の奥へ奥へと進む。

 残されたのはかつて夢を見た成れの果てがただひとつ。



 ──この男の名は『ユニア』。人呼んで『最弱の冒険者』だ。






 今日のダンジョン攻略は5層の半分あたりの所で終わった。



「今日はここで終わりにしましょうか。準備ができた人から転移石に触れるよ」


 丁度良い頃合いで終わりを切り出したのは、赤い瞳に焦げ茶色の髪と端正で美人めの顔立ち、そしてモデル顔負けのスタイルの女。魔術師の纏うような(すそ)の長いローブを着ている。


 彼女の名はサラ。

 実際魔術師であり、一撃で敵を燃やし尽くす高威力の魔法を得意とする。



「おっけ。行けるぜ」


 そう言ったのは動きを阻害しない程度に鎧を着た碧眼かつ赤みがかったオレンジの髪の剣士。


 彼の名はアレン。

 その身軽さで魔物を翻弄(ほんろう)し、味方との連携の幅を増やすアタッカー兼サポーターだ。やんちゃな顔に似合い、よく指示を無視して突っ走る。



「癖が抜けてねぇなぁ。荷物持ちが居るんだから帰る準備なんざいらねぇだろうが」


 うってかわって重厚な鎧を着込み、斧を持ち戦う戦士。灰の目は険しく爛々(らんらん)と輝き、彼の悪そうな人相(にんそう)をより悪くするのに一役買っている。


 彼の名はドーガ。

 防御も攻撃も一定水準以上にこなす戦士職のエキスパートだ。最初の『黒蛙』との戦闘で鎧に受けた傷は無い、と言えば彼の技量の高さを全冒険者が理解することだろう。



「冒険者の仕事に絶対は無いんですから。心配はすればするほどよい、とはあなた(ドーガ)の言でしょうに」


 十字架をベースとしたデザインの白の修道服に、サラのと比べるとやや小ぶりな杖を持つ。陽光を浴びれば月のように輝く金色の長髪、アメジストのような紫の瞳。戦場に居るのが信じられないほどに綺麗な顔は味方の無事に笑みを浮かべている。


 彼女の名はアリサ。

 直接戦闘をすることは無いが、仲間の身体能力を引き上げるバフや傷ついた味方を癒すなどの補助が得意だ。



 ここまでの4人はパーティメンバー。苦難を共に乗り越えて来た仲間だが、最近は外部の人間とダンジョン攻略を共にしていた。



「...」


 ここらでは珍しい黒髪と黒目を持ち、長い前髪で目の上半分を隠している。


 彼の名はユニア。

 "スライムもどき"などという蔑称(べっしょう)が付いて回る彼はここのパーティに荷物持ちとして一時的に雇われていた。ある事情により全てのステータスが2しか無いがこれでも立派な冒険者だ。やる気が有るのか無いのかよくわからない鈍重な歩みで転移石に触れに行こうとしている。



 全員が転移石に触れた。


「よし、飛ぶよ! "転移"!」


 青い石の輝きが一瞬強くなり、消える。目が潰れんばかりの輝きが消えた時には、5人は既に迷宮の外に立っていた。

 彼らの後ろを見てみれば、先の見通せない闇で埋まっている、真四角に地面を切り取ったかのような穴がある。それが彼らが今まで潜っていた迷宮だ。彼らは、迷宮の深層から一瞬で脱出に成功したのだった。


 誰が声をかけるでもなく彼らは歩き出す。


「そろそろ5層も余裕ができて来たな」


 ダンジョンから素材を換金するために冒険者組合───ギルドに向かう途中、このパーティは一日の振り返りを行う。これをする事で今日の反省を明日に活かし、付随して日々の迷宮探索にメリハリを付ける。

 ダンジョンという1度の間違いで簡単に命を落としてしまうような場所に、慣れという名の油断を持ち込まないように。意識を鋭利に保つことは冒険者にとって重要な課題のひとつである。


「明日から6層に行きたいのね。多数決にしましょう」


 時にアレンが言わんとすることをサラは瞬時に察する。これはサラの頭の回転が早いというより、アレンと同じ思考回路を頭の中に飼っているから起こり得る先読みである。要するに、サラはアレンの事をよく理解しているのだ。


 言いたかった事と相違は無いのか、特に言葉を続けずアレンは他メンバーの聞きに徹している。余裕がある、という事に関してはサラも同意見のようだ。アレンとサラはさらなる進出を目的に掲げたいらしい。


 迷ったのはドーガとアリサだ。この2人は賛成の2人よりも冒険者を始めてから長く、2人この決定に慎重になるのは当然だった。が、


「いいと思うぞ。俺の見立てでは8層までは安全策を取らなくても余裕で行ける」「私も同意見です。特例個体(ユニークモンスター)にだけは常に警戒をせねばなりませんが」


 彼らも同意見であるらしい。アレンは満足そうに鼻を鳴らした。


「一応アンタの意見も聞くわよ。どう」


 普段から腫れ物扱いされているユニアにも一応投票権はあるようだった。聞いてきたサラにユニアは小さな声で答える。


「...あんたらの決定に逆らう気はない。ついて行けなくなったら抜けるだけだ」「あっそ」


 サラは興味が無さそうな返事で返す。ユニアは一応冒険者としては先輩だ。ドーガ以下アリサ以上の期間冒険者業をやっている。しかし、先輩であってもユニアになら適当な態度でも良いという風潮がギルドに浸透していた。


 実際間違っていないだろう、とユニアはどこか達観した思考をする。自分だって先輩が平均より遥かに弱ければ敬う事はしないと思う。そんな事で一々心を乱すようならユニアはとっくに冒険者をやめていた。

 とっくの昔に全部諦めていたのだ。



 程なくして5人はギルドに到着したのだった。



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