第7幕
その日は久しぶりに天気の良い休日だった。3日ほど降り続いていた雨も止み、すっきりした初夏の風が吹いている。待ち望んだ太陽も出てきた、気持ちの良い日だった。私はカフェで紅茶を飲みながら新聞片手に彼を待っていた。彼にしては珍しくかなり遅れていたが、きっと寝坊でもしたんだろうと楽観的に考えていた。
約束の時間から1時間ほどたった頃だろうか。紅茶も2杯目にさしかかっていた。私の目にとある記事が飛び込んできたんだ。この間近くに開通したばかりの鉄道が、人を轢いたそうな。そこまで大きな町でなかったこともあり、鉄道がやってきた時には大騒ぎであったのを覚えている。随分と生々しい絵であったので、優雅な午後のひとときを過ごしていた私の気分は一瞬にして沈んでしまったよ。
その瞬間、嫌な予感はしたんだ。朝から切れた鼻緒に、連絡の1つもよこさず約束の時間にも来ない彼。目は子どものように光っていたものの、何故か悪かった先月の彼の顔色。
そう、あったんだ。彼の名前が、新聞に。一方的に彼が飛び出していったと言っている。大学の職員証で彼だと分かったらしい。昨日の夕方のことだと。ああ、思い返してみれば確かに組合の職員が騒がしかったような、なんて考えた。しかし、彼の1番の友人である僕が新聞で初めて彼の不幸を知るとは。
こんなことが起きていたなんて露知らず、私は一人楽しく紅茶を楽しんでいたワケだ。来るはずのない人物をまっていながらね。