プロローグ
初投稿です、よろしくお願いします!
少しでも楽しんでくれれば幸いです(・∀・)
【プロローグ】
遂にここまで来た。
『第39回高校バスケウインターカップ決勝 天神高等学校vs皇桜学園』
コートの中央で存在をこれでもかと言わんばかりに主張している垂れ幕に書かれたその文字を見上げ、私、九重雅は大きく息を吐いた。
「さあ、始まるわよ……」
自分に言い聞かせるように、そして震える膝を守るように前かがみになりながらゆっくりと呟く。
相手は王者皇桜学園。恐れはなくとも身体が震えてしまうような確かな緊張がそこにはあった。
ようやく、ここまで。
ようやく、この場にたどり着くことができたんだ。
敗北に敗北を重ねた。挫折にチーム内での衝突、そんなものなど数えてもきりがないほどいくらでもした。それでも諦めずに這いつくばり、失敗を繰り返しながら這い上がって、私たちはここまで上り詰めたのだ。
「やっと……」
そう、やっとだ。
やっと、この舞台まで昇ることができたんだ。
王者への挑戦。その言葉が文字通り表していることよりもはるかに重い意味を持っていることを私は知っている。20年連続日本一という偉業は伊達じゃない。そんな王者の名をほしいままに冠する彼らに私たちは本当に勝てるのだろうか。
ましてや、今年の皇桜学園は歴代最強と言われているのに、彼らは驕りもせず、付け入る隙を1ミリたりとも見せてやくれない。こんな王者に一体どうやって勝てと…
「だああー! だめっ! 試合前に何考えてんの、あほか私は! 」
思考がどんどんマイナスにいきかけてしまう自分の愚かな脳を揺らすように頭をぶんぶんと振り回す。となりでドン引きしているマネージャー?知ったことか。
とにかく、と仕切りなおすように私は再び大きく息を吐いた。
とにかくそのくらい強大な敵なのだ。
果たしてそんな敵に勝てるのか?否、そんな問いは必要ない。
「……勝つんだよ、私たちは」
私は、コート上でウォーミングアップを始めている5人を見つめながら静かに呟いた。冷めやらぬ興奮と高揚を抱えて、数十分後の試合を心待ちにしている彼らの表情を見て、思わず笑みがこぼれる。
彼らと出会って思えば2年の月日が流れていた。紅葉彩る秋の日に私は彼らと出逢い、彼らの才能に惹かれ、バスケに対する思いに惹かれ、そして何より、彼らの夢に惹かれた。
「日本で一番強いチームになる! 」
ばかばかしい、小学生が言いそうな、そんなざっくりとした夢だった。どうすれば日本一になれるのかなどは一切考えていないところが、また彼らのバカさ加減を表していたところでもあった。
けれども、そう言ってまるで子供のように目を輝かせた彼らのその目を、私は今でも覚えている。
あの目だけは、きっと私はこれからも忘れないだろう。
ダムダムッとコートで力強く弾むボールの音で意識が会場へと戻される。
会場に設置されたタイマーへと目を向ける。残り6分、そろそろだ。
「いよいよだね、雅ちゃん! 」
緊張と興奮のあまり、声が弾んでしまっているマネージャー、木下奏の言葉に私は苦笑いを浮かべた。
「と、とりあえず落ち着こうか、奏ちゃん」
「そ、そうだよねっ、おち、落ち着くねっ、うん! 」
カクカクとボトルを握る手が震えている奏を見ながら、私はおどけるように肩をすくめ、二人で笑みを交わす。
かく言う私も緊張はしている。……だけど、そんなことも言ってられない。
ブーーーーーーーーーーッ。
試合開始5分前を告げるブザーが会場に鳴り響く。と同時に、アナウンスの声が会場中に響き渡った。
『試合開始5分前になりましたので、各チーム準備を始めてください。なお、これから行う試合は
天神高等学校対皇桜学園の試合です。繰り返します。試合開始5分前に…』
そのアナウンスを皮切りに、コートから選手たちがベンチへと引き上げてくる。うっすらと肩から湯気を立ち昇らせて、すっかり出来上がっている彼らに、私は応援席に負けないような声量で声をかけた。
「皆、調子はどう? 」
その問いかけに、一際背の高い男が応える。
「おお、最高だぞ、こりゃあれだ、負ける気がしないなぁ」
「おい海翔、試合前にフラグ立ててんじゃねーよ! 」
海翔の朗らかな言葉に、思わずといった感じでつり目の男が突っ込んだ。
えー、フラグか? どう考えてもそうだろ。ああ、じゃあ30点は取れそうとか言ってればいいのか? だからそれもフラグだって言ってんだよボケェ! と、まるで緊張感の欠片もない、そんな言い合いに私は思わず吹き出してしまった。
「あー、大丈夫だわ、あんたら、うん」
笑いすぎて目元からあふれた涙をぬぐいながら、私はうなずく。
本来ならば、監督の私はそんな気の抜けた会話をしている彼らを叱責しなければならない立場なんだろうけど。
そんなこと、もうどうでもよくなってきた。むしろ今まで通りの彼らで安心してしまう。彼らなら、と思わずにはいられない期待と、胸の高鳴りを感じさせてくれる。
その時、パンパン、と手をたたく音が聞こえた。
「はいはい、お前ら。決勝前だぞ? 少しは緊張感持てって」
チームの主将であり、まとめ役の高森優があきれた声で二人をたしなめる。
「うーい」
「はいよー」
気の抜けた声で返事をする二人に苦笑する高森。まったく頼むぜ…と独りぐちりながら、5人を代表して私の方へと振り返った。
「それじゃあ、一言お願いします、監督」
その言葉に、私は大きくうなずくことで是を示し、ゆっくりと口を開いた。
「あんたたち、今までの日々を思い出して…今までおおk」
ブーーーーーーーーーーッ。
「えっ、もう!? 早くない!? 」
無慈悲にも試合開始のブザーが会場中に鳴り響く。
まだ何も話せてないですが!?
「かんとく……」
「ええっ!? 私のせいなのこれっ? 」
5人からどこか可哀そうな目で見られながらも、私はうろたえつつ「取り合えずコートに行けっ!」と彼らを送り出す。
『試合開始時刻になりましたので、両チーム整列してください』
アナウンスの言葉に急かされながら、私はコートへと向かう5人の背中に声をかけた。
頑張れ、と言うのも、絶対に勝ってこい!と言うのも何だかおかしな気がした。
ここまで来て、そんなセリフは彼らには似合わないと思ったから。
だから。
余計なことを言うのはやめにした。
「それじゃあ」
今の彼らには、きっとこの言葉が一番ふさわしい。
「精一杯楽しんできなさい! 」
そう言って、私は彼らの背中を思いっきり叩き、コートへと送り出した。
『只今より、ウインターカップ決勝、天神高等学校対皇桜学園の試合を始めます』
さあ。
運命の決戦と行こうじゃないか。
最後の舞台の幕が、いま、上がる。
これから少しずつ投稿していこうと思います。
面白かった!と言ってもらえるように頑張ります!
これからよろしくお願いします!