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自分で言っておきながら驚いたように目を見開くブライト。

だが、憑きものでも落ちたかのようにすっきりした心と身体に「あぁ・・・俺はアウロアを愛していたのか」と改めて気付いた。

ならば初夜の時に非処女である事を告げられ、胸の奥に生まれた醜い感情も説明がつく。

距離を常に置かれ、悲しくて切なかった感情も。閨で組み敷き、蕩ける様な表情に我を忘れて求め続けた事も。


全ては恋心からだったのだと。


報われない恋を一生懸命追いかけて、疲れた所にイライザが現れたのだ。

見計らったかのような、絶妙なタイミングだった。


いきなりの告白に言った本人も戸惑ったが、言われた本人はそれ以上に混乱していた。

「・・・・陛下?具合が悪いのですか?今、侍医をお呼びしましょうか?」

「どこも悪くない」

「ですが・・・・」

眉を寄せ心配そうな表情のアウロアに、ブライトは「今わかったんだ」と言いながら、先ほどエルヴィンが跪いた場所の反対側に跪いた。

「俺はずっとアウロアになんとも思われていないと思っていた。夫婦になっても親になっても。変わらないその態度に、戸惑いしかなかった。

だが、この誓約書を始めから読んでいたらこんな事態にはならなかったんだと・・・今更ながらに思った。全て、俺の怠慢だ・・・・」

本当に今更だと、アウロアは思った。

五年も夫婦生活をしていたのだ。情が湧かないわけがない。

仄かな恋心を抱いた時もあった。

だが、彼は何も変わらなかった。言わなかった。請わなかった。

誓約書を読んでなお、そうなのだとアウロアは判断した。


アウロアは愛を知っている。

亡くした恋人は文官系で頭脳派ではあるが、剣術体術的なものはからっきしだった。

反対にアウロアは頭脳明晰でありながら剣術体術、身体を使うものは全て取得している程、完璧に近い武闘派令嬢。

領地が国境を守る砦だった為に武に長けた者も多く、それが全て行儀のよい男達では無かった事から、必然的に揉まれに揉まれそこら辺の騎士にも負けないくらい強くなったのだ。

そして見た目は女神の様に美しい淑女の仮面を被ってはいるが、その本性は男勝り。言葉遣いも気を抜けば粗野になりがちだ。

彼女がその片鱗を少しでも見せれば男たちは「らしくない」と(たしな)めてくる。

完璧な令嬢に当てはめようとして、とても窮屈だった。

だが、彼だけは違っていた。そんな全てをまるっと包み込んでくれる唯一無二の人だった。

これといって容姿が優れていたわけではない。普通の、少し地味目な人だった。

だが、そんな彼に恋心を抱くのに時間はかからなかった。

玉砕覚悟で想いを伝えれば、嬉しい事に彼からも思いを伝えられ、すぐに婚約した。

本当のアウロアを知らない周りは、彼の事を「分不相応」だとか「権力を使ったんだ」とか陰口を叩く。

彼はフェレメン国の公爵家の次男だったから。

だが、アウロア達はそんな言葉などものともせず愛を語り合い、分けあった。とても幸せだったのだ。


だから、今のこの夫婦関係に愛があるとは思えなかった。

政略結婚ではあるが、それでも愛を育む夫婦は多い。

だがブライトとアウロアの間には、子供達に対する愛はあっても夫婦間の愛はない。


まさか、誓約書を読んでいなかったとは・・・・


誓約書を読んでいると思っていたアウロア。

誓約書を読まず舞い上がっていたブライト。


互いに歩み寄れるはずもない。

ある意味誓約書は、意に沿わない婚姻からアウロアを守る為の、鎧だったのだから。

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