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魂が抜けたかのような表情でソファーに座る国王に、アウロアは再度問いかけた。

「側妃にしたい令嬢とは、ドゥーエ侯爵令嬢イライザ様でよろしいですか?」

ブライトはのろのろと顔を上げ、肯とも否とも答えない。

「僭越ながら、彼女は止めた方がよろしいかと思います」

「え?」と彼女の顔を見るが、何の感情も浮かんではいない。

「陛下がどうしても彼女でなければいけないというのであれば、こちらからも条件を付けなくてはいけません」

「・・・・何故?彼女に何か問題でも?」

何の感情も浮かべることなく、まるで業務報告の様なその言葉に、ブライトは、ムッとする。

「大ありですわ。陛下は彼女の実態を知りませんの?かなり有名ですのに」

「実態?」

「えぇ。彼女、筋金入りの阿婆擦れですのよ」


―――やはり、俺の目は腐れていたのか・・・・

ブライトは、がくりと項垂れたのだった。


アウロアに代わり、エルヴィンがイライザの阿婆擦れ活動内容を、時を遡り懇切丁寧に説明した。

ざっくり簡単に言ってしまえば、イライザは他人の物を奪うのが大好きだという事。

学生の時にはギリ片手では間に合うが、数組の婚約を破棄させ、卒業してからも夜会に出ては男を物色し、手を付ける。

それは全て婚約者持ちの高位貴族を狙い貢がせ、婚約破棄させた挙句、最終的に捨てるのだ。

巷では『婚約クラッシャー』と呼ばれ、いまでは誰も彼女を相手にしていないのだという。

「恐らく彼女はまともな結婚は出来ないでしょうね。やもめの年老いた方か特殊な性癖をお持ちの方に売られるのが関の山でしょう。ですがそんな中で、陛下が引っかかったのであれば、彼女としては側室であろうと御の字なのかもしれませんわ」

あまりの内容に、ブライトは開いた口が塞がらない。

「彼女のあれは、全て嘘だったのか・・・・?」

「嘘というか・・・テクニックですわね」

ブライトの矜持も心も、ズタズタだった。

「それに彼女との間の子供は難しいかと思われます」

「こ、ども?」

何故そこまで話が発展しているのか、理解できないブライト。

「彼女は関係を持った男性との間で、何度か妊娠しておりますの。その度に堕胎しており、これから先、妊娠出来るかが微妙なのですわ」

「・・・・・・・・・・・・・」

今度こそブライトは言葉を失くした。

無邪気に笑い、フワフワと可愛らしいあの容姿で、人の物を奪い、挙句に妊娠と堕胎を繰り返していたのだと。

「それでもお迎えするというのであれば、彼女の立場を特別に用意しなくてはいけません」

「立場?」

「えぇ。徹底して日陰の女になってもらいます」

つまりは、人前に出るなという事。

「阿婆擦れで有名な彼女が側妃として、夜会などの公式の場に陛下と共に現れたら、王家の威厳をドブに捨てたのと同じ事になりますから」

そこまで酷いのか・・・・と、ブライトは情けなくなってきた。

「どうしても側室が欲しいのであれば、エルヴィンにお相手を選定してもらってください」

その言葉に涙が出そうなほど悲しくなり、誤魔化す様に誓約書に目を向けた。

そして偶然にも目を向けた先にあった文章を見て、目を見開く。


一、王妃、妻、は仕事であり、相手に対し恋愛の情を向けなくてもよい

  但し、互いに恋愛感情がある場合は、その限りではない


―――これは・・・・という事は、アウロアはずっと仕事として俺に付き合っていたという事なのか?

妻として王妃として・・・母として・・・は、あれは仕事ではないな。

俺が子供に嫉妬してしまうほど、俺と子供に対しての態度が違うのだから。

では、彼女は仕事として俺と情を交わし子供を産んだというのか・・・・


そこまで考え、思い当たる事がありすぎて思わず頭を抱えた。

子供が出来るまでは、毎日のように肌を合わせていた。

多少、心の距離感は感じていたが傾国の美女が妻であり、彼女を抱ける唯一の男なのだと、そう考えただけで欲情していたのだ。

だが子供が出来、生まれるとあからさまに夫婦の営みが減っていった。

寝室も別にする事が多くなったのだ。

それもこれも、彼女は世継ぎを産むという仕事を全うしたから。

自分の役割は果たしたのだという、意思表示に過ぎなかったのだ。


始めからこの誓約書を熟読していれば、きっと今とは違う関係になっていた、いや、なれていた。

ブライトは情けなくて情けなくて、今度は涙すら出てこない。

自分がまるでアウロアに距離を置かれていると、嫌われていると勘違いし、他に安らぎを求めてしまった。

彼女は始めからこうして文章で、己の立場を示していたというのに。


これから先の事を淡々とエルヴィンと話しているアウロアはやはり美しく、胸が締め付けられる。

そして、ポロリと言葉が滑り落ちた。


「アウロア・・・・愛しているんだ・・・・」


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