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5 ブライトside

たまたま一人で参加した、とある侯爵家の夜会に彼女はいた。

いつもは妻であるアウロアを連れて参加するのだが、子供の一人が熱を出し母親であるアウロアを離さなかったのだ。

仕方なく一人で参加する事となった夜会。側室制度があるが故、俺の側室になろうと寄ってくる貴族にあっという間に囲まれてしまった。

いつもはエルヴィンが捌いてくれるのだが、彼等の勢いの方が強く、されるがままになってしまった。

そんな状況に疲れ、こっそりと庭に抜け出し休んでいると、イライザが現れたのだ。

俺に気づき驚いたように目を見開く彼女は、アウロアとは違う、可愛らしい令嬢だった。

柔らかそうな茶色の髪に、垂れ目がちな青い瞳。左の目元には泣き黒子があり、可愛らしさと色気が混じった、なんとも言えない危うい雰囲気を醸し出していた。

始めは警戒しながら話をしていたが、聞き上手な彼女は俺の話をニコニコしながら相槌を打ってくれ、時に欲しい言葉をくれた。

アウロアに壁を感じていた俺は、するりと懐に入ってくる彼女を気に入ってしまったのだ。

聞けば婚約者も恋人もいない。年は二十三才だという。

両親からは結婚をせっつかれてはいるが、愛する人と結婚したいのだとその恋愛観を聞き、思わず大きく頷いてしまった俺。

正に俺が憧れていた結婚観と同じだったから。

其処から彼女に惹かれていくのに、時間はかからなかった。

エルヴィンに言えば「目が腐れている」「王族なのだから諦めろ」と言われる事は分かっていたから、極秘に彼女と逢瀬を重ねていった。

イライザとの会話はとても心地良かった。俺が欲しいと思った時にさりげなくその言葉をくれ、無邪気とも思える笑顔が俺を癒してくれた。

だが、彼女には指一本触れることはなかった。彼女の方から、触れてくることはあったが、それを躱せばどこか不満そうに睨まれる。それも可愛らしいのだが・・・

アウロアの事を、子供達の事を考えると、今一歩踏み込めなかった。

父親が側室を持ち、悲しんでいた母の姿を思い出すから。

アウロアや子供達に同じ思いをさせたくはない・・・そう思ったが、イライザと会うたびやはり彼女の側に居たいと思ってしまった。


そして俺は彼女に伺いを立てたのだ。

―――「側妃を迎えようと思うんだ」と。

だが返ってきた言葉は殊の外あっさりとした了承。少しは嫉妬してくれるのではと、どこかで期待していた。

そんな期待を裏切るだけではなく、夫婦関係も終わりだと言われたのだ。

一瞬にして頭の中は真っ白になり、どうして・・・という言葉がグルグルまわる。

俺がこんなに取り乱しているのに、あろう事かエルヴィンがアウロアに求婚していた。

思わすカッとして「ちょっと待て!!誰が離縁すると言った!!アウロアは俺の妻だ!!」と叫んだが、「もう、妻ではないでしょう」とエルヴィンにしれっと言われる。

「そんな事は無い!アウロアは俺の妻であり、王妃だ!」

怒りのあまり声を荒げると、アウロアは呆れたように俺を見ていた。

その眼差しが胸に刺さり、とても痛い。

これまでも距離を感じていたものが、更に距離を置かれ永遠に埋まる事が無いのではと、恐怖に震える。


何故こんなにも辛い?

イライザを側妃にして、癒して貰えばいいじゃないか。

それを望んでアウロアに伺いを立てたのだろう?

なのに彼女は・・・嫉妬すらしてもらえず、あっさりと他の男に乗り換えようとしている。

今までの俺達の関係って、こんなにも簡単に終われるものだったのか?

たった五年だが、俺達は本当に夫婦だったのか?

胸が痛い・・・苦しい・・・


側妃を持つことを了承されたのに、それが今度はとても腹立たしい。

誓約書に側妃の件を盛り込んでいたという事は、いつかこうなると分かっていたという事なのか?

内容をすっかり忘れていた俺が悪いのだろう。

アウロアを失う覚悟もなく、自分の欲望の為だけに側妃を求めた俺が。


痛む胸を押さえ呆然とする俺に、アウロアが淡々と言葉を紡いだ。


「陛下、そろそろお話を詰めてもよろしいでしょうか?」


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