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結果的に、猶予期限の三月前にアウロアとブライトは本当の夫婦となった。
そして、その数か月後にはアウロアの妊娠が発覚。
その事実は、ブライトの妻に対する溺愛ぶりを見れば「当然だろう」とヴィルト達は呆れたように、そしてどこか安心した様に笑った。
もっと早く和解するだろうと思っていた側近達だったが、意外とギリギリまで拗れていた事にハラハラしていたのだ。
これまでもブライトとアウロアの仲の良さ(公の場での)は、世界的にも有名だった。
それは、アウロアが傾国だった事が主な原因でもあった。
その美しい姫君が我が国の王子を選んだ(政略だが)事に、国民たちに優越感が生まれ、国王夫妻の自慢話を他国の人達にする事が多かったからだ。
離婚危機にあったことは国民は知らないが、和解してからの国王夫妻の今まで以上の仲の良さ。
特に王妃に対する国王のこれまで以上の寵愛ぶりは、今までの噂を上書きするかのように国中に知れ渡り国民を安堵させ、王妃の懐妊という吉報と共に喜びに沸き立っていた。
結果論となってしまうが、ブライトが風邪をひいて寝込まなければ、きっと二人は離縁していたかもしれないとヴィルトやエルヴィン、子供達はこの僥倖にほっと胸を撫で下ろす。
ぱっと見た感じの国王夫妻は今までと変わっていない様に見える。
まるで猶予期間を彷彿とさせる様にブライトが妻に纏わりつき、鬱陶しそうに夫をあしらうアウロア。
今までであれば甘い雰囲気になどなる事がなかったが、今ではブライトの猛攻にアウロアが折れる形でイチャイチャしはじめるのだ。
「まったく、結婚してから今まで何だったんだ?ってな位の溺愛っぷりだな」
「本当に。人騒がせな二人だよ」
「だが・・これはこれで、何か腹立つな・・・」
「まったくだ」
文句を垂れるヴィルトとエルヴィンの目の前には、アウロアを膝に乗せ優雅にお茶を飲むブライトがいた。
はじめは抵抗していたアウロアだったが、慣れと諦めで今では大人しく膝の上に収まっている。
愛する妻のお腹の膨らみも目立ち始めると、溺愛に過保護がプラスされたブライトは、ヴィルト達からしてみれば鬱陶しさ倍増である。
いつもであれば、人目も憚らずイチャイチャしはじめるブライトなのだが、今日は少し様子が違った。
何処か硬い表情でアウロアに一枚の紙を差し出した。
「これは何かな?」
「あら、これって・・・・」
その紙には、十人の男の名前と経歴などが事細かに書かれていた。
「私の恋人候補ですわね」
あっさりと答えるアウロア。
「こっ・・・恋人・・・?アウロア!!?」
「だって離婚するつもりだったんですもの」
ブライトは面白いほど動揺し、アウロアの腰に回していた腕に力を込めた。
「いつの間にか無くなっていたので、探していたのです」
「えっ?何で?もういらないだろ?!」
「確かに。でも個人情報満載ですから。間違って誰かの手に渡ってしまったら悪用されかねませんし、ちゃんと破棄しないと」
それにしても何故ブライトが持っているのかと、アウロアは首を傾げた。
「何故、陛下が持っているのですか?」
「・・・・書類に交じってた・・・・」
そんな事あるわけないでしょ・・・と、アウロアがエルヴィンを睨み付ければ、意味ありげな笑みを浮かべながら彼等二人はそそくさと部屋を出ていってしまった。
何故今更これを出してきたのか・・・アウロアは考えるも心当たりがありすぎて分からない。
―――ここ最近、目の前で繰り広げられる、国王夫妻のイチャイチャに対しての嫌がらせ。寂しい独り身のささやかで可愛らしい反撃なのだろうか・・・と。
だがアウロアにとっては全く可愛らしくも感じず、彼等にどう報復しようか考えながらブライトを見れば、まるで敵にでもあったかのような顔でリストを睨みつけていた。
「陛下・・・そんな顔をしないで。これは、私が責任を持って処分しますから」
そう言いながら紙を取ろうとするが、ひょいと避けられた。
「陛下?」
「いや、これは俺が責任を持って処分する。・・・・所でアウロア、聞きたいのだが・・・」
「何ですか?」
「この、リスト・・・アウロアが選んだの?」
「えぇ。そうです」
「・・・・・・・・・・」
「どうしました?」
「という事は・・・この者達は、アウロアの好みという事か?そうなのか?!!」
その必死の形相に、思わずドン引きしてのけぞってしまう。
確かに好みと言えば好みの者をピックアップはした。
というのも、ブライトとの結婚生活に夫婦としての愛情が無かったと思っていたので、そうならないために外見より内面重視で選別していたのだ。
「確かに好みと言えば好みかもしれませんわね」
あっさりと頷く妻に「・・・・アウロア・・・」と、今にも泣きそうなブライト。アウロアは困った様に笑いその頬を優しく撫でた。
「心配しなくても、今、私が愛しているのはブライト様ただ一人です。子供も生まれるというのに、心配なさらなくても大丈夫ですわ」
「その『今』って何?!『今』って!其処は『死ぬまで』って言って欲しい!俺は命尽きるまでアウロアを愛するのに・・・」
そう言いながら抱き着いてくる夫に『あぁ・・・めんどくせぇ』と心の中でぼやきながらも、宥める様に背を撫でた。
だがそこはやはり惚れた弱みなのだろう。心の中では言葉穢く文句を漏らすも、こんな紙切れ一枚に嫉妬する夫が可愛くてしようがない。
「ブライト様、拗ねないで。この命尽きるまで、私は貴方のモノでしょ?」
「アウロア!!勿論だよ!俺もアウロアのモノだ。俺の場合はこの魂そのものがアウロアのモノだ!」
・・・・・あぁ・・重い・・・・
感激した様にアウロアを抱きしめ、キスの雨を降らせるブライトは、愛しい妻が心の中でそんな事を思っているなど、露程も思っていないだろうし、知る必要もない。
お互いが幸せであればいいのだから。
ブライトがここぞとばかりにべたべたしていると、イーサンとシャーロットが乱入してきた。
アウロアの妊娠を機に、双子は毎日のように母親の元へとやってくる。
そして、優しくアウロアのお腹を撫でながら語り掛けるのが、日課となっていた。
まだ生まれていない小さな命に夢中な双子に対し、見向きもされない、いじける父親。
ここ最近の、恒例の風景である。
「おにい様だよ。いい子にしてたかい?」
「おねえ様よ。今日はお庭にお花を植えたお話をしてあげるわ!」
「二人とも、お父様の事忘れてないかい?」
自分のお腹を中心にワイワイしはじめる家族に、ふとアウロアは思う。
結婚した当初は、こんな風景を思い描いていた。でも、待っていた現実はそれとは程遠いものだった。
ある意味ブライトの側室発言は、夫婦の関係を正常に戻すための、良い機会だったのかもしれない。
互いに顔を背けたままそれを受け入れていれば、この日常は上辺だけのものになっていたに違いないから。
だからこそ、この先何があっても、この風景は守っていかなければと強く胸に誓う。
そして、心から思うのだ。
―――・・・幸せだなぁ、と。




