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4 ブライトside

「では今この時を以て、我々の夫婦関係は終了いたします」


アウロアの言葉に俺は、何を言われているのか全く理解できなかった。

側室を持ちたいと言っただけで、何故だ?

結婚誓約書に書かれていると言われエルヴィンに渡された誓約書には・・・・確かに書かれていた。


俺とアウロアが結婚したのは五年前。まだ王太子だった時だ。

二十才を過ぎれば婚約者どころか結婚していてもおかしくはないのだが、俺はなかなか良縁に恵まれる事は無かった。

というか、良いなと思った女性はことごとくエルヴィンに却下される。彼曰く、俺は女性を見る目が無いのだと言う。

ムカつくが、確かにそうだと思った。エルヴィンからもたらされる令嬢の本性を見聞きすれば、自分の見ていた令嬢は何だったのかと、己の単純さにほとほと呆れてしまう。

そういう事が何度かあってから、女性とは距離を置く様になった。

そんな時、フロイデン辺境公の娘はどうかと父に言われたのだ。

フロイデン辺境公の娘。アウロア・フロイデンは傾国の美女としても有名だった。

彼女は夜会嫌いで有名で、これまでに一度しか王都の夜会に参加した事が無い。所謂、成人を祝うものだ。

運悪くその時の俺は体調を崩し、その夜会には参加できなかった。

その夜会の後しばらくは、アウロアの話題で持ちきりだった為、会った事は無かったが、噂だけは聞いていた。


腰まである長い髪は輝く星の様な銀髪で、まるで宵闇を思わせるような藍色の瞳。新雪のような肌にぷるんとした唇。容姿もそうだが貴賤の差別なく平等で、誰に対しても気さくという性格も好まれていた。

見た目からは想像できないが、意外と男勝りな所があるらしい。

既に隣国の王太子はアウロアに夢中だと言われている。

だが当時、彼女はその隣国に留学しており、留学先の貴族令息と婚約したと風の噂で聞いていた。

カスティア国の男達は、見たことのない隣国の令息に嫉妬しまくっていた事は未だに記憶している。

だが、彼女が十七才の時に婚約者を病気で亡くした事を聞いた。

俺の周りの男たちは、チャンスとばかりに弱っている彼女に付け込もうと公爵領を訪れようとしたが、ことごとく追い返されたという。

そしてそれから三年後、国王である父からフロイデン公爵令嬢との縁談を薦められたのだ。

恋愛結婚に憧れていた俺だったが、エルヴィンから「それは諦めてください。貴方の目が腐れているので」と言われ、取り敢えず会おうと思った。

噂の傾国の美女に興味があったから。

だが、縁談はことごとく先方から断られていた。と言うのも、フロイデン公爵領はカスティア国にありながら、独特の文化思想を育んでおり、当主には男子でなければならないという固定観念が存在しなかった。

だから、次期公爵当主はアウロアがなる予定だったのだ。

自分的には「それなら仕方ないよね」と言う感覚だったが、父は違ったようで領土が国の三分の一を占める公爵を警戒し、公爵家を抱き込みたくて縁談を強引に進めようとしていたのだ。

恐らく、あんなにしつこく迫らなければ、フロイデンは公爵のまま国を支える強固な礎でいてくれたはずだ。


父は間違えたのだ。


王命まで出して進めようとした縁談。当然、公爵は怒り反旗を翻し、独立してしまった。

対等な立場となったカスティア国とフロイデン国。・・・というが、遙かに軍事力や経済面でフロイデンの方が上だが・・・

同盟を築くためにと、未だ諦めない父に向こうが折れる形でアウロアが嫁いできてくれたのだ。


初めて彼女を見た時は、あまりの美しさに本当に同じ人間なのかと疑ったくらいだ。

話してみれば、身分を鼻にかけることなく気さくで、話題も豊富。正に噂通りの人だった。

好意を持つなと言う方が難しい。

結婚に関しても彼女の要望をふんだんに盛り込んだ誓約書を作り、互いに納得し結婚した。・・・・はずだった。


初夜の時にはアウロアから、自分は処女ではないと告げられ、ショックを受けた事を覚えている。

何故、あんなにもショックだったのかはわからない。彼女には結婚間近な婚約者がいたのだから、身体の関係があったとしてもおかしくはないのに。

思わず顔に出てしまっていたのだろう。俺の表情を見て彼女は「では貴方は、童貞ですか?」と聞いてきた。「否」と答えれば「あなたが童貞ではないのに、何故私が処女でなければいけないのでしょう」と、当然の事のように言われ、これにもまた驚いた。

カスティア国の基準では令嬢は結婚するまで処女である事が好ましいと言われていた。

だが、男女平等を謳い恋愛結婚を推奨するフロイデンでは、それが差別だと言われているのだ。

文化思想の違いは聞いていたので、其処は互いに納得しあわねばならないなと話し合い、初夜は滞りなく進められた。

だが、心の奥底にドロッとした暗い感情が生まれてしまった事は、気付かれないようにした。

それが嫉妬なのだと、その時は自分も気付かなかったのだから。


彼女との結婚生活は表面上は穏やかに過ぎていった。

翌年に父が亡くなり王位を継ぎ、子供もできた。双子の可愛らしい兄妹。

家族四人で過ごす時間は何物にも代えがたく、幸せだった。

だが、アウロアは何処か一歩下がった距離で家族、いや、俺と接している。結婚してからずっと。子供が出来てもだ。


彼女は自分を何とも思っていないことはわかっていた。

政略結婚だが、いずれは気持ちを預けてくれる時が来ると思っていた。

亡くした婚約者をまだ忘れられないのだろうかとも考えた。

だが、子供が出来ても、彼女は変わらなかった。


そんな時だった。ドゥーエ侯爵令嬢イライザと会ったのは。

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